ナチュラルかつ太い音でリアルに空気感を表現してくれる8chマイクプリ

ORAMOctasonic Plus

今回レビューする製品は、従来モデルであるOctasonicをベースに、SN比の向上といったグレード・アップが行われたORAMのプロ仕様マイクプリ、Octasonic Plusです。以前、同社のEQであるHD-EQ2をレビューしたときと同様に、またもや“ORAMのすごさを思い知らされた”という感じです。ORAM恐るべし!

電源部を別ユニット化しSN比を向上
全chがライン/マイク入力に対応


筆者のスタジオ(STUDIO SOUND DALI)にはメイン・ボードのSSLとNEVEがあり、そのほかにもビンテージのNEVE BCM-10(1073)やFOCUSRITE、TELEFUNKEN、COLLINSなど、さまざまなマイクプリがあるので、自分にとって特殊なキャラクターを持っているか、よほどハイレベルなクオリティを持ち合わせていない限り、ほかのマイクプリには嫉妬しないのですが、今回は……いや“今回も”ORAMには驚かされました。その理由は後ほど説明することにして、まずOctasonicとOctasonic Plusの違いから見ていくことにしましょう。Octasonic Plusは、電源部(トランス)を別ユニットにすることでノイズを低減させ、SN比を向上させています。また、Octasonicでは7/8chがライン・レベルのみ対応であったのに対し、Octasonic Plusでは8チャンネルすべてがマイク・レベルに対応しました。この違いは2チャンネル増えたも同然なので、かなりおいしい変更点といえると思います。しかも、Octasonic Plusの特色として、もともとゲイン・マージンが広く取ってあり、全チャンネルがライン・レベルにも対応しているため、すべてのチャンネルでマイク、ラインが使用可能ということで、使い勝手はかなり良いです。フロント・パネルはシンプルな構成で、インプット・ゲインのボリューム・ノブ、フェイズ・スイッチ、ファンタム・スイッチの3つが8チャンネル分並んでいるだけ。インジケートに関してはピークを表すLEDとファンタムのONを表すLEDのみです。また、ほかのマイクプリではPADスイッチが用意されている製品もありますが、Octasonic Plusはヘッド・マージンを広く取っているため、ライン/マイク入力を問わず、単純にボリュームだけを調整すれば問題が起きることはありません。これは非常に画期的で、ミスも起きにくいため大きなメリットだと思います。さらに、インプット・ゲインのボリューム・ノブはセミステップ・トリムを採用しているので再現性があり、実際に回してみるとトルク感があって非常に好印象です。パネル上には0から70までの数値(dB)が記されていて、それが41のステップで刻まれています。ファンタム・スイッチに関しても工夫が施されていて、押し間違いや事故が起きないように、ペンなどの細い物でパネル面よりも5mmぐらい押し込まないと、ONにならない仕組みになっています。つまり、指などでは簡単には押せないということで、これは若干、不便を感じる場合もありますが、1Uの中に8チャンネル分の操作子が並んでいるのですから、安全性を考えれば当然の配慮かもしれません。個人的にはリボン・マイクをよく使うので、ありがたい工夫だと考えます。リア・パネルに目を向けてみると、“なるほど、1Uサイズだから仕方ないな”と思わされた部分がありました。インプットはXLR端子なのですが、アウトプットがステレオ・タイプのフォーン・ジャック(バランス)のみなのです。もちろん、これはスペース的な問題で仕方ないのでしょう。しかし、スタジオ・ワーク時には対応するケーブルが無かったりする場合も考えられ、接続に若干の不安を感じてしまいます。

マイキングを見事に表現
太く抜けの良いサウンドも好印象


さて、肝心のサウンドですが、正直言って驚きました。今までには無かった感動を体験できたのです。これは周波数特性であるとか、ダイナミック・レンジやキャラクターがどうのこうのという話ではありません。Octasonic Plusはマイキングで作った空気感を見事に、そしてリアルに表現してくれるのです。これはほかのマイクプリでは感じたことのないリアル感で、特にピアノを録音していたときに強烈に感じることができました(ちょっと悔しいので、何と比べたかはお教えしませんが)。モニター・スピーカー間に現れるピアノの音像が、Octasonic Plusだと弦の長さやピアノのサイズまでもが簡単に表現できたのです。ただ、こういったリアルな空気感は強調され過ぎない方がいい場合もあり、マイクプリにとってマストなものではありません。実際にOctasonic Plusでドラムを録ってみたところ、逆に空気感がありすぎてパワーを感じられない側面もあったのは事実です。もちろん、これは楽曲にもよるので、どちらが良いとは一概には言えません。キャラクター的にはとても太い音で、レンジや抜け的には抜群に好印象でした。また、さまざまな楽器を試していて感じたのが、恐ろしくSN比が良いことです。特にリボン・マイクを使う場合にはかなりゲインを上げるので、SN比が気になることが多いのですが、Octasonic Plusでは“これがリボン・マイク?”と思うほどSN比が優秀です。感想をまとめると、ナチュラルかつとても太いサウンドで、抜群にSN比の良いマイクプリと言えます。価格はオープン・プライスですが、市場での販売価格を調べてみると、これがまた驚きで、1チャンネル当たりで考えると非常にコスト・パフォーマンスの高い製品といえるでしょう。また、不思議とHD-EQ2をレビューした際と同様の“楽器らしさ”も感じました(EQやマイクプリであるにもかかわらず、です)。これは恐らく、ジョン・オーラム氏の設計や思想が、サウンドへ色濃く影響しているからではないでしょうか。本当に素晴らしいマイクプリだと思います。
ORAM
Octasonic Plus
オープン・プライス

SPECIFICATIONS

■入力端子/XLR×8
■出力端子/TRSフォーン(バランス)×8
■入力インピーダンス/マイク=1.2kΩ(バランス)、ライン=10kΩ(バランス)
■出力インピーダンス/全種類の出力共通100Ω(バランス)
■周波数特性=18Hz〜73kHz(20Hz〜20kHz偏差 1.0dB、−3dB時@45kHz)
■イコライザー回路/5Hz〜80kHz偏差1.0dB
■全高調波歪み率/0.005%(20Hz〜20kHz)
■ノイズ/マイク=−128dB(200Ω負荷時、20Hz〜20kHz)、ライン=−89dB(5Hz〜80kHz)
■規定レベル/0Vu=+4dB
■入力レベル(1〜8ch)/最大+22dBu
■出力レベル/+28dBu
■外形寸法/481(w)×187(D)×45(H)mm
■重量/2.9㎏(電源ユニットを除く)