Auto-Tune機能やマイク・モデリングを搭載したボーカル用プロセッサー

ANTARESAVP-1

ANTARESのAuto-Tuneは特にボーカル・パートのピッチ補正ツールとして有名になったプラグイン・ソフトで、1998年にはATR-1の名でそのハードウェア版も発売された。その後ハードウェアではマイク・モデリング技術を搭載したAMM-1が登場。そして今回ATR-1の後継機にあたるATR-1aと、これから紹介する複合機のAVP-1が加わり、現在計3モデルがラインナップされている。

幅広い音色変化のマイク・モデリング
ソロ楽器にも対応のAuto-Tune機能


最初にAVP-1の主な機能を把握しておこう。
●ピッチ補正で定評あるAuto-Tune機能
●あこがれのマイクのサウンドをシミュレートできるマイク・モデリング
●真空管プリアンプのモデリング
●Kneeも微調整可能なコンプレッサー
●不要なブレス・ノイズを除去するゲート機能
●ハイパス・コントロールも可能なディエッサー
●ノッチ・タイプも選べる2バンドEQ
●Auto-Tune機能を生かしたDouble Tracking
●ドラムやベースなど楽器用プリセットも用意本機は“ボーカル・プロデューサー”とフロント・パネルにクレジットされているようにボーカル処理に必要な各種機能を集めた複合機。マイクプリこそ搭載していないが、コンプはもちろんディエッサーやEQまであるのでこれ1台でほぼ完結してしまう。また、同社の人気プラグインであるAuto-Tuneとマイク・モデリング両方のベーシック機能を内蔵しているのが大きな魅力だ。マイク・モデリングを簡単に説明すると“手持ちの安価なダイナミック・マイクから高価なコンデンサー・マイクのリッチな音が作れる”というすごい機能。まずは録音時のマイク・タイプをSouce Micページで19種類から選択し、SHUREやRODE、CADといったメーカーのアマチュアでも手に入れやすい代表的なマイクから型番で指定できる。それからModel Micページでシミュレートしたいマイクを11種類から選択。こちらはマイク名ではないがLarge Diaphragm Condenser #1といったタイプ別に選べ、特殊なところでDrum Mic-KickやTelephoneといった選択肢まであるのが面白い。実際にSHURE SM57を使って録音した音を元にマイク・モデリングしてみると、確かに本来そのマイクでは得られないコンデンサー的な高域の伸びやつやをかなり自然に付加できた。この際、マイクと音源の距離による音色変化の調整はSource/Model Micの両方に用意されているLow CutとProximity(近接効果/値が小さいほど低域が増える)のパラメーターで行う。また、Tube Warmth Amountというパラメーターでは真空管プリアンプを通したような温かみ(心地よい歪み)が加えられる。もちろん録音時のマイクがSource Mic名と同じであればメーカー側が意図したサウンドが得られる可能性が高いはずだが、それ以外の組み合わせで得られるさまざまな音色変化も結果的には大変魅力的だ。次のAuto-Tuneセクションで設定できるパラメーターはScaleとCollection Speedというシンプルな構成だ。ピッチ補正のAudio TypeやInput Trim、Auto-Tune Detuneといったパラメーターはセットアップ・ページに用意されている。もちろんInstrumentモードもあり、ボーカル以外のソロ楽器に対するピッチ補正も可能だ。ATR-1aとは違って本機ではMIDIキーボードを使ってのノート指定はできないが、スケール指定画面で目的のノート以外を消去すれば1音に限定することは可能である。

コンプやディエッサーなど
ボーカル処理の基本ツールを網羅


コンプレッサー部ではアタックやリリースはもちろん、音楽的な音色変化を得るために大きなファクターとなるKneeのパラメーターを0〜100段階で細かく調整できる。そのため結果的にナチュラル〜ワイルドまで幅広く音作りできるので使えるものに仕上がっている。ゲート機能は独立したスレッショルドを持っており、過激なコンプレッション時の不要なノイズを抑えるのに便利だ。さらにボーカルの子音を抑えるディエッサー部もスレッショルド、レシオ、アタック、リリース、High Pass Frequencyと、かなり細かく調整可能だ。ここで子音を抑えることで後のEQ部で思い切った高域増幅をすることができる。EQ1とEQ2の2バンド用意されたEQではシェルビング、ピーキング以外にもローパス、ハイパス、バンドパス、さらに指定した周波数だけを消すためのノッチ・タイプまで、さまざまなタイプを選べるのがうれしい。もちろんEQカーブを決めるQ幅も調整可能だ。そして、最後に用意されているDouble TrackページはAuto-Tuneの処理の有無によってダブリングの効果を加えるモード。例えばメイン信号側でAuto-Tuneがオフの場合はDouble Track側の信号にAuto-Tuneが入ることで効果を得る。このDouble Track用のアウト端子がメイン・アウトとは別に用意されているので、左右に振ってステレオの音像も得られる。そのほか MIDIコントローラーで内部パラメーターを変更したり、フット・スイッチに各セクションのオン/オフを割り当てることも可能だ。以上のように、付加機能のどれもが本格的なパラメーターを持ち、専用機にも負けない細かいコントロールができる。各セクションのLEDメーターでは簡易ながらも常にリダクション量などが監視できるし、ディスプレイ側でさらに細かいレベル確認も可能。31個のスイッチを使って各パラメーターへダイレクトにアクセスできるので、操作性もかなり良い。プリセットにはボーカル以外にもエレキギターやサックス、シンセ、ドラムなど、さまざまな楽器向きのものを用意している。注意点としては入出力がフォーン端子のみでアナログ段でのレベル調整が無いこと。本機へ送出する側で適正レベルにする必要がある。もっともデジタル領域ではInput Trimが−30dB〜+12dB、Output Gainが−30dB〜+24dBとかなり広い範囲で増減できるので心配ないだろう。DAWに限定すれば部分的なピッチ補正がグラフィカルに制御できるプラグイン版の方が魅力大だろうが、例えばハーモニー・トラックなど素早く音決めを行いたい場合には本機の方が便利なケースも多い。ライブでも録音でも“いつものマイクでお気に入りのサウンドがすぐに呼び出せる”という本機のメリットは大きいと言える。

▲リア・パネルの接続端子。左からメイン出力(フォーン)、Double Track出力(フォーン)、ライン入力(フォーン)、MIDI IN/OUT、フット・スイッチ

ANTARES
AVP-1
120,000円

SPECIFICATIONS

■周波数特性/10Hz〜20kHz、±0.2dB
■全高調波歪率/0.005%以下(@1kHz)
■入力インピーダンス(ライン)/9.3dBu、10kΩ
■出力インピーダンス(メイン&Double Track)/8.5dBu
■外形寸法/483(W)×44(H)×127(D)mm
■重量/2.0kg