上位機種の機能/操作性を引き継ぎコンパクトになったVSシリーズHDR最新機

ROLANDVS-2000CD

ROLANDから同社VS-2480/2480CD、VS-2400CDの高度な基本機能を引き継いだミキサー一体型ハード・ディスク・レコーダーのニュー・モデル、VS-2000CDが登場しました。現在ではコンピューター・ベースの音楽制作が隆盛ですが、自宅録音の世界にハード・ディスク・レコーディング・ブームを巻き起こしたVS-880以降、常にこのシーンをリードしてきた同社の新製品だけにその内容はとても気になるところです。では早速チェックしていきましょう。

20トラック仕様のレコーダー
320ものVトラックを用意


箱を開けてみると、本体は予想していたよりもコンパクトで、19インチ・ラック・ケースの上に乗せてちょうど収まるほどの大きさです。パネル上には320×240ドットの大型LCDや大きめのジョグ・ダイアル、フェーダー、入出力端子などが整然と並び、一見して操作性と機動性に優れていることがうかがえます。では基本的な機能を見ていきましょう。本機は18トラック+マスタリング専用2トラックの計20トラック仕様レコーダー。24ビット・リニアまたは16ビット・リニア、サンプリング周波数は44.1kHzでの録音が可能です。16ビット時には18トラック、24ビット時には12トラックの同時再生が可能で、同時録音可能なトラック数は16ビット/24ビット時ともに8トラックになっています。また各トラックには16のVトラック(バーチャル・トラック)を装備し、計320ものトラックを使用することが可能です。40GBのハード・ディスクを装備しており、24ビットでのレコーディングや、長時間のレコーディング、Vトラックを多用したデータ量の多いプロジェクトにも余裕で対応します。また編集機能についても、カット/ペーストはもちろん、非破壊編集のタイム・コンプレッション/エクスプレッション機能や最大999レベル前の状態に戻せるアンドゥ/リドゥ機能など、かなり自由度の高い性能を多数装備しています。次に入出力部を見ていきましょう。アナログ入力は上位機種ゆずりの高品質アナログ回路を採用し、TRSフォーン(バランス・タイプ)、ファンタム電源の供給が可能なXLRを各8系統装備しています。このファンタム電源は2chずつのオン/オフができ、コンデンサー・マイクとダイナミック・マイクが混在したドラムのマルチレコーディングなどにも本機1台のみで対応可能です。マイクプリの音質についてはくせの無い上品な印象で、これらに内蔵エフェクトのマイク・モデリング機能などを組み合わせれば、宅録環境での強い味方となるでしょう。そのほか入力端子には、最近では定番となったエレキギター/ベース用のHi-Z端子も用意されています。アナログ出力としてはマスター・アウト、2系統のAUXアウト、モニター・アウト、ヘッドフォン・アウトを装備。これらの端子類と入出力関係のつまみはトップ・パネル上部に分かりやすく配置されており、入力のトリム調整やモニター音量の調節の操作性も良好です。そのほかリア・パネルには、MIDI入出力、コアキシャルのデジタル入出力、フット・スイッチ入力、コンピューター接続用のUSB2.0など、充実の端子類を標準装備しています。

ダイナミクス/EQ専用コントローラーで
直感的な音作りが可能


本機のミキサー部は、最大10インプット+18チャンネル+6エフェクト・リターン(オプションのエフェクト・エクスパンション・ボードVS8F-2またはVS8F-3装着時/後述)の計40チャンネル構成。エフェクト・リターンを除く全28チャンネルには、4バンドEQ(2シェルビング、2ピーキング)とダイナミクス機能(コンプレッサー/エキスパンダー)が標準装備されています。EQ/ダイナミクスについては本体上にCH PARAMETERS(写真①)という専用コントローラー部が用意されており、つまみを用いたスピーディで直感的なサウンド・メイクが可能です。コントロール可能なパラメーターは各バンドのゲインなど基本的なものですが、普段DAWソフトのマウス操作に慣れているせいか、実際に操作してみるとつまみのありがたさをあらためて感じました。そのほかCH PARAMETERSにはAUX/FXセンドとパンのつまみが用意され、各チャンネルの基本的な設定を瞬時に行うことが可能です。
▲写真① パネル上に用意されたCH PARAMETERSでは、各トラックのEQ/ダイナミクス、AUX/FXセンド、パンを専用つまみで瞬時に調整できる 内蔵エフェクトは、VSシリーズ他機種でもおなじみの24ビット処理ステレオ・エフェクトを2系統(4モノラル)装備しています。250種類のプリセット・パッチ、36種類のアルゴリズムを持つこれらのエフェクトは、リバーブ、コーラス、ボーカル、ドラム、ギター、モデリング、マスタリングなどあらかじめカテゴリー分けされ、プリセット・パッチは本体パネル上のボタンで瞬時に呼び出しできます。音質もさることながら、この優れた操作性は使っていて気持ち良いものでした。なお、本機にはオプションのエフェクト・エクスパンション・ボード用スロットも2つ用意され、最大で6ステレオ・エフェクト(12モノラル)まで拡張可能です。そのほかの注目の機能としては、最大9種類までのオート・ミックス・パターンを保存できるオート・ミックス機能があります。複数のオート・ミックス・パターンを切り替えながら聴き比べられるのはうれしいところです。オート・ミックス・データは、コピー、イレース、インサートなどの編集も細かく行えるため、かなりち密なミキシング処理もできます。また、最大96シーンまで保存できるシーン・メモリー機能、EZルーティング機能も装備され、これらを駆使することで、単体デジタル・ミキサー並みの充実した動作を実現可能です。なお、VSシリーズではおなじみのマスタリング・ツール・キットも用意されているので、内蔵CD-RWドライブを使ってのオーディオCD制作まで、本機のみで完結できます。

ボーカル用のハーモニー機能を新搭載
コンピューターとの連携もバッチリ


ここまで基本的な部分を見てきましたが、ここからは本機ならではのユニークな機能を中心に紹介していきましょう。VSシリーズの内蔵エフェクトには、これまでにもマイク・モデリングやギター・アンプ・モデリングをはじめ数々の個性的で強力なエフェクトが搭載されてきましたが、このVS-2000CDでは新機能としてボーカル・パートにハーモニー・パートを付けることができるハーモニー機能が登場しました(画面①)。
▲画面① ハーモニー・リアルタイム・レコード画面。本体上のボタン、外部MIDIキーボードを使いノート情報を入力。その後、画面上での編集も可能 ハーモニー・パートはノート情報を入力するだけで簡単に作り出すことができ、外部MIDIキーボードからのノート入力はもちろん、フェーダー上に装備されたTRACK/STATUSボタンによるノート情報/コード入力にも対応しています。ノート情報はリアルタイムまたはステップ入力で本体内に記録できるほか、シーケンス・エディットのようにイベントを細かく修正することも可能です。ハーモニー機能は標準で2ボイス、エフェクト・エクスパンション・ボードVS8F-2を2枚追加することでなんと最大6ボイスのハーモニー・パートを作成することができます。実際、デモ・ソングのボーカル・パートで使用してみましたが、TRACK/STATUSボタンでリアルタイムにハーモニーのメロディ・ラインを変化させることができ、ボーカル・パートとのなじみ方もとても自然で、かなり使える機能だと感じました。またハーモニー機能では、フォルマント調整、ピッチ・ベンドやビブラートも設定でき、単音で使えばポルタメントもかけられるなど、自然なハーモニー・パートのみならずエフェクティブな使い方もできます。そのほかエフェクト関連では、先日発表されたエフェクト・エクスパンション・ボードVS8F-3は見逃せません。VS8F-3には新規開発されたボーカル用チャンネル・ストリップをはじめとする56ビット処理によるオリジナル・プラグイン・エフェクト5種類が付属。さらにVS8F-3を本体に搭載することで、プラグイン・エフェクト(今後発売予定)の追加/拡張に対応でき、これは従来の一体型ハード・ディスク・レコーダーの常識を覆す画期的なボードと言えるでしょう。プラグインにはANTARES、UNIVERSAL AUDIOなどをはじめ、強力なソフトウェア・デベロッパー各社が既に賛同しており、そのメーカー名を見ただけでも登場が待ち遠しいところです。続いて本機の魅力の1つ、外部機器とのデータのやりとりについても触れておきましょう。本機はVSシリーズ他機とのデータ交換はもちろん、USB2.0を介し、コンピューターと高速データ転送(最大480Mbps)が可能となっています。付属ソフトVS-2000 Wave Converterを使用することで、トラック単位のWAV/AIFFファイル相互変換が可能で、例えば外のスタジオでVS-2000CDにマイク録音したドラム音をコンピューターに移し編集/加工したり、さらにそのファイルをVS-2000CDに戻しミックス・ダウンを行ったりといった作業が簡単にできます。最近ではコンピューターとデータのやりとりが可能なデジタル・レコーダーも増えてきましたが、単にコンピューター上でレコーダー内の情報が見えるだけでは、どのファイルがどんな音か分かりにくい場合もあります。その点、VS-2000 Wave Converterでは画面上で目的のトラック/ファイルを瞬時に選択することができます。画面はとてもシンプルですが、トラックの選択や送受信の方法も明解で非常に使いやすいソフトだと思いました。そのほか外部機器との接続では、オプション・ボードVS20-VGAを装着することによって外部VGAディスプレイとマウスを装着することができます。本体の大型LCDも十分見やすいのですが、外部ディスプレイとマウスを使うことによってさらに視認性/操作性に優れた環境になることは言うまでもないでしょう。今回のチェックでは残念ながら試してみることはできなかったのですが、製品のイメージ写真を見る限り、まるでDAWソフトを操っているかのような快適なオペレーションが行えそうです。

プログラムも可能な内蔵リズム機能
クロマチック・チューナーも搭載


続いてレコーディングの際に便利な機能を幾つか紹介しましょう。本機はPCMドラム音源を使った本格的なリズム・トラック機能を搭載しており、17/18トラックをリズム・トラックにアサインすることで、リズム録音時などに再生することができます。リズム・パターンはプリセット以外にもユーザーによるステップ・レコード/エディットにも対応し、小節単位のリズム・パターン組み換えを行い、リズム・アレンジを作成することができます。ガイドとしてはもちろん、任意のトラックに録音してエディット、エフェクトを加えることで本番用のリズム・トラックにすることもでき、その用途は多岐にわたる機能と言えるでしょう。そのほかクロマチック・チューナーも搭載しており、ギターやベース、アナログ・シンセなどの録音で重宝しそうです。クロマチック・チューナーの便利なところは、基準音を録音済みまたは演奏中の楽器音を元に設定できることでしょう。例えばギターの弾き語りで基準よりも低いチューニングで録音してしまった場合、そのテイクは生かしつつさらにダビングするとき、単音の演奏からピッチを検出し、それを基準音にした設定ができるという優れものなのです。今回、VS-2000CDのチェックをしてみて、ミキサー一体型ハード・ディスク・レコーダーのここ数年の進化をあらためて感じさせられました。操作性はますます洗練され、機能的にも十分過ぎるほどの内容です。また機動性に優れ、何より安定した作業を行えることで、これからレコーディングにトライしようと思っている人には文句無くお薦めの1台だと思います。またコンピューター・ベースで音楽制作をしている人も、ファイルの送受信がUSBケーブル1本でできるなど、機動性に優れた強力なツールとして本機はかなり魅力的な製品ではないでしょうか。

▲リア・パネルの接続端子類(オプション・ボードVS20-VGA装着時)

ROLAND
VS-2000CD
オープン・プライス(市場予想価格/180,000円前後)

SPECIFICATIONS

■トラック数/18+2マスター・トラック
■Vトラック数/320(各トラックに16トラック)
■サンプリング周波数/44.1kHz
■量子化ビット数/16/24ビット
■周波数特性/20Hz〜20kHz(+0dB/−2dB)
■同時再生トラック数/16ビット:18、24ビット:12
■同時録音トラック数/16/24ビット:8
■エフェクト/標準ステレオ2系統(モノラル4系統)、最大ステレオ6系統(モノラル12系統/エフェクト・エクスパンション・ボード2枚装着時)
■外形寸法/466(W)×371(D)×115(H)mm
■重量/6.7kg
■オプション/外部ディスプレイ+マウス接続用オプション・ボード:VS20-VGA(近日発売)、拡張エフェクト・ボード:VS8F-3 (オープン・プライス/市場予想価格35,000円前後)