驚きのハイコスト・パフォーマンスを実現したニアフィールド・モニター

CLASSIC PROEX-10M
現在、数多くのニアフィールド・モニターが各社から発売されていますが、レコーディング・スタジオのコンソール上でよく見かけるものとしては、発売が20余年前というYAMAHA NS-10Mかその後継機種のNS-10M Studioなどが挙げられます。これらの機種は数年前に製造中止になってしまいましたが、いまだNS-10Mシリーズの座を奪うほどのスピーカーは現れていないと言えるでしょう。そんな中、CLASSIC PROからNS-10Mをほうふつさせる製品、その名もEX-10Mが発売されました。NS-10Mを手に入れられなかった人はもちろん、愛用者も非常に気になる製品だと思いますので、NS-10Mと比較しながらチェックしてみましょう。

ウーファーは20cmサイズを使用し
ツィーターはソフト・ドームを採用

私がレコーディング・スタジオに入った19年前、NS-10Mは既にスタジオでの標準的なニアフィールド・モニターとして世界中で使われていました。しかし、この製品は音作りの上では分かりやすいものの、音楽を楽しめる感じではないということが当時から言われており、エンジニアはほかのスピーカーを探す努力もしていたのです。しかし、製造中止になってしまった現在に至るまで、それに代わるスピーカーはなかなか見つからないのが現状です。

私もほかの製品を使ってみた時期もありますが、結局NS-10Mに戻るということを何度か繰り返しています。しかも、NS-10M Studioはユーザーが手放さないため入手はかなり難しくなっています。ならば作ってしまおうというのがEX-10Mのコンセプトだと思われます。

では、まず外観から見ていきましょう。NS-10Mのウーファーは18cmですが、EX-10Mは20cmと若干サイズが大きくなっています。そのためエンクロージャーは2周りほど大きくなっていますが、そのままコンソールのメーター・ブリッジに乗せても無理のない大きさだと思います。ツィーターは2.5cmのソフト・ドームでNS-10M Studioのように金属ネット・グリルや吸音材リングなどはありません。フロント・バッフルには取り外し可能な薄手のサランネットが付属しており、好みに応じて取り外し可能です。また、背面のターミナルはバインディング・ポスト・タイプが採用され、太めのスピーカー・ケーブルでも問題なく接続できるでしょう。なおエンクロージャーはMDF製で内部にはポリエステル系の吸音材が使われています。

では、実際に音を鳴らしてみましょう。チェック場所はプライム・サウンドスタジオ フォームのミキシング用スタジオroom-2を使用し、SSL 9000Jのメーター・ブリッジに乗せた形で、NS-10M Studioと聴き比べながら進めていきました。パワー・アンプは通常、NS-10Mを鳴らすために使用しているYAMAHA PC-2002を使っています。まず、ミックス作業をNS-10M Studioで進めていき、完成した段階でEX-10Mに切り替えて聴いてみました。すると、何と驚くことに違和感なく聴くことができてしまいました。通常、ミックス中に異なるスピーカーに切り替えて鳴らした場合は何らかの違和感を感じ、耳が慣れるまでに多少時間がかかるものですが、EX-10Mの場合は拍子抜けするほどすんなりと聴けてしまったのです。

なお、効率はEX-10Mの方が良いようで、切り替えただけだと音量自体も上がりました。そこで、聴感上のレベルを合わせてチェックしていきました。また余談ですが、楽曲のプロデューサーにミックスを聴いてもらうため、待機してもらっていたロビーからコントロール・ルームに入ってもらったのですが、EX-10Mの雰囲気がNS-10Mに近いためか、最初はスピーカーが変更されていることに気が付かなかったほど違和感が無かったようです。

素直な高域や抑え気味の中域など
NS-10M Studioに近い印象

さて、私は普段NS-10Mを横置きで使っているため最初はEX-10Mも横置きで試してみたのですが、縦置きでも聴き比べてみたところ、NS-10M Studioよりも置き方による音色変化は少なく、大きくバランスが変わってしまうことはありませんでした。周波数特性的にはウーファーのサイズが違うので、EX-10Mの方が低域まで伸びていると思うのですが、恐らくかなり近い線を描くのではと思うサウンドです。

低域は若干下の方まで伸び、中域はやや抑え気味で、高域は素直に伸びている印象。中高域にハリのあるNS-10Mよりツィーターの周りの吸音材により中高域が若干抑えられたNS-10M Studioに近い感じの音色バランスです。低域はウーファーの素材が少し薄いのか、輪郭がNS-10Mと比べ弱く、その傾向は中域まで同じ印象です。個人的な好みとしてはもう少し輪郭がハッキリとした方がコンプのかかり具合などが分かりやすいかなと思いますが、それはミックスの際に感じるくらいで、ダビング作業やプライベート・スタジオで作曲などに使用するモニターとしては、音場感もあり作業はやりやすいと思います。さらに、小さな音量で聴いた場合もバランスが大きく崩れることはないので、自宅での小音量ミックスでも活躍するでしょう。

EX-10Mはペアで29,400円という驚きの価格となっています。広告を見たとき“ホントかよ!大したことないんだろうな”というのが試聴前の感想でした。ところが実際に聴いてみると価格以上に良くできた製品だという評価に変わりました。ただ、気になったのは作りがやや粗い点です。例えば、ユニットがMFDにナットなどを使わず直接木ねじでとめられています。これはメーカーに問い合わせたところ、次回生産ロットから改善するとのことでした。しかし、価格と出音を考えれば十分良くできた製品だと思います。この価格でこれだけの物が作れるのですから、ぜひEX-10Mの上位機種も出していただきたいですね。

CLASSIC PRO
EX-10M
29,400円(ペア)

SPECIFICATIONS

■タイプ/パッシブ、密閉型2ウェイ
■スピーカー/ウーファー=20cm、ツィーター=2.5cm
■周波数特性/63Hz〜20kHz
■許容入力/120W(RMS)
■インピーダンス/8Ω
■クロスオーバー・ポイント/3.2kHz
■コネクター/バインディング・ポスト
■効率/90dB
■サイズ/250(W)×420(H)×213(D)mm
■重量/9kg(1本)