シンプルな操作性が魅力の高性能なデジタル・ワークステーション

YAMAHAAW16G

皆様お元気でしょうか? ひさびさのレビュー執筆だが、今回はYAMAHAのAWシリーズの3モデル目であるAW16Gを紹介しよう。思えば、元祖であるAW4416から始まり、AW2816というダウン・サイズ・モデルが登場、そして今回はAW16Gのリリースとなったわけだ。AW2816よりもさらにコンパクトなボディになり、価格もリーズナブルになったAW16G。一体どのような製品に仕上がっているのだろうか?

AW4416とAW2816の優れた点を凝縮し
コンパクトなサイズを実現


私のところに届いたAW16Gの梱包を解いて中身を取り出した最初の印象は、そのコンパクトなボディと相まって今までのAWとは全然違うというもの。これまでのAWシリーズの2機種はレコーディング・ワークステーションという感じがプンプンにおう代物だったが、AW16Gはどちらかと言うと楽器寄りではないかと思うほどなのだ。しかし、中身はAWの伝統である16トラックのハード・ディスク・レコーダーと高品位なデジタル・ミキサー&デジタル・エフェクト、さらにオプションでCD-R/RWが用意されているなど、基本をきちんと押さえた内部構成になっている。それに加え、オーディオ・データの互換性も保たれているので、AW16Gでレコーディング&ダビング後、AW2816やAW4416でミックス・ダウンすることも可能だ。このようにAWユーザー同士でCD-Rなどのメディアを通じてコラボレーションしながら、楽曲制作できるのも魅力だろう。今までのAWシリーズは、どちらかというと宅録マニアやプロ系の人たちにターゲットを絞ったモデルだという印象も強かったのだが、ここで一気にその間口を広げて、宅録初心者までも取り込もうという意欲的な製品になっている。実際、AW4416などは持ち運びをするのにとても重かったのだが(特にツアー・ケースに入れると、重量的に手で持ち運ぶのはつらい)、このAW16Gは本当の意味でポータブルという言葉が似合うマシンになっている。コストの問題で、拡張スロットやオムニ・アウトなどの入出力は割愛されているが、基本的に必要だと思われる最小限の入出力はサポートされているので、実作業上で問題が起こることは考えにくいだろう。この辺りは実に上手に落とし込みがされており、ハード・ディスク・レコーダー初心者やギターなどのプレイヤーにも簡単に操作できるように設計されているので、安心してトライしてほしい。まず、スペック的な部分から紹介してみることにしよう。ほかの上位機種に慣れている自分からすると、非常にコンパクトで、見た目の印象が違うので多少とまどってしまったが、リア・パネルの入出力は次の通りだ。
●入力群:XLR入力×2(ファンタム電源対応)、ライン入力×6(TRSフォーン・ジャック仕様)、ハイインピーダンス楽器入力×1(インプット8とパラレル接続)、S/P DIFデジタル入力×1
●出力群:ステレオ出力×1、モニター出力×1(ステレオ)、S/P DIFデジタル出力×1、ヘッドフォン出力×1 このようにホーム・レコーディングで必要となる入出力を備えており、エントリー・モデルとしては十分な仕様となっている。1人で多重録音などやるには16トラック/20GBのハード・ディスク・レコーダー部を持ち合わせているので、十二分のスペックと言えるだろう。上位機種のAW4416やAW2816はプロが使用しても遜色のないほどのスペックを持つ機種だが、エントリー・ユーザーにはちょっとヘビーなモデルでもあり、使いこなすためにはレコーディングのキャリアと多少の専門知識が必要なほどだった。しかし、AW16Gはハイスペックな兄貴分たちのおいしいところとユーザーが望む機能やスペックはもちろん、コスト・パフォーマンスまでがトータルで考えられた充実のモデルに仕上がっている。簡単に言ってしまえば、言葉は古いが......"羊の皮をかぶった狼"という感じだろうか。実際に本機を使ってみることにしよう。何しろ私自身が使い慣れているAW4416より圧倒的に少ない操作系統に驚く。個人的にはたくさんのボタンとツマミがある方が好きなのだが......上位機種と比較しても、基本的なものに関しては直感的な操作だけでもある程度の使いこなしができるような設計になっている。比較的大きなボタンでミスすることなくオペレーションすることが可能で、エントリー・ユーザー向きのやさしいインターフェースを備えていると言うことができるだろう。SONGメニューから新規のソングを作り、そのままざっくりと録音することも可能。回線のパッチはAW2816から採用された視覚的に分かりやすいパッチ・システムを用意しており、好きな入力回線を任意のトラックにルーティングする設定が簡単に行える。また、ライブ・パフォーマンスやバンドなどで演奏したものを一気に録音するために、ストレートなパッチをすぐに設定できるプリセット・パターンも用意されており、外部機器との同期などを考えないのであれば、即座に録音可能だ。AW16Gは8トラックの同時録音ができるので、複数のマイクを立てた本格的なレコーディングや、バンドの一発録音などにも対応している。

充実のミキサー・セクションと
ディストーションも搭載したエフェクター群


次に、こんなにコンパクトなのによくぞここまでと思うくらい充実したミキサー・セクションを見ていこう。総入力数36chという驚きの入力数を装備し、アナログ入力が8ch、デジタル・ステレオ入力2ch、レコーダー・リターン16ch、パッド入力8ch、内蔵エフェクト・リターン4chと本格的な仕様になっている。さらに、ほとんどのチャンネルに、4バンドのパラメトリックEQとダイナミクス・プロセッサーを装備。その上、AD/DAは24ビット、内部処理が32ビットと、上位グレードのデジタル・コンソールと比較しても遜色のないものになっている。内蔵エフェクトは、YAMAHAのお家芸とも言えるデジタル・マルチエフェクター(空間系、モジュレーション系、歪み系)を2系統装備。通常で使用するようにセンド&リターンでも使えるが、それ以外に各チャンネルのインサートとしても使用可能で、これによってエフェクト含めたサウンドを録音することも可能だ。また、ディストーションやスピーカー・シミュレーターなどのギターのレコーディングで多用されるエフェクトが新たに搭載されていることもポイントだろう。そのほか、EQやダイナミクス、パンも専用のつまみが装備されているので、いちいち画面からパラメーターを呼び出して、ダイアルでセッティングをする必要もなく、目的のチャンネルを選択したら即座にグリグリと調整できるのもうれしいところ。専用のつまみで大まかなセッティングをしてから、あとでディスプレイを確認しながら細かくセッティングをすることも可能だ。ちなみに、サウンドの傾向として高域はヌケの良いサウンドなのだが、個人的にはちょっと低域の締まりが悪いかな?と思った。しかし、実際に使用するには問題の無いレベルだし、この辺は好みの問題も当然あるので、EQやダイナミクスで対処できるだろう。

サンプリング・パッドには
ループ・モードを新たに搭載


AWの何がすごいと聞かれれば、"そりゃサンプリング・パッドでしょ?"という方も多数いると思うが、もちろんAW16Gにも装備されている。しかも、その内容がさらにグレード・アップされており、なんとサンプルのループ・モードが搭載されたのだ。従来のサンプル・パッドは1ショット・トリガーなもので、SEのポン出しなどに便利なのだが、AW16Gで新たに搭載されたループ機能のおかげで、フレーズやリズムのループを延々演奏させることもできるようになった。また、パッドのイベント・リスト・トラックも健在なので、ベーシック・トラックをパッドで作ることもできるようになったのだ。この本体液晶の下にある4つのパッドには各A〜Dまで4つのバンクがあり、最大で44秒、計16種類のサンプルを扱える。また、内蔵ディスクにサンプル・ライブラリーという合計250MB以上の便利な素材があらかじめインストールされているので、これらを利用して楽曲のイメージを組み立てることも可能だ。収録されている素材は、効果音とドラムのフレーズなどのループに適した素材で、本体同梱のCD-ROMにも収録されている。こんなにおいしいものを使わない手は無いだろう。さらに、これまでのAWシリーズには無かった機能がサウンド・クリップ。これは、ユーザーが指定するサウンドを30〜180秒の間でサンプリングするというものなのだが、最大180秒も収録できるので曲制作時におけるメモやスケッチ用として使える。自由度の高いサンプル・メモとしていろんな活用法があるだろう。個人で多重録音などを考えている人にとっては、パソコンやシーケンサーとの同期環境が気になるところ。AW16Gは、そんな打ち込みベースの楽曲制作にも十分に対応できる同期環境が装備されている。扱える同期関係の信号はMTCのみなのだが、タイム・コードも24/25/29.97/30フレームの計4種類に対応しており、マスターおよびスレーブにも対応。それに加え、MMCでもマスター、スレーブをサポートしているので、シーケンサーとMIDIインターフェース、そして音源があれば、すぐに音楽制作システムを構築することが可能である。MIDIを活用した打ち込みトラックに生楽器をダビングすることで、高いクオリティで音源制作をできるわけだ。ちなみに、安定して動作させるために本機をマスターで動作させることがポイントとなる。これはハード・ディスク・レコーダーには必然的な問題で、本機をマスターにした場合は内蔵するコンピューターのクロックで正確なタイム・コードを吐き出すが、受信するタイム・コードが不安定な場合は、同期が外れるといったトラブルが発生する可能性もあるからだ。さらにAW16Gは、フロント・パネルにオプションのCD-R/RWドライブを内蔵でき、マスタリング・エフェクトも装備しているので、まさに1台だけでCD制作を行える。ライブ録音などで便利な録音後にトラック情報を付加できるディスク・アット・ワンス機能もあるので、本格的なライブCDの制作も可能。WAVファイルの読み込み/書き出しにも対応しており、1度の操作で16トラック分の全オーディオ・データをWAVファイル形式でCD-Rに焼くこともできる。高性能なPCを使って、MIDIとオーディオをダイレクトに取り扱えるシステムが多数あるが、既存のPCや音源のリソースを十分に活用することに加え、ポータブルなAW16Gを組み合わせることで、より楽しくクオリティの高い音源制作ができるようになるだろう。さらに、AWシリーズ・ユーザー同士でデータ交換もできるので、AW16G導入後の選択肢は、どのように使いこなすかだけだ。AW16Gはそのスペックと比較しても非常にリーズナブルなモデルに仕上がっているが、いろんな使い方を貪欲に開発してほしいと思う。蛇足だが、私自身もAWユーザーの1人として、もっと頑張らなければと思う今日このごろなのだ。
YAMAHA
AW16G
オープン・プライス

SPECIFICATIONS

■周波数特性/20Hz〜20kHz
■全高調波歪率/0.03%以下(@1kHz)
■ダイナミック・レンジ/103dB
■接続端子/マイク&ライン・インプット1〜2(XLR)、3〜8(TRSフォーン)、Hi-Z(フォーン:インプット8)、ステレオ・アウト(フォーン)、モニター・アウト(フォーン)、ヘッドフォン(TRSフォーン)、デジタル入出力(S/P DIF端子)
■トラック数/144:(16トラック+ステレオ・トラック)×8バーチャル・トラック
■ビット数/16ビット非圧縮
■サンプリング・レート/44.1kHz
■AD変換/24ビット、64倍オーバー・サンプリング
■DA変換/24ビット、128倍オーバー・サンプリング
■内部処理/32ビット
■外形寸法/425(W)×98.8(H)×321.5(D)mm
■重量/4.4kg(オプション含まず)
※オプション/フット・スイッチFC5(1,500円)、ソフト・ケースSC-AW16G(近日発売予定)、CD-R/RWドライブCDRW16G(オープン・プライス)