コスト・パフォーマンスに優れたマルチパターン真空管マイク

SM PRO AUDIOMC03

近年、コスト・パフォーマンスに優れたマイクが多数発売されているが、またもや新機種の登場だ。その名はSM PRO AUDIO MC03。価格が6万円程であるにもかかわらず、真空管タイプ、9段階のマルチ指向性というスペックを持っているのには驚かされる。価格・性能ともに、宅録派にとっては手ごろな機種となりそうで、このクラスのマイクの選択肢が増えるのはうれしいことだろう。では、早速概要から追ってみよう。

本体はシンプルかつ丁寧な作り
標準付属のアクセサリーも充実


詳しい資料が手元に無かったためにメーカーのWebサイト(www.smproaudio.com)で調べると、SM PRO AUDIOの本社はオーストラリアにあるが、外箱には“Made in China”と記されている。本機のセット内容(付属品の種類やハード・ケースの形状)が某メーカーのマイクと酷似していることから、同じ工場での製造なのかもしれない。ローコスト製品にはありがちなルートだが、ともかく音が良ければそれも気にならないだろうから、早速セッティングしてみよう。マイク本体は、写真を見て分かる通りクラシックな真空管マイクをほうふつさせる外見で、ラージ・ダイアフラムを搭載。真空管には、ポピュラーでS/Nの良い12AX7を採用している。そのほか、細部の作りも手抜きはなく、非常にシンプルでありながら丁寧に作られている。また、マイク・ホルダーや電源ユニット、ケーブルなどの必要なものはすべてアルミ製ハード・ケースに同梱されており、別途必要となるのはポップ・ガードとマイク・スタンドぐらいだろう。マイク・ホルダーもとてもしっかりとした作りで、交換用サスペンション・ゴムまで付いていた。マイク本体をスタンドにセットしたら、パワー・サプライを正しく接続して電源を入れ、マイク本体がうっすらと温まるで待つ。プリアンプやミキサーのアサインをする間にマイクはスタンバイOKになるので、神経質に待つ必要もないだろう。今回、マイクプリはプロ定番のNEVE 1073と、読者の間でも比較的多く出回っているであろうMACKIE.のミキサー1604-VLZのヘッド・アンプを使い、プロレベル/アマチュア・レベルの環境で聴き比べができるようにした。比較対象としては、ボーカルによく使われるNEUMANN U87と、MC03と同じ真空管マイクのNEUMANN U47 Tubeを用意。ウィンド・スクリーンは、ある著名なマスタリング・エンジニアさんから直々に教えてもらって自作した物(同じ物を最近宇多田ヒカルのビデオ・クリップでも見かけた!)を使用した。

特定の周波数にピークを持たない
原音の特長を生かすフラットな音質


まずは1073でボーカルの録音をしてみた。出音の第一印象は非常にフラット。もちろん真空管タイプのマイクに共通するキャラクターは十分に持っているが、ボーカル向きの真空管マイクでここまでフラットなのは珍しく、僕の経験ではNEUMANN U67しか思い当たらない。そこで急きょ比較するマイクをU67に変更してみたが、U67好きの僕にも本機のたまらない魅力が感じられた。プロの間でよく使われているU87でも、時として2kHz近辺のピークが気になることもある。しかしこのMC03ではある特定の周波数にピークはなく、とても使いやすい。ボーカリストの声に特徴があるなら、うまくその特長を拾ってくれそうだ。逆に言えば、多くの真空管マイクのように第一印象で“太い”“温かい”などの印象は多少欠けるかもしれない。しかし、これも時と場合により一長一短で、決して太い音ばかりが良いとは言えない。これから真空管マイクを購入する人にとっては、この辺りが重要な選択のポイントになるかもしれない。続いて、1604-VLZのヘッド・アンプではどのような音になるか実験してみた。少し硬くなる感じがあったが、高域の伸びは意外にも1073よりこちらの方が好みであった。EQのかかりも良好で、このクラスのミキサーとのマッチングもなかなか良いようだ。この接続のまま、ガット・ギターの録音も試してみる。こちらもフラットな特性のおかげで嫌な低音の鳴りもなく、ガット・ギターのソロがとても気持ちよく聴こえる。このようなサウンドは知り得る限りではNEUMANN M269Cでしか得られなかったのだが、MC03はそれにとても近いサウンドでますます気に入った。最後に9段階の指向性選択機能をボーカルで実験してみた。いずれのポジションでもボーカルなどの近距離ではさほど違いはなく、周波数特性での選択という裏技よりは、オンマイク、オフマイク、アンビエンス、または2本でのステレオ録音といった録音方式の違いによる選択という本来の使い方をすることになるだろう。個人的には大変気に入ったMC03だが、あえて弱点を述べるとすれば、音圧感はほかの真空管マイクに多少譲る部分もある。ただしこれはマイクとしての欠点ではないので、むしろこのフラットな特性を音源に対してうまく選択できるという点で、なくてはならないマイクとなるかもしれない。
SM PRO AUDIO
MC03
62,000円

SPECIFICATIONS

■感度/−36dBV(±2dBV)
■出力インピーダンス/200Ω
■最大入力音圧レベル/130dB@1kHz(0.5%THD)
■SN比/74dB
■ダイナミック・レンジ/116dB
■外形寸法(本体)/60(φ)×180(H)mm
■重量(本体)/800g