新機能搭載でトリッキーなエフェクトが可能になったDJミキサー

PIONEERDJM-3000

DJの世界は、何たってアナログ・レコードを使い続けているくらいだから、機材に関しても相当保守的な部分があって、ターンテーブルやミキサーといった最重要機材は、ずっと昔からほぼ同じものが使い続けられている。新製品が出ても、結局競争に負けていくケースがはなはだ多い。

ところが1994年に発売されたPIONEER DJM-500は、一気にDJミキサーのスタンダードの地位にのし上がった。非常に完成度の高い製品であった上に、すべてのチャンネルにレベル・メーターを搭載し、オートBPMカウンターという画期的な機能や、手元でワンタッチ操作できる多くのエフェクト類を備えており、約10万円という驚きのコスト・パフォーマンスを実現していたからだ。さらにDJM-500発売後には、DJシーンが急速に各方面から脚光を浴びることとなり、まさにこの発売のタイミングの良さが、DJM-500を一気にスタンダードにまで定着させた要因の1つとも言えるだろう。言い換えれば、昨今のDJシーンの発展の一翼を担った製品でもある。

そしてDJM-500はDJM-600へと変ぼうを遂げ、新たにオート・ビート・サンプラーを搭載し、オートBPMカウンターもより高精度のものになったほか、EQゲインの可変幅の拡張など、さまざまな部分でバージョン・アップされた。ヨーロッパの著名なDJの中にも、DJM-600をフェイバリット・ミキサーとして挙げる者が多い。

そして今回登場したのが、DJM-600の機能を継承しつつ、よりコンパクトでラック・マウントも可能になったDJM-3000である。

クロスフェーダーとエフェクターが連動
3種類のエフェクト・ミックス機能


このDJM-3000、ラック・マウントを可能としている分、表面パネルには金属板を使用し、メタリックで重厚なイメージになった。本機の新機能には、3種類のエフェクト・ミックス機能がある。これはクロスフェーダーとエフェクターを連動させたもので、クロスフェーダーの操作によってエフェクトのかかり具合をコントロールするという、全く新しい発想のエフェクターだ。まずECHOでは、エフェクター部で指定した拍数分のリピート音を、クロスフェーダーで音量を変化させながらつないでいく。ZIPはクロスフェーダーを動かしていくと徐々に音程が下がっていき、ターンテーブルの回転を止めるような雰囲気をシミュレートするというもの。そしてROLLではクロスフェーダーの位置によりリピート音の拍数が1/1から1/8までの4段階で変化させることができる。"ドゥルルルル"といったロール音を次の曲にミックスしてつないでいくといった具合だ。またこれらはクロスフェーダーの操作をせずとも、ボタンを押すだけのオート操作も可能。クロスフェーダーはAの位置のまま、ボタンを押すだけでエフェクト音が重なってBの音にシフトとするという、非常にトリッキーな機能だ。オートBPMカウンターは、DJM-600譲りの高精度なものを採用し、よほどビート感の希薄なものでなければ、まず問題なく正確なBPMをたたき出してくれる。このBPMに連動したビート・エフェクター部も、ディレイ、エコー、オート・パン、オート・トランス(音を周期的にカットする)、オート・フィルター、フランジャー、リバーブ、ピッチ・シフターといった充実した内容だ。

デジタル・アウトを装備し
プロの現場にも対応


また本機には、新たに同軸のデジタル出力端子が2系統備わって、高品位なデジタル・レコーディングをダイレクトに行うことが可能となった。ほかにもラインで7系統、PHONOが4系統、マイク3系統の各入力類、2チャンネルずつのセンド/リターンやRCAピンとXLRの2種類のマスター出力など、豊富な入出力端子を装備。プロフェッショナルな現場での使用に完全に対応した仕様となっている。各チャンネル・フェーダーは別売のロータリー・ボリュームに交換も可能で、ハウスなどのロング・ミックスを主体とするスタイルのプレイにも対応。またPIONEERならではの機能として、同社のCDJシリーズとの接続により、フェーダーの動きと連動してCDの演奏をスタート/バックさせるフェーダー・スタート・プレイがあるが、これまでは2チャンネル分にしか機能しなかったのに対し、本機では4チャンネルすべてに対応することとなった。残念ながら、DJM-600にあったオート・ビート・サンプラーは装備されていない。これまでのDJMシリーズではクロスフェーダーとチャンネル・フェーダーのストロークが同じというのが隠れたミソでもあったのだが、本機ではサイズがコンパクトになった分、チャンネル・フェーダーのストロークが若干短くなり、クロスフェーダーの方が長くなってしまっているのが残念。EQなどのツマミ類が小ぶりになっているのも惜しい。各ツマミ間には十分なスペースがあるため、つかみにくくはないが、現場でのダイナミックなプレイにはツマミが大きい方が力がこもって気合いも入るというもの。ただしこれらの点は、使い込んでいけば全く問題無いだろう。それとは逆に、ビート・エフェクター部においては、数値を表示するLEDとそれを設定するツマミ類が横に配置されている点が非常にうれしい。これまでは縦に配置されていて、ツマミと数値表示の関連性がつかみにくかったのだが、エフェクター部をコンパクトに配置したため、より見やすくなり操作性もグンと増した。エフェクターの操作をより積極的、直感的に行うことができるようになったのは、上記のマイナス面をカバーするに足るアドバンテージと言えるだろう。先進的な技術を盛り込んでスタンダードを築き上げてきたPIONEERが、また一歩前進したことを感じさせる製品だ。
PIONEER
DJM-3000
125,000円

SPECIFICATIONS

■入力端子/LINE×7系統(RCAピン)、PHONO×4系統(RCAピン)、MIC×3(XLR/フォーン、フォーン×2)
■出力端子/マスター・アウト×2系統(RCAピン、XLR)、RECアウト(RCAピン)、BOOTH MONITOR(RCAピン)、デジタル・アウト×2系統(コアキシャル)、ヘッドフォン・アウト
■周波数特性/20Hz〜20kHz
■外形寸法/482(W)×107(H)×220(D)mm
■重量/6.7kg