高音質が魅力のアンプ・シミュレーター/エフェクト/リズム・マシンの三位一体ツール

ROGER LINN DESIGNAdrenaLinn

世界初のPCM音源機LINN LM-1に始まり、LinnDrumなどのリズム・マシンの名機や、AKAI PROFESSIONAL MPC60/3000などの開発で名高いロジャー・リン氏。彼の発明の軌跡は1980年代以降の音楽史を紐解くキーワードの1つと言っても過言ではない。そのカリスマが新たにROGER LINN DESIGN社を設立。その第1弾製品としてAdrenaLinnを発表した。当然次世代型リズム・マシンかと思いきや、ルックスはコンパクト・エフェクター。さてその中身はいかなる内容か。

充実のアンプ・モデリングと
操作性に優れたグルーブ・エフェクト


AdrenaLinnはアンプ・モデリング/グルーブ・エフェクト/リズム・マシンが一体となったツールであり、これら3つの機能を184(W)×32(H)×143(D)mmというコンパクト・エフェクター並みのサイズにパッケージしている。入出力端子はインプットとステレオ・アウト、ヘッドフォンにMIDI IN/OUTで音源としては標準的だが、コンパクト・エフェクターとして考えるにはいささか特殊な装備と言えるかもしれない。まずはアンプ・モデリングをチェックしたのだが、いきなり音が良くて驚いた。アンプ・モデルは12種を用意(Fender Bassman / Fender DX Reverb / Small Fender / Early Marshall / Classic Marshall / Modern Marshall / VOX AC-30 Top Boost / Matchless Chieftan / Boogie Rectifiler / Soldano / Fuzz Box / Clean Preamp)。同じメーカーのものでもオールド・タイプと現行型が用意されているなど、そのクオリティは高い。ギター・アンプからマイク録りしたような音圧感と奥行きがあるものなので、宅録環境などでライン録りを余儀なくされている方にはぜひ試していただきたいものだ。次にグルーブ・エフェクトだが、これはギターなどインプット・ソースからのエフェクト音を内蔵リズム・マシンやMIDI接続した外部機器と同期する機能だ。例えば完全にテンポ・シンクして16分で揺れるトレモロ、8分のディレイ、オート・パン、ロータリー・スピーカー、正確に4小節サイクルでループするフランジャーなど、曲にシンクしたエフェクトを簡単に作り出すことが可能だ。さらに、テンポを変えてもすべての設定が追従するのだが、各パラメーターのエディットも分かりやすく、Editセクションに表記されている8段4列のマトリクスを見ながらボタンとノブの2アクションで設定を行えるようになっている。エディットするパラメーターのある横に並ぶ段をボタンで選択し、縦の列の上にあるノブで値を変えるだけでOK。幾つも重なった階層を呼び出すというシンセのような面倒な作業は一切ない。

2小節32ステップの
フィルター&リズム・シーケンス


さらに、本機はエフェクト・プリセット(ファクトリー=100/ユーザー=100)それぞれにフィルター・シーケンスを加える機能を有する。これはプログラムされたシーケンスにフィルターやエンベロープ、LFOなどの設定を反応させるもので、リズム・マシンやほかのトラックとシンクしてフィルタリングをフレーズ・ループできる。シーケンスは2小節32ステップで先に触れたEditマトリクスを使って設定する。このエディット方法が独特で、8×4=32個に割り振られたステップのレベルをノブで変えるといった至ってイージーな仕組みになっている。まるでアナログ・シーケンサーのような手軽さだ。このフィルター・シーケンスとエフェクトを駆使することで、ギター然としたフレーズから逸脱した全く新しいサウンドを生み出すことも可能だ。そこにはクリエイターを刺激するさまざまな偶発的要素が潜んでいると言えるだろう。このようにエフェクトに傾倒したAdrenaLinnだが、本家と言えるリズム・マシン部は意外にもあっさりとまとめられていた。シーケンスはフィルター・シーケンスと同様の2小節32ステップで、シーケンスのプログラムも全く同じ要領で打ち込んでいく。ドラム・サウンドはキック/スネア/ハットが各9種、パーカッションは15種。プリセット・パターンはロックやエレクトロ、ヒップホップなどのファクトリー・プリセットが100(ユーザー=100)となっている。リズム・マシンならではのジャストなノリが基本だが、絶妙にスイングするクオンタイズ機能も装備している。さらに、ドラムの信号をフィルターやアンプ・モデリング、ディレイにアサインすることによって、より積極的にリズム・サウンドをデザインできることも見逃せないポイントだろう。ここで作り込んだトラックを元にサンプラーなどで膨らませてアレンジしても面白そうだ。さらにEMAGIC SoundDiverを使ってPC/Macintoshでプリセットやドラム・ビートのエディット/保存することもでき、ほかのユーザーとのデータ交換などが可能なのも見逃せない。このようにユニークな機能と操作性は既にワン&オンリーなオリジナリティを感じるが、AdrenaLinn最大の魅力はその音の良さだと思う。共同開発者にSEQUENTIAL Prophet-5の開発で知られるデイヴ・スミス氏、OBERHEIMの創業者であるトム・オーバーハイム氏らの名が挙がっていることからも、その気合の入れようがうかがえるが、何と言ってもロジャー・リン氏がギタリストであることが成功の要因なのではないだろうか。昨今のシンセは過剰とも言えるくらいにアイディアで埋め尽くされた充実ぶりだ。しかし、ギター周辺の機材はまだまだ脆弱だと言えるだろう。AdrenaLinnはギタリストが新たなる冒険にチャレンジするための布石となる機材になるポテンシャルを持ったモデルだと感じた。
ROGER LINN DESIGN
AdrenaLinn
オープン・プライス(市場予想価格53,000円前後)

SPECIFICATIONS

■入出力端子/インプット(TRSフォーン)、ステレオ・アウトプット(TRSフォーン)、MIDI IN/OUT、ヘッドフォン
■シーケンス/2小節32ステップ
■AD/DA/24ビット、40kHz
■信号処理レート/32ビット
■ディレイ・タイム/最大1,000msec
■外形寸法/185(W)×32(H)×143(D)mm
■重量/620g