HUIモード対応などバージョン・アップを果たしたデジタル・ミキサー

MACKIE.D8B

MACKIE.のデジタル・ミキサーD8BのOSソフトウェア・バージョンが5.0(以下Ver5)へとアップした。Ver3で大幅に機能が充実したあと、Ver4は飛ばして今回のVer5登場という進化になる。既にVer3でデジタル・ミキサーとしてのベーシックな機能はほぼ完成されおり、今回これほど多くの機能がバージョン・アップという形で追加されることは予想できなかったことだ。さらに驚かされるのが大幅に改定された価格だ。国内代理店価格でなんと半額。他社製品とのバランスを考えてのこととは思うが、本機のシステム構成を考えるとかなり思い切った値下げと言えよう。

大幅な価格改定とともに
ユーザー待望のHUIモードに対応


バージョン・アップ内容を見てゆく前に、まずはD8B独自のシステム構成を理解しておく必要があるだろう。デジタル・ミキサーである本機はコンソール部分とは別にリモートCPUと呼ばれる外部ユニットを独立して装備している特殊なデザインだ。ミキシングやEQ、ダイナミクス部など基本的な演算を行うのはコンソール側の内蔵DSP。またFXと呼ばれるエフェクト類はその背面にある4つの拡張スロットに挿したエフェクト・ボードMFXおよびUFX(共にオプション)で処理される。そして、これらを総合的にコントロールするのがまるでパソコン本体のような外観を持つリモートCPU(マウスやディスプレイ類をつなぐ)。例えば、MACKIE.のWebサイトでダウンロードした最新のOSをフロッピー経由でインストールして、すぐに新機能が得られる(Ver5は有償アップ)のもパソコンのようだ。それでは、今回のバージョン・アップの主なポイントを挙げてみよう。
●HUIエミュレーション機能を搭載
●エフェクトの複数チェインが可能になった
●バスにもエフェクトがインサート可能になった
●ディスプレイ内にもレベル・メーターを表示
●ダイナミクス部の表示と音質の改良
●ゲートのMIDIトリガーが可能になった
●モニターのDIMレベルが変更可能になった
●MIXエディターの各種改良
●チャンネル・メモまで付いたトラック・シートの装備
●HTMLで書き出せるヘルプ・ページの装備
●サラウンド関連機能の追加
●SONY 9-Pinコントロールに対応
●256MBのRAMメモリーに対応
といったところだ。特に今回の大きな目玉はHUIエミュレーション・モードが搭載されたことだろう。ついにHUIようなDAWソフトのフィジカル・コントローラーとして機能させることが可能になったのだ。操作はオプション・メューのHUIモードをオンにしておけば“Shift-MASTER”を押すだけでこの機能に入れる(画面①)。このときD8Bの17〜24chの8チャンネル分がDAW用となり、コンソールのメーターもDAWのメーターと一致する。さらにはVFD(コンソール右上の小さなディスプレイ)にはちゃんと楽器名/トラック名が8チャンネル分表示され、いちいちDAWに戻って見比べる必要も少ない。そのほかHUIにおける多くのパラメーター類がD8B上のパネルで同様に操作できるのがすごい。当然スイッチ類の位置関係はHUIとD8Bではだいぶ違ってくるが、そこへアサインされる機能がディスプレイの左に一覧で表示されるので、目的のコマンドをすぐに確認できるようになっている。もちろんジョグ・ダイアルではスクラブも可能。HUIの本家によるイミュレーションなため、さすがに各反応もバッチリである。

▲画面① HUIモード画面ではキー・アサインなどが一目瞭然になっている D8Bのように比較的大型で本格的なデジタル・ミキサーをメインに作業している場合、DAWのために専用コントローラーを別に用意するのはスペース面を考えても得策ではない。今回のHUIモード対応はD8Bユーザーの大きな悩みを解決してくれる最高のプレゼントとも言えよう。

プラグインのチェイン機能
SONY 9-Pinコントロールへの対応


プラグインのチャンネル/マスター・フェーダー部への単独インサートはVer3で既に可能だったが、今回は複数のプラグインをシリアル接続できるようになった。D8Bはコンソール背面にプラグイン拡張ボードMFX、UFX用に4つスロットを装備しており、1枚のボードで最大4系統(モノラル)のエフェクトを任意に選択できる。本体購入時にはMFXが1枚搭載されており、同社製のリバーブ、コーラス、エコーなどのベーシックなエフェクトおよび、IVL VocalStudioが使用できる。またサード・パーティ製のUFXボードとしてT.C. ELECTRONICのリバーブ、DRAWMERのコンプレッサー、ANTARES Auto-Tune、MASSENBURGのパラメトリックEQ、ACUMALABS DelayFactor、FilterMachine、TimePak、Saturated Fatといったフィルターやモジュレーション系などの各種エフェクト類が現在ラインナップ。ここにあるトータルEQ&コンプFinalMixなどは、まっ先にそろえておきたくなるツールと言えるだろう。今回のバージョン・アップにより、チャンネル/マスター・フェーダーのみならず、バスにまでエフェクトのインサート可能になっている。本機のバス部には専用のダイナミクス系エフェクトやEQが用意されていなかったため、これはかなり実用的な改良である。この機能を自由度の高いインプット・パッチ機能と併用することで、例えば、“ボーカル・フェーダーの隣りにAuto-Tuneでピッチ補正した信号を立ち上げ、同じバス出力にアサインしてそこでダブリング風にまとめてコンプ+フィルター処理をする”といった複雑なミックス・プロセスも可能になる。続いて大きなバージョンアップ・ポイントの1つSONY 9-Pinコントロールへの対応を見てみよう。本機はプロの現場で業務用として活躍しているケースも多く、SONY 9-Pinサポートは要望が多かった機能だ。 特に映像を一緒に扱う場合、VTR類との同期が簡単になり、シリアル・タイムコードが直接読める上、D8Bのジョグ・ダイアルで音と映像のスクラブもできる。この機能はリモートCPUのMIDIスロットにオプションのSerial・9カード(MIDI+SONY 9Pin)を挿し換えることで可能になる。ちなみに同社HDR24とは従来通りのMIDI接続でOKだ。

さらに向上したGUIデザイン
ダイナミクス部の音質改良


これまでも十分に使いやすく好評だったD8Bのインターフェース・デザインだが、Ver5ではさらにシェイプ・アップされ操作性を落とすことなく改良と機能追加が行われている(画面②)。
▲画面② メイン画面。見た目は大きく変わらないが細かな変更などが行われている まず、メイン画面上のフェーダー脇にレベル・メーターが装備され、 プリ、ポスト、ポスト/ミュート・フェーダーからメーター・タイプを選ぶことが可能になった。また、AUX部などにメーターを移動することができたり、フェーダー下には見やすいdB表示が用意され、変更前の値を覚えるのも楽になった。さらにうれしい追加機能がAUXバーからのミュート。従来でも画面の小さなAUXバーをマウスでドラッグすることでAUX量がダイレクトにコントロールできてかなり便利だったが、今回から“Shift+Click”でミュートできる。また、画面の小さなEQカーブをダブル・クリックすることで直接Fat Channelウィンドウを開けるようにもなったのもありがたい。ここではEQカーブのみを拡大することもできる。ダイナミクス部に折れ線グラフ、LEDタイプのメーターが用意され、リダクションの効果がより確認しやすくなっている。また、ゲートが機能拡張されエキスパンダーとしても使えるようになり、ダイナミクス部分を制御するキー信号に対するEQタイプを新たに“Parametric”“Shelving”“HighPass”“LowPass”の4つから選べるようになった。さらにMIDI信号によりゲートの開閉を外部からコントロール可能になっている。これら操作性の向上はもちろん、音質の改良も進んでいる。もともとチャンネルのEQの音質に定評ある本機だが、今回、ダイナミクス部分の音質も大きく改善された。特にVer2では細い音になりがちだったコンプ部分だが、Ver5になってから深くかけても細くはならない。筆者にはソフト・ニー・スイッチをオンにしたときのコンプレッションが最も好印象だった。そのほかサラウンド関連の新機能では、新たに6.1ch、7.1ch SDDSのサラウンド・モードが追加された。さらにSetupウィンドのSurround ページで8つのアナログ・バス・アウト(通常はここにモニター・システムをつなぐ)のレベルを録音レベルとは別に設定できるようになったのもうれしい。これによって外部機器を使うことなくサラウンド時のモニター・レベルをコントロールできる。

その他の便利な機能
初期ユーザーのアップ・グレードにも対応


ここまで紹介してきた以外の細かい部分でも便利な機能追加が行われている。トラック・シートを作成できる“トラック・シート機能”はかなり詳しくミックス状態をメモしておけるので、長期にわたる作業には大変有効だ。また、いつでも呼び出せる“スクリーン・ヘルプ”(英文)も用意された。そして選択したチャンネルを初期状態にできる“Reset Selected Channnel”、マスターのL/Rをバスにコピーする“Copy mix to BUS”“スクリーン・セイバー機能”“MIXエディターの各種改良”など実用的で細かい配慮も行われている。さらにDIMレベルの調整が−20/−30/−40、inf(オフ)から選択できるようになり、これまでウイーク・ポイントであったモニター・カットの機能もしっかりカバーされた。以上のように機能追加がD8Bをより魅力的な製品に仕上げてきていることは分かっていただけたと思う。アップ・デートに際し、RAM容量は32MBする必要があるが、発売当初のユーザーが5年あまり経過した現在でも最新バージョンの恩恵にあやかれるのはうれしい限りだ。これは本機が166〜300MHz程度のリモートCPUで十分なパフォーマンスが発揮できるようデザインされていることが大きい。24ビット/96kHz対応がデジタル・ミキサーの最新スペックとなっている現在、本機の24ビット/48kHzというスペックは少し見劣りしてきたのは事実。しかし、本機の最大の魅力はメイン画面の持つ豊富な機能にある。バス・アサイン状況、全AUXセンドの量、EQカーブ、さらにはインサートされたエフェクトの名前まで24チャンネル分をこの画面だけで一覧し、ほとんどをマウス操作できる快適さだ。コンソール、マウスどちらでも好きな方で操作すればいいというぜいたくな仕様など、“使い込むほどに人間に優しいデザイン”だと痛感する製品だ。

▲コンソールのリア・パネル(一部)に装備された接続端子類(写真では拡張エフェクト・ボードを2枚搭載)

MACKIE.
D8B
1,000,000円
アップグレード価格:50,000円

SPECIFICATIONS

■コンバーター/44.1〜48kHz(24ビット/128倍オーバーサンプリング)
■SN比/115dB(EIJA)
■ダイナミック・レンジ/106dB
■DSP/32ビット処理
■周波数特性/20Hz〜20kHz(±0.5dB)
■クロストーク/90dB以下
■出力レベル/マスターXLR:+28dBu、D-Sub25バス、AUX、Insert:+22dBu
■ライン/−20〜+20dB(ch1〜12は+20〜+40dB)
■外形寸法/コンソール:221(H)×955(W)×688(D)mm、リモートCPU:133(H)×483(W)×508(D)mm
■重量/コンソール:33.1kg、リモートCPU:22.7kg