アナログライクなステレオ2系統のデジタル・コンプ/エキスパンダー

ALESISCLX-440

ADATをはじめ数々のスタジオ機器を輩出してきたALESISから、ステレオ2系統のコンプレッサー/エキスパンダーCLX-440が発売されました。外見から受ける印象から、普通のアナログ機器かと思いきや、何とデジタル! しかも入出力端子がすべてアナログで、デジタル入出力を一切持っていないのです。何点かの疑問を抱きつつ、早速チェックしてみましょう。

アナログ機器のような操作性
サイド・チェインなどの機能も充実


まず、このCLX-440の外観から。これまでのALESISには無かったシルバーの2Uボディで、奥行きは152mmとかなりコンパクトです。フロント・パネル上部には、入力/出力レベルとエキスパンション、ゲイン・リダクションという4つのバー・メーター。その下には、上段にコンプレッサー、下段にエキスパンダー用のコントロール・ノブがそれぞれ6つずつあります。そのほか、コンプレッサーとは別系統のリミッターと、トータルの入出力レベルのノブを合わせて、1系統につき15個のノブが付いています。これが2系統(A/B)あるので、全部で30個のノブがフロント・パネルに並んでいます。スイッチ類は、電源とバイパス、サイド・チェイン、外部キー・インがあり、chB側にはルック・アヘッド(入力信号のピークを確実にとらえるために、バッファー・メモリーに読み込んでから信号処理をする機能)のスイッチが付いています。一方、リア・パネルには−10dB/+4dBでのレベル切り替えスイッチがあり、入出力端子はTRSバランス。そのほかダイレクト・アウト、サイド・チェイン・イン、キー・インも用意されています。このようにノブやスイッチの数は多いのですが、全体的な印象としてはそれほどうるさくないデザインで、機能的に配置されています。入出力端子やパネル・デザインからは、全くのアナログ機器にしか思えません。また、セッティングをセーブしたり、プリセットが用意されていたりといったメモリー機能も一切ありません。

ALESISの伝統を継承した
音楽的な明るいサウンド


それでは、実際に音を聴いてみましょう。今回は、DIGIDESIGN 888 | 24 I/OでPro Toolsのマスターにインサートしてチェックしてみました。+4dBでつなぎましたが、イン/アウト共にノブの位置は10時程度の設定でちょうど良くなりました。単独のチャンネルにインサートする際には、もっとレベルの大小差があるので、このくらいの可変幅があるのは便利です。音色的には、低域がやせたり、高域に癖があったりといった問題は特になく、トータル・コンプレッサーでの使用に十分な音質ですが、CLX-440をインサートしたときの方が、若干明るめになったかな! これまでのALESISの機器全体に感じられた“音楽的な明るいサウンド”がCLX-440にも継承されていると思いました。SN比、ダイナミック・レンジも特に問題なく、小さな音の際にも十分な表現力を持っていると思います。ただし、過大入力では歪みが起きますが(アナログ回路で起きていると思われる中域での歪み)、美しい歪み方(グッとくる感じ)ではないので、そういう使い方にはあまりお薦めできません。唯一、このCLX-440がデジタル・エフェクターだと感じる機能は、chBにかかるルック・アヘッドです。このスイッチを押すと2msecほどレイテンシーが生じますが、アタック・タイムは最短0.02msecまで追い込めるので、トータルにコンプレッサーをかけて音圧を稼ぐ用途にも使えます。実際には、それほど大きな遅れは感じませんが、特に生楽器やボーカルのレコーディングではちょっとした遅延でも気になるので、ミックス・ダウン時に使う方がいいでしょう。このルック・アヘッド・スイッチをオンにしたときには、ちょっとだけ音にリッチさが増したような気もしました。使ってみて感じたのは、コンプレッサー/エキスパンダー共に、スレッショルド、アタック、ホールド、リリースなどのパラメーターが同じ並びになっているので、最初から感覚的に使えることでした。かつて、中身がアナログなのに、コントロール部分がボタンのみのデジタルな機器や楽器がありました。デザインは格好良かったのですが、実際にはコントロールやエディットが面倒で、すごく不便だった記憶があります。このCLX-440はその全く逆で、完全にアナログ的なコントロールのデジタル機器。しかも2系統のステレオ仕様です。アナログ機器だったら回路の数だけコストがかかってしまいますが、デジタル機器であれば、メインの回路(演算ボード)は1つで済みますしね。今回のチェックでのちょっとした失敗談なのですが、工場出荷時のノブの設定がすべて12時の位置で、その設定のままつないで鳴らしたらものすごい音になってしまったのです。プリセットのある機器ならば、そうしたことはおよそあり得ない……つなげばある程度の音は出てくれるのと比べると、まさに“一から音を作れ”と言わんばかりです。プリセットを呼び出して……という使い方ではなく、一から使い方を考えながら設定しないといけませんから、エフェクターの使い方を覚えたいという初心者にはうってつけかもしれません。昨今のデジタル機器の発想に一石を投じた本機は、コンセプト・実力・価格ともに、特にビギナーにはちょうど良いモデルだと思います。
ALESIS
CLX-440
85,000円

SPECIFICATIONS

■AD/DAコンバーター/24ビット/48kHz(128倍オーバー・サンプリング)
■周波数特性/22Hz〜22kHz(±0.5dB)
■最大入力レベル/20dBu
■入力インピーダンス/10kΩ
■最大出力レベル/20dBu
■出力インピーダンス/220Ω
■SN比/103dB
■全高調波歪率/0.003%未満
■外形寸法/483(W)×152(D)×89(H)mm
■重量/2.27kg