優れた操作性と拡張性を実現した24ビット/96kHz対応HDレコーダー

ROLANDVS-2400CD

VS-2480CDで培ったノウハウをフルに投入したVSシリーズの新モデルVS-2400CDが発売された。本機はVS-2480の下位機種に当たるが、仕様や機能の点でほとんど遜色無い製品に仕上がっている。何よりこの価格帯の製品で24ビット/96kHzに対応しているのは歓迎すべきことだろう。使用感や音質なども含めレポートしてみたい。

マウスやディスプレイを接続し
優れた操作性を実現


VS-2400CDのデザインは、いかにもスタジオ仕様な感じであったVS-2480CDより幾分ライトな感覚に仕上がっている。本体サイズも一回り小さくなっており、ホーム・スタジオにフィットしそうだ。しかし、その見た目に似合わず中身はVS-2480CDと変わらない基本性能を備えたすごいマシンだ。オペレーション面ではVS-2480CDと同様、大型LCDを採用。多くの情報量を1度に表示でき、操作しやすい環境を提供してくれる。また、モニター・ディスプレイとマウスを接続する端子を標準搭載しており、これらを使えば、DAWソフト感覚で操作することが可能だ(画面①)。

▲画面① 外部モニターに写し出されたオぺーレート・ソフト。この画面ではトランスポート、各トラック・レベル、各トラックのオーディオ再生タイミングなどを表示。このほか全24トラックのミキシング状況、内部ルーティングの結線、オーディオ波形の拡大表示、グラフィカルなダイナミクス/EQカーブの表示なども可能で、DAWソフト並みのGUI環境を実現している。もちろんすべてがマウス操作に対応だ 実際に手持ちの16インチSXGA液晶ディスプレイを接続してみたが、LCD画面に比べ、さすがに情報量が多く状況が把握しやすい。加えてマウス・オペレーションによる操作も非常に快適だ。最近ではLCD/CRTモニターはかなり安価になっており、わずかな追加投資で快適な作業環境を手に入れることができる。資金に余裕があれば、ぜひ同時購入したいところだ。もちろんコンピューターのモニターを既に持っているなら、切り替え器を使い兼用する手もある。ちなみに、さらなる快適さを求める場合は、同社から発売されているチャンネル・エディット・コントローラーVE-7000(69,800円)を併用することをお薦めしたい。ツマミやジョイ・スティックなどでミキシング時のパラメーター入力が直感的かつスピーディに行えるはずだ。次にレコーダー部を見ていこう。最大の特長はなんと言っても24ビット/96kHzでの録音/再生に対応していることだろう。16ビット/44.1kHzであるCDに比べ、はるかに広いダイナミック・レンジを得ることができ、レコーディングやエフェクト処理において精度の高いサウンド処理を行うことが可能だ。もちろん最終的な仕上がりについてもその高音質を体感できるだろう。また、24ビット/96kHz対応もさることながら、内部演算処理が56ビットであることにも注目したい。EQ/ダイナミクス、エフェクト処理において、素材のクオリティを維持したパフォーマンスが期待できる。本機の同時録音トラック数は、レコーディング時に設定したサンプリング周波数/ビット数で変わってくる。例えば、16ビット/44.1kHzの場合、16トラック。同じく同時再生トラック数についてもオーディオ・フォーマットに依存し、16ビット/44.1kHzで24トラックとなる。これらのスペックは、ひと昔前の業務用デジタルMTRとほぼ肩を並べているものだ(しかし、価格は2桁下がっている)、コンピューター・ベースのDAWソフトでこのスペックを実現するとしても、それなりの投資が必要となってくるだろう。ちなみに24ビット/96kHz時では8トラックの同時録音/再生を確保している。レコーディング・モードはオーディオ・フォーマットの違いによりM24、MTP、CDR、M16、MT1、MT2、 LIV、LIV2の8つが用意されている。これらはVSシリーズの従来機でおなじみだろう。ROLANDの独自技術により音質を保ちながら、メモリー消費を抑える工夫がなされているのが特長だ。強力なのはMTPモードで、24ビットの高音質を保ちながら、16トラック同時録音、24トラック同時再生可能なパフォーマンスを実現している。標準搭載されたハード・ディスクの容量は40GBで、16ビット/44.1kHzのM16モードで143時間(1トラック換算)もの録音が可能である。しかし、マルチライブ録音やバックアップ作業などでは、さらに長時間録音の必要性が出てくるだろう。そのようなときはLIV/LIV2などメモリー消費が少ないモードが重宝しそうだ。そのほか内蔵CD-Rドライブへダイレクトにデータ書き込みができるCDRモードなどもユニークなものと言えよう。さらにバーチャル・トラックも各トラックに16ずつ用意されており、マルチテイクやレコーディングした素材の確保に十分対応できるだろう。

アナログ入力すべてに用意された
ナチュラルな音質のマイクプリ


ミキサー部は16チャンネル入力、24トラック再生、8チャンネルFXリターンの48チャンネル構成とかなり充実したものだ。アナログ入力は8系統が装備され、VS-2480で定評を得ているプリアンプを各チャンネルに搭載している。接続端子は各チャンネルにXLR、フォーンが用意され、共にバランス入力に対応。また、ファンタム電源もすべてのチャンネルに装備され、オン/オフの設定も自由にできる。そのほかチャンネル8にはパッシブ・ピックアップのギターやベース用にHi-z入力を用意。クリーンな音質でのライン録音が可能だ。アナログ出力は8系統用意されている。構成はメイン・アウト(L/R)、AUXアウト(L/R)×2、モニター・アウト(L/R)で、内部ルーティングにより信号を自由にアサイン可能(マスターアウトを除く)。サラウンドのマルチ出力などにも活用できるようだ。そのほかデジタル入出力にはオプティカル/コアキシャルの両方が装備され、外部機器との接続に幅広く対応可能だ。これらの入出力を管理するのがVSシリーズ伝統のEZルーティング。これはパッチ・ベイ感覚で内部の信号経路を設定できる機能だ。従来機に比べチャンネルやトラック数が増えたことを考えると、ますます信号経路が複雑になるが、EZルーティングを使うことでラクラクと扱うことができた。ある意味、EZルーティングの真価が発揮されていると言えよう。マイクプリについてはかなり力を入れているようだ。チェックではAKG C451、SENNHEISER MD421、SHURE SM57などのマイクを試してみた。総合的にハイレベルでコンデンサー・マイクの繊細な響きをよく伝えてくれる。ギターやピアノなど生楽器をレコーディングしてみたが、ナチュラルでリッチな音質を味わうことができた。続いてEQ。本機では最大32チャンネルでロー(シェルビング)、ローミッド(ピーキング)、ハイミッド(ピーキング)、ハイ(シェルビング)の4バンドEQを使うことができる。EQの画面には、通常の数値によるパラメーター設定に加え、プラグインでおなじみの曲線グラフを採用しており、視認性に優れた作業が可能。曲線カーブとサウンドの変化がよくリンクしており、慣れてくると目的のEQカーブをストレスなく得ることができそうだ。ダイナミクス(コンプレッサー/エクスパンダー)画面もEQと同様に、折れ線グラフを使った設定が可能になっている。“スレッショルド、レシオがどうのこうの”と考えるよりも目で見ながら作業する方が、はるかに音を扱いやすい。ダイナミクスの音質は非常にナチュラルな印象で、生楽器等のシビアな音質補正にも余裕で対応できそうだ。チャンネル・フェーダーには、ムービング・フェーダーを採用。ストローク長60mmと本格的なもので、ミックス時のシーン設定を100パターンも記憶することができる。もちろんフェーダー・グループを組むことが可能だ。ミキサー部でもう1つ注目したいのは、2つのスピーカーで360度の音像定位を実現するRSSパン機能。VSシリーズとしては初めての搭載となるが、特にパンの拡張機能として組み込まれているところがミソで、オートミックスや先のシーン機能などと併用すれば、幅広い音像表現ができる。

実践的なシミュレーション系エフェクター
R-BUS、V-LINKで拡張性も確保


本機の編集機能はもはやDAWソフト並みの機能を備えていると言える。カット、コピー、ムーブ、インサートはもちろんタイム・コンプレッションなども搭載。編集はすべて非破壊で行われ、アンドゥは最大999回作業をさかのぼることができるから驚きだ。トラック編集には、録音した素材そのものを単位にした“フレーズ・エディット”と、時間軸で囲まれた任意の範囲を単位にした“リージョン・エディット”の2つのアプローチがあるのは面白い。しかも、それらを何より外部モニターを使うことにより、快適なGUI環境で行えるのがうれしい。続いて内部エフェクトについて。本機にはエフェクト・エクスパンジョン・ボードであるVS8F-2が1枚標準装備され、24ビットでのエフェクト処理が可能だ。VS8F-2をさらに1枚追加して2枚搭載することも可能で、その場合最大4系統ステレオ・エフェクトが本機のみで使用できる。用意されたエフェクト・アルゴリズムは36種類。これらを組み合わせたパッチが200種類も内蔵されている。リバーブやディレイ、コーラスなどといった基本的なエフェクトはもちろん、おなじみのCOSMモデリング・エフェクトも搭載されている。そのほかギター・アンプ・モデリングやスピーカー・モデリングなど実用的なものから、積極的な音作りに使えそうなバリエーションまでが豊富にそろえられている。いろいろと試してみて感じたのは、シミュレーター系エフェクトの実用性が高いことだ。シミュレートしているオリジナルの特徴をかなりとらえているため、“あのマイク、アンプのサウンドがどうしてもほしい”ときには重宝しそうだ。もちろんリバーブやディレイなども緻密で高品位なサウンドである。内蔵エフェクトだけでもかなりのクオリティのミックスが期待できる。そのほかマスタリング用エフェクトである、マスタリング・ツール・キットを装備。マルチバンド・コンプなどが用意され、ここで最終的に仕上げられた2ミックスはそのまま内蔵CD-Rドライブへの書き込みが可能。録音〜ミックス〜CDライティングがスムーズにこなせるのが単体機の強みだろう。一連のオペーレーションも非常に簡単だ。拡張性に関しても触れておこう。まずは24ビットで最大8チャンネルのデジタル・オーディオ入出力が可能な同社独自フォーマットがR-BUSだ。本機にはR-BUS端子が1系統用意され、例えば別売りの8チャンネルAD/DAコンバーターADA-7000(98,000円)を接続した場合、最大16チャンネルのアナログ入出力拡張が行える。そして同社のマルチメディア向け規格であるV-LINK機能にも注目したい。対応ビデオ機と接続し、本体のフェーダーなどで映像のコントロールが可能になっている。ちょっとしたイベントなどで音と映像を扱いたい場合などに威力を発揮しそうだ。最後にサラウンド機能について。本機は4ch、3.1ch、5.1ch構成の3つのサラウンド・フォーマットに対応。サラウンド・ミックスからマルチ再生(アナログ)までを行うことができる。本機はミキサー、エフェクト、編集機能、そしてアナログ回路などどれを取っても完成度の高い製品に仕上がっている。音質についても24ビット/96kHzモードではサウンドの表情や空気感までがよく表現されていた。それらを加味した際、この価格も非常にこなれたものと言えよう。オールインワン機で高品位な音楽制作を手軽に行いたい場合には、VS-2400CDは有力な選択肢になるだろう。

▲リア・パネルの接続端子類。右上に8系統用意されたアナログ出力は自由なアサインが可能。そのほかデジタル入出力(オプティカル、コアキシャル)、MIDI IN/OUTや、R-Bus(D-Sub25ピン)、モニター・ディスプレイ用のVGA端子、マウス/キーボード用端子などが並ぶ

ROLAND
VS-2400CD
オープン・プライス(市場予想価格/240,000円前後)

SPECIFICATIONS

■トラック数/24
■Vトラック数/384(各トラックに16トラック)
■サンプリング周波数/96/88.2/64/48/44.1/32kHz
■周波数特性/20Hz〜40kHz(+0dB/−2dB)
■EQ/4バンド(2シェルビング+2ピーキング)
■ダイナミクス/コンプレッサー、エクスパンダー
■エフェクト/最大ステレオ4系統(モノラル時8系統)
■記憶容量/40GB
■外形寸法/480(W)×481(D)×136(H)mm
■重量/10.5kg
■付属品/デモCD、CD-Rディスク、PS/2マウス、電源ケーブルなど