ハーモニー生成&ピッチ修正機能に加えリバーブなども搭載したボーカル用プロセッサー

TC・HELICONVoiceWorks

思いっ切り小さな声で言いたいんですけど、実は僕、かなりの音痴です。いつも歌録りで“そこはKa!、もっとはっきりKの形に口開けて”などと指令を下してる本人が、自分の声に関しては全くコントロール不能者なのです。デモなんかでも悲しい気持ちでピアノの仮メロを入れてますが、“いつかきっとテクノロジーが何とかしてくれる……”という夢は持っています。そこへ、ボイス系エフェクトの先鋭ブランド、TC・HELICONから新製品が発売されました。完全にボーカルをターゲットにしたというこの一品、果たしてこんな僕をも救ってくれるのでしょうか……。

素晴らしい説得力を持つ
ハーモニー生成機能


VoiceWorksのお題目は“マルチボイスのハーモニー生成、ピッチ補正、ダブリング効果とより完成度の高いボーカル・トラックの生成に必要不可欠な効果を統合〜”というもの。そんな資料を眺めつつ本機を取り出すと、実に分かりやすい面構えをしてました。リア・パネルにはマイク入力用のXLR、TRSフォーンのバランス仕様モノ・イン/ステレオ・アウトのアナログ入出力、デジタルはS/P DIFの入出力、MIDI IN/OUT/THRUに外部ペダル・コントローラー入力とフル装備。“あ、ファンタム電源もある(+48V)”と発見し、早速NEUMANN U87を入力してハンド・マイク(笑)にてチェック。当然マイクプリも内蔵していて、これがなかなか好感触。専用機と比べるとさすがにレンジ感は多少狭い気もしますが、詰まったり奥まったりはしない感じです。フロント・パネルにあるファンタム電源のスイッチが“2秒押し”になってる点も“プロ仕様”を感じさせます。そんなわけで、心を引き締め本機最大の特徴となっている肝心のハーモニー生成を試してみました。この機能はスケール、コード、シフト、MIDIノート入力の4つのモードのいずれかを選択して行い、どのモードでも入力されたボイスに対して4パート分のハーモニーを加えられます。これはフロント・パネルを見ても一目瞭然。ボイス・ボタン(人の形が4人並んでます)で4パートそれぞれのON/OFFを行い、LCDディスプレイでスケールやコード・ネーム、そのほかの詳細な設定を確認できます(モードごとに表示は異なりますが)。スケールやコードのプリセットも充実していて、スケール・モードでは、12のすべてのキーでメジャー/マイナーそれぞれ3種類のモーダルかつ実用的なスケールが用意されています。また、コード・モードでは、メジャー/マイナーの7th、6th〜sus、dim、aug系のあれこれがきちんと用意されてます。ピッチ・シフターを使ったことのない方に少しだけ解説しておくと、いわゆるピッチ・シフト系エフェクターでは、例えば3度上の音程を加えたい場合、CはEに、DはF♯、EではG♯の音程が生成されるんですが、本機のコード・モードでは、Cメジャー・コードを設定した状態でCはEに、DでもEに、EでGになんていうように、すべてのボイスが常に指定したコードの構成音を維持してくれるので音楽的にハモれるのです。で、肝心のハーモニー音なんですが、ここが最もテクノロジーの進歩を感じさせてくれたところでした。特に4声でのハーモニーの説得力は素晴らしいものです。普段、僕はこうしたピッチの変更に複数のプラグインを用途別に使い分けているのですが、その選択肢の1つに加えられる出来栄え。単音でオクターブ以上の上のハーモニーを聴くと、多少ケロってる感じのときもありますが、ポルタメント使用時もぎこちなさは感じさせません。“よくできた演算”などと感心しつつ、マイクをつかんだまま“ひとりクィーン”なぞにハマってしまいました。なお、本機では基本的に2オクターブ上下までシフトできます(MIDIノート・モードでは入力されたMIDIノート情報に追従)。さらに、4つのボイス・ボタンはオン/オフのほか、ダブル・クリックすることで、その他の詳細なエディットができる階層に入れます。ここではレベルやボイシングを簡単に変更できますし、ボイスのフォルマントを変化させて“ひたすらディープ!”にしたり、アニメ声風にまで幅広く変化させられます。そのほか、スタイルと量を設定できるビブラートやL/Rへのパンニングも可能。ボイスに厚みを加えるエフェクト、Thichkenもハーモナイザー系の音作りにマッチしていて好感触でした。

スケールのカスタマイズも簡単な
ピッチ・コレクト機能


さらに、本機のイマドキな機能がピッチ・コレクトでしょう。これでボーカルの音程を修正できるわけですが、ハーモナイザーと併用できるってところが一歩先を進んでる感じです。キーやメジャー/マイナーのスケールもすぐ指定できるし、スケールのカスタマイズも簡単でした。僕のように、コンピューターの画面上でピッチの修正幅をグラフィカルに書き込むのが習慣となっている(悲しい)身には、エディット加減を本機のLCDディスプレイでどれくらい感覚的に把握できるのか不安でしたが、エディット画面で♯/♭それぞれへの振れ幅も確認でき、機能的には必要十分といった感じ。かなり細かく追い込めます。そのほか、本機にはT.C. ELECTRONIC製の3バンドEQ(ロー・カット付き)やコンプレッサー/ゲートといったダイナミクス系、それにリバーブやタップ・テンポ・ディレイといった空間系エフェクトも内蔵しています。さらに、30プリセットまでの切り替えに対応したソング・モード(ソングは50まで保存可能)も用意されていて、細か〜な設定をオプションのSwitch-3(10,000円)という3つボタン仕様のフット・スイッチで切り替えることができます。また、このフット・スイッチには、生成されたハーモニー・パートだけを伸ばし続けられる“Harmony Hold機能”もアサイン可能。例えば、曲のエンディングなんかで白玉ハーモニーを伸ばしたまま、自分はアドリブ・スキャットをかっこよく決める、なんていう“1人ゴスペラーズ状態”も楽しめそうですね。こうした機能の充実ぶりをみると“そうか、VoiceWorksって実はライブ・パフォーマンスってことも深く考えて作られているんだ”という事実も理解。なるほど、これからのハードウェア製品に求められている条件の1つは、スタジオからライブまでのパフォーマンスに付いてきてくれることだったんですね。うーん、本当にイマドキ仕様!!

▲リア・パネルにはマイク・イン、ライン・イン、デジタル入出力、MIDI端子などを装備

TC・HELICON
VoiceWorks
150,000円

SPECIFICATIONS

■DAコンバーター/24ビット、128倍オーバーサンプリング
■周波数特性/20Hz〜20kHz(+0/−3dB)
■デジタル入出力/S/P DIF(RCAピン)、サンプリング・レート:44.1kHz、48kHz
■アナログ入力/マイク・イン(XLR、TRSフォーン)、ライン・イン(TRSフォーン)
■アナログ出力/L/R(TRSフォーン×2)
■MIDI端子/IN/OUT/THRU
■外形寸法/483(W)×44(H)×195(D)mm
■重量/1.85kg