内蔵エフェクトで積極的な音作りが可能な8トラックHDレコーダー

ZOOMMRS-802

低価格ながら実用的な10トラックHDレコーダーとして好評だったMRS-1044に、昨年末インプット数などを増やした上位機種のMRS-1266が登場。さらに今回紹介する8トラック版のMRS-802が新たに加わってMRSシリーズもかなり充実したラインナップとなった。本機はMRS-1266からトラック数やインプット数を省いた廉価版という位置付けではあるが、MRS-1044で培われたノウハウの延長線上で作られているのでかなり充実した内容に仕上がっているようだ。

MRS-1266譲りの高い基本性能
リズム・マシン部も健在


まず、最初に主な特徴を把握しておくと、①同時再生8トラック+ステレオのリズム・トラック、②それぞれに10個のV(仮想)テイクを用意、③インプット2チャンネルで同時録音数は2トラックまで、④ミックス・テイクが保存できるマスター・トラック、⑤プログラム可能なリズム・セクション、⑥プール・エリアに登録して任意に呼び出せるフレーズ・ループ機能、⑦ZOOM色豊かで実用的な3系統内蔵エフェクト、⑧ビルトインCD-R/RWスロット、⑨SMF再生対応で外部音源も鳴らせる、⑩クロマチック・チューナー内蔵、⑪USBボード追加でコンピューターとのファイル移動が可能など。MRS-1266では左側にあったドラム・パッドが本機では省略されているが、ドラム音源自体は健在。なんとその代わりに各フェーダー上部の8つのセレクト・キーで各パーツの音が出せる。タッチセンスは付いていないがリアルタイムでの打ち込みも可能だ。インプット・レベルと別に用意された録音レベルのツマミは、エフェクト後の録音レベルを再調整するもの。どちらもピークLEDがたまに点灯するぐらいでOKだ。マスター・トラックにはミックス・ダウンしたテイクを10個保存可能。マスター・フェーダー上部のスイッチですぐにミックス状態に入れるのでとても分かりやすい。ここで選んだミックス・ファイルを集めてのCD作成も簡単。8トラックすべてが埋まっても空いたVトラックへとバウンス処理ができる。

ZOOMならではの
実用的で多彩な内蔵エフェクト


最も印象的なのはやはりZOOMならではの元気な内蔵エフェクト。かけ録りにも使えるインサート系エフェクトはステレオで1系統なのだが、パネル左上にはぜいたくにも8つの専用キーが用意され、入力楽器に合わせたアルゴリズムが直接呼び出せる。ギターやベース用に各種アンプのモデリングやスピーカー・サイズなども選べるし、マイク録音用にはコンプはもちろん楽器に合わせたマイクプリのカラーまでもが選択できる。マスタリング用にもLiveやLoFi Mstなどさまざまな設定が用意されていて音作りの幅が広いのに驚かされる。“INPUT SOURCE”のキーを押せばすぐにインサート箇所の変更が可能なのも便利だ。もちろんドラム音源にも即座にインサートできるし、それをオーディオ・トラックの方へエフェクトごとバウンスすることも簡単。エフェクト構造が明解なので非常に使い勝手が良い。リズム・マシン部が実用的なのも本機の大きな魅力だ。音色数ではMRS-1266ほど充実してはいないが、プリセット・パターンも400以上と幅広くなかなか音質も良い。ほかのオーディオ・トラックを聴きながら打ち込めないのが残念だが、外部からMIDIキーボードで内部音源を鳴らしてフレーズや音色の確認ができるので、致命的ではないだろう。フレーズ・ループ機能では録音したトラックの特定範囲やCD-R/RW上の任意のオーディオ・ファイルを名前を付けて保存、繰り返し回数を指定してトラックやVテイクへ書き出すことが可能だ。さらに“ADJUST BAR&LEN”を使えばピッチを変えずにタイム・ストレッチも可能。出荷時にはHD内に生ドラムやギター類など即戦力になるフレーズがあらかじめ収録されているのもうれしい。コスト・ダウンのために省かれたのがトラック・パラメーター関連のスイッチ類。EQやパン、エフェクト・センド、Vテイク画面が1つのキー内に入ったため、ワンアクション増えた。もっとも前回選んだパラメーター名は記憶されているので直後ならすぐそのパラメーターにたどり着ける。またマシン自体の反応が俊敏なので待たされる感じがしない。しかし編集時はディスプレイの限界もあって手順が多く少し面倒。この点ではやはり本機は細かく編集するより、どんどん録音ボタンを押してダビングを繰り返す人向きだろう。外部シーケンサーなどで作成したSMFを読み込むと本機で外部音源が鳴らせるのも隠れた魅力の1つ。これはライブの音出し用にニーズの多い付加機能だ。そのほか、オート・パンチ・イン、スクラブによる細かい編集、リバースやタイム・ストレッチまで可能な各種編集コマンド、シーンを切り替えての簡単なミックス・オートメーション、などなどMTRとしての基本的な機能はしっかりと押さえてあるので安心。オプションのUSBインターフェース・ボード(今回はチェックできず)でコンピューターとのデータ移動が可能といった付加機能も本機の価格を考えると大満足の内容だ。一体型HDレコーダーの魅力は、高い安定性とその機種でしか得られない独自機能にある。エフェクトやリズム・マシン部など、得意とする機能をより強調した思いきりのいい本機のデザインには筆者も大賛成だ。“内蔵エフェクトのかけ録りでどんどん音色を変えながら録音していく”という大胆な作業が実に楽しいHDレコーダーである。
ZOOM
MRS-802
54,800円
(MRS-802CDは69,800円)

SPECIFICATIONS

■サンプリング周波数/44.1kHz
■記録量子化数/16ビット・リニア(非圧縮)
■同時録音トラック数/2トラック
■同時再生トラック数/8トラック
■周波数特性/20Hz〜20kHz±1dB
■外形寸法/430(W)×270(D)×105(H)mm
■重量/約5kg(CD-R/RWドライブ搭載時)