ECC833&ECC81タイプの真空管を3本使用した2chマイクプリ

HDB AUDIOTMA 2

昨今デジタル機器が、日常的に録音の現場で使われる時代になってきていますね。アナログの楽器やエフェクターなどの機材をシミュレーションしたソフトも、数多く出ています。

今回紹介するHDB AUDIO社は、アナログのシンセサイザーやフィルター/フェイザー/モジュレーターなどアナログ・サウンドにこだわった機器を、数多く作っているドイツのメーカーです。今回真空管サウンドを前面に押し出した3種類の新製品の中から、マイク・プリアンプTMA 2 についてチェックしていきたいと思います。メイド・イン・ジャーマニーの実力はいかに!?

ブルーのインジケーター・チューブが
洗練された印象のデザイン


本機の大まかな機能は2チャンネルの独立したマイクプリで、バランス/アンバランスのインプット(それぞれXLR/フォーンのインプットあり)に対応。コンデンサー・マイク用のファンタム電源(+48V)も搭載していて、入出力ともにコントロールできます。そしてTMA 2の最大の特色は、入力段、増幅段、出力段の3段階の増幅回路にECC83&ECC81タイプの真空管を3本使っていることです。外観は、奥行きがおよそ12cmの1Uで、左上部に真空管3本の放熱のためのスリットが空いています。つや消しの黒いボディにはシルバーの大きめなつまみがインプット/アウトプット用に4つ付いています。フロント・パネルに電源以外のスイッチはなく、とてもシンプルなデザインです。インプット・ボリュームの隣にあるインジケーター・チューブ(ボリューム・メーターとしても機能)は薄いブルーで立体的。薄暗い部屋に映える、かなりしゃれたデザインです。リア・パネルは、XLRのイン/アウトとアンバランス・インプット、ダイレクト・アウトが、それぞれ2つずつ用意されています。電源は100V仕様で、ほかにはファンタム、A+Bミックス、フェイズのスイッチが3つ付いています。

中低域に粘りが出ていて
存在感のある音色


それでは、実際にマイクと楽器で音を出しながらチェックしてみましょう。まずダイナミック・マイクとコンデンサー・マイクをTMA 2とYAMAHA 02Rのマイクプリ部(アナログ部分)、NEVEの1073、33415の2種類のマイクプリでの聴き比べをしました。チェックの前に少々困ってしまった点があります。TMA 2以外の機材は、最大出力が+22〜28dBuなのですが、TMA 2の最大出力は+6dBuと、20dBu前後の出力差があり、S/Nの差やサウンド・キャラクターの細かい部分までは、チェックすることができませんでした。まずこの出力差を埋めるために、アナログの機器で出力を合わせたいと思い、コンプレッサー(バイパス設定)で出力を調整。極力コンプレッサーの特性が出ないように、レベルの違う状況でチェックしました。まず、通常の声でのチェックです。さすがに、各マイクプリのキャラクターの差は、随分出ました。02Rに比べると、音の存在感にまるで差が出ています。これは“太い”と簡単に表現することのできない音色の差で、TMA 2の方が実に音楽的/立体的なサウンドになりました。NEVEとの違いの方はというと、価格差もあるので比べてはかわいそうですが、太さを感じるポイントが少し違い、全く質感の違うサウンドです。TMA 2の方がより中低域に粘りが出る感じの音がしていました。楽器入力、シンセやギター、ベース用にハイインピーダンスの入力も用意されていますので、それぞれでチェックしましたが同様の印象を受けました。声と楽器チェック時、ともに感じたことですが、インプットのレベル設定でサウンドのキャラクターが変わります。個人的には歪みの出るギリギリのポイントが一番好きかな! 逆にインプット・レベルが小さ過ぎると、高域成分が少し物足りないかも。インプット・レベルが大きいと、結構いい歪み方しますよ! ただ、音量でコントロールしないといけないため(歪むつまみではない)、ダイナミック・レンジの広い音源の場合は、音色もサウンドも変わってしまうので注意が必要です。真空管のビンテージ機器は、結構レベル設定が難しく、おいしい設定(レベル)はそんなにたくさんは無いですからね。TMA 2は、そういう意味でも、現在の万能でコスト・パフォーマンスの高い機器とは根本的にコンセプトの違う製品なのでしょう。

シミュレーションではない
真のビンテージ・サウンド


ちょっと意地悪な実験をしてみました。電源投入時からの音の変化・安定具合をチェック。まず、電源を入れると20秒ほどでインジケーター・チューブが点灯します。3分から1時間の間(約3/6/10/15/20/30/60分)で音の変化を順にチェックしていきます。それぞれ同じ物を録音して聴き比べました。真空管が暖まっていない状況では高域が少し足りなくなり、音量が大きな時は歪みやすくなります。10〜20分辺りは音質のバラツキが出て、特に高域が急に出てきたり、暴れたり、かなり不安定でした。30分以降の音質は安定してくるので、セッションの1時間くらい前から電源を入れてウォーム・アップしてから使いたい製品ですね。リア・パネルのMIXスイッチをONにするとA /B両チャンネルがミックスされて出力されますが、2種類のマイクや、ラインとマイクを混ぜたいときなどは便利な使い方ができそうですね。残念な点としては、リア・パネルにファンタム、A+Bミックス、フェイズのスイッチが付いているので、ラッキングしていたり、ハード・ケースに入れて使うときにはちょっと切り替えが大変なところと、ファンタムが2つのチャンネル一度に掛かってしまう点、フェイズが片側(Bのみ)にしか付いていないことですかね。TMA 2は、本来の真空管の増幅回路の良いところと不便な部分を両方盛り込んだ、シミュレーションではない、真のビンテージ・サウンドを作り出せるマイクプリです。同シリーズの2機種も興味津々ですね。それにしても、インジケーター・チューブは本当に格好いい!
HDB AUDIO
TMA 2
99,800円

SPECIFICATIONS

■入力端子/XLR(バランス)、フォーン(アンバランス)
■出力端子/XLR(バランス)、フォーン(アンバランス)
■最大出力レベル/+6dBu
■周波数特性/20Hz〜20kHz(@-3dB)
■S/N/>82dB
■電源/AC100V/50-60Hz
■外形寸法/約482(W)×45(H)×120(D)mm
■重量/2.3kg