02Rを後継する24ビット/96kHz対応のデジタル・コンソール

YAMAHA02R96

私のデジタル環境初体験は今をさかのぼること約10年前、YAMAHA DMR8というミキサー一体型のデジタルMTRを約半年にわたり使用したときであった。コンパクトでありながら音質が良く、シーン・メモリーが可能なミキサーの便利さなど、そのときの衝撃はいまだに記憶に残る。そのDMR8からは4年の月日を経て、1995年の8月にYAMAHA 02Rが発売された。当時の02Rのスペックは、20ビットAD/DA、内部処理32ビット、40ch同時ミキシング可能、99個のシーン・メモリー、ほとんどのオートメーションが可能なオート・ミックス機能、オプション・カードにより任意のフォーマットのデジタルI/O(ADATやTDIF)を選択可能等々で、現在でも上位機種の類に属すると言えるものだった。それから約7年、ついに02Rの後継機種02R96が発表された。先ごろYAMAHAは新開発の次世代カスタムLSI“DSP7”を搭載するDM2000という大規模なデジタル・コンソールを発表しているが、24ビット/96kHz処理で96ch同時ミキシングをはじめ、DIGIDESIGN Pro ToolsやSTEINBERG Nuendo等のフィジカル・コントローラー機能の搭載、サラウンド・プロダクションの充実等、そのスペックには大変な衝撃を受けた。実は02R96はDM2000と同時に開発されており、その設計思想と中身は、同時ミキシング・チャンネルが96chから56chになっていることと、若干の操作性の違いがあること以外はDM2000とほぼ同一なのだ。

DM2000同等のスペックを誇る
こだわりのアナログ段


外観は02Rと比べると高さが約10cmくらい高く、横幅と縦幅は全くと言っていいほど同じだ。アナログ・インプット数は標準で24。オプション・カード等の併用により、最大56chの同時ミキシングが可能になっている。アナログ段のクオリティに徹底的にこだわったというDM2000直系のヘッド・アンプの音色は24ビットAD/DA処理ということもあり、前機とは比べものにならないくらいクセが無い。トータルで110dBものレンジを達成しており、入力されたソースのダイナミクスをクリアに再現する、“素の音”といった感じだ。アナログ入力端子には16ch分のマイク/ライン入力(XLR+TRSフォーン)を装備し、すべてにインサート端子を有する。各チャンネルは個別に48Vファンタム電源供給も可能だ。そのほか、02Rではステレオ・フェーダー仕様になっていたチャンネル17〜24も個別のトリム、フェーダーを確保するライン入力(TRSフォーン)となっており、合計24chの入力となる。また、バス・アウト、AUXアウト、サラウンド・アウト等、用途によりさまざまなアサインが可能なオムニ・アウトもバランス型で8系統装備されている。さらに2TR-INとしてのアナログ2系統(TRSフォーン1系統+RCAピン1系統)に加え、3系統のデジタル入出力端子も装備(AES/EBU+コアキシャル×2)。このデジタル入力に関しては、サンプリング・レート・コンバーターも搭載されている。これにより、現在行っているプロジェクトはサンプリング・レートが48kHzでも、44.1kHzのリファレンスをDATデッキ等のデジタル機器で再生できる。このほかにMIDI IN/OUT/THRU、タイム・コード専用のMTC入力、XLRタイプのSMPTE入力、ホスト・コンピューター接続のためのUSB/SERIALポート、BNCのワード・クロックI/O等も装備する。また、前機同様にADATやTDIF等多彩なフォーマットへの対応を可能にするMini-YGDAIのオプション・スロットも4基装備(16chのADATカードも登場予定)。サード・パーティ製品として、APOGEEの24ビット/96kHz対応AD/DAカードAP8AD/AP8DAやWAVES社製プラグインDSPカードY56Kも発売されている。

ツマミやボタン類も増え
より快適になった操作性


一目見て感じたのは、02Rに比べ圧倒的にコントロールをするためのツマミやボタン類が増えていることだ。フェーダーも02Rではマスター・フェーダーを含め21本だったのに対し、チャンネル17〜24が単独になったために25本になっている。チャンネル構成も少々グレード・アップしており、02Rではコンプやゲート、エキスパンダー等を切り替えて1系統しか使用できなかったが、本機ではゲートとコンプを個別に装備。また、パラメーター・コントロールも02Rではカーソル・ボタンとジョグ・ダイアルによってしか行えなかったが、02R96ではSELECTED CHANNELセクションに5つのロータリー・エンコーダーとオン/オフ・ボタンがパネル上に用意されているので、非常に分かりやすく直感的に操作できる。同セクションでの、EQのコントロール方法およびその仕様も進化している。02Rでは4バンドあるうちの1バンド分を選択してQ、フリケンシー、ゲインを変更していたためストレスを感じることもあったが、02R96では4バンド分すべてのパラメーターを表示/変更可能で、かなり使い勝手が良くなっている。1バンド分のコントロール・エンコーダーはゲインとフリケンシー/Q(プッシュ・スイッチで切り替え)の2つがあり、dB/Hz/kHzをLEDで表示してくれる。このほかにも面白い変更点が幾つかある。例えば各チャンネル・フェーダー上部にあるエンコーダー・ツマミは、02RではフェーダーをFLIPさせたときの裏チャンネルのレベルを調整していたが、02R96ではENCODER MODEという設定ボタンがあって、切り替えによりPAN/AUX/ASSIGN1/2というカテゴリーでコントロールすることができる。設定をPANにしておけば、アナログ・ミキサーのように直感的に定位のエディットが行えるわけだ。またここにはFADER MODEというボタンがあり、通常のチャンネル・フェーダーのモードと、AUXの設定状況にフェーダーを切り替えられる。フェーダーのレイヤーは大きく4種類あり、02Rと同様にチャンネル1〜24/25〜48の切り替え以外に、チャンネル49〜56とAUX、BUSSのマスター・レベルを調整するMASTERセクションと、Pro ToolsやNuendo等外部DAWをリモート・コントロールするREMOTEが用意されている。何やらゴチャゴチャ感を感じるかもしれないが、02Rではチャンネル1〜24/25〜40の切り替え時にFLIPというボタンが点灯するだけで、今どのチャンネルをエディットしているか間違えることが多かったが、02R96ではこのセクションがマスター・フェーダー上部に配置されており視認性も良く、4つのレイヤー・ボタンには“1-24”“24-48”という具合に数字でチャンネルが表記されているので非常に分かりやすい。なお、100mmのタッチセンス・フェーダーの解像度は8ビット256ステップと前機の約2倍のステップで、非常に滑らかな印象を受けた。ところで私が所属するZAPP studioでは、さまざまなアーティストのプログラムのチャンネル数確保のために02Rを2台カスケードさせているが、実は大きな問題があった。02Rは、カスケード時バスのオーディオ信号が一方通行なのだ。例えばスレーブ側からマスター側には信号を送れるが、その逆はできない。このためチャンネルの多いプログラム時には、チャンネル・インプットのプランには非常に頭を悩ませた。またワード・クロックや、オート・ミックス時に必要なタイム・コードもスレーブ側には供給されず、それぞれをディストリビューターで分配し使用していた。しかし、02R96ではそれらの問題を一掃している。2台の02R96がカスケード可能で、バスの信号の相互リンクをはじめ、オート・ミックスまでの操作がシームレスに行えるのだ。また02Rではカスケードをするためにスロットを使用する必要があったが、02R96では標準でカスケード端子が装備されている。02Rとの接続も可能だ。

エディター・ソフトも同梱され
パソコンでのエディットにも対応


個人的に02R96の目玉とも言える機能として、ミキシング・エディター・ソフトStudio Manager(Windows/Macintosh対応)が同梱されている点を挙げたい。非常にお薦めなこのソフトは、TO HOST端子を介して外部パソコン上で、02R96のオートメーション以外のすべてといってよいほどのエディットが細かく行える。例えばチャンネル・モジュールの本体で即座に確認することができないAUXの各チャンネルのレベルや、同じくそれぞれのパンの定位等がパソコン画面上で確認/エディットすることが可能だ。パソコン画面上のSELECTED CHANNELを選択すれば任意のチャンネルのゲート/コンプ/EQはもちろんのこと、ルーティングやチャンネル・ディレイ等、すべてのパラメーターの確認やエディットが行える(画面①)。中でもPatch Editorは非常に便利だ(画面②)。INPUT/OUTPUTのほかにINSERT、EFFECT等の設定は、本体上で行うよりも扱いやすかった。
▲画面① Studio ManagerのSelectedChannel ModuleWindow
▲画面② 同じくPatchEditorWindow またStudio Managerを併用して作業を行った場合、パソコン上でデータの管理ができるのでセッションの管理がしやすいというメリットもある。パソコンに余裕があるユーザーはぜひ活用してもらいたい。02Rでは2系統しか装備されなかった内部エフェクトも、02R96ではかなり強化されている。96kHz動作時でも制約を受けないステレオ・マルチエフェクターを4基搭載で同時使用可能。高品位なリバーブ、ディレイ、モジュレーション系のほかに、最近では必要不可欠となってきているディストーションやギター・アンプ・シミュレーター等も装備されている。エフェクトのパッチもプリ/ポストのほかにインサートとして使用することも可能なので、さまざまな用途に対応する。また、DM2000と同様に02R96のサラウンド機能は非常に充実している。SELECTED CHANNELセクションにジョイ・スティックを装備し、複雑なパンニングも自在。5.1チャンネル対応のリバーブ、モジュレーション、ダイナミクスが用意されており、リバーブについてはER/REVのパンニングも可能だ。またBUS TO STEREO機能により、5.1ch/3.1chサラウンドで作業中にステレオのダウン・ミックス・バージョンの制作も同時進行できる。さらにモニター・セクションでスピーカー個別のミュートやDolby/DTSでのエンコード前後の比較試聴、BassManagementプロセッサーによるLFE成分のコントロールなど、この部分だけでも相当なものになっているのだ。とてもこのページ数では説明することはできないが、旧型から大幅に進化したポテンシャルを持つ02R96は、このコストのデジタル・ミキサーの最高峰と言ってもいいだろう。

▲リア部。上段左からSTUDIO MONITOR OUT(TRSフォーン×2)、CONTROL ROOM MONITOR OUT(TRSフォーン×2)、STEREO OUT(XLR×2+RCAピン×2)、2TR IN ANALOG(TRSフォーン×2+RCAピン×2)、INPUT17〜24(各TRSフォーン)、INPUT1〜16(各XLR+TRSフォーン)、INSERT I/O1〜16(各TRSフォーン)。下段はOMNI OUT1〜8(各TRSフォーン)、CONTROL、TIME CODE INPUT(SMPTE/XLR+MTC/MIDI)、TO HOST(USB+SERIAL)、2TR OUT DIGITAL(RCAピン×2+XLR)、2TR IN DIGITAL(RCAピン×2+XLR)、WORD CLOCK I/O、METER、MIDI THRU/OUT/IN、CASCADE I/O、そして右側がオプションI/O用のスロット。写真ではデジタルI/OのMY8-AE96、アナログ入力のMY8-AD96、サンプリング・レート・コンバーター付きのデジタルI/OのMY8-AE96S、そしてアナログ出力のMY8-DA96が装着されている

YAMAHA
02R96
960,000円

SPECIFICATIONS

■サンプリング周波数/インターナル:44.1/48/88.2/96kHz、エクスターナル:44.1kHz(−10%)〜48kHz(+6%)、88.2kHz(−10%)〜96kHz(+6%)
■内部処理/32ビット(Accumulator58-bit)
■全高調波歪率/CH INPUT to STEREO OUT@Sampling frequency=96kHz:<0.05%20Hz to 20kHz@+14dB into 600Ω、<0.01%1kHz@+18dB into 600Ω
■周波数特性/0.5,−1.5dB 20Hz〜20kHz@+4dB into 600Ω(@Sampling frequency=48kHz)、0.5,−1.5dB 20Hz〜40kHz@+4dB into 600Ω(@Sampling frequency=96kHz)
■ダイナミック・レンジ/110dB typ.DA Converter(STEREO OUT)、105dB typ.AD+DA Converter(to STEREO OUT)
■外形寸法/667(W)×239(H)×697(D)mm
■重量/34kg