M/Sデコーダーを搭載した高品位な8chマイク・プリアンプ

TRUE SYSTEMSPrecision8

アメリカのTRUE SYSTEMSのマイク・プリアンプ、Precision8が日本に初上陸しました。TRUE SYSTEMSの製品はアメリカ国内ではNEUMANN USAが販売を手掛けており、またSony Music USAでは今後のクラシック音楽録音用の機材としてPrecision8を公式に指定しているようですから、かなりハイファイ指向に設計されたマイク・プリアンプであろうと期待が持てます。早速チェックする機会を得ましたので、ここにレポートしていきましょう。

余計なパーツを排した高音質設計
1Uながら多数の機能を装備


スペック表を見ると、ワイド・レンジな周波数特性(1.5Hz〜500kHz/+0/−3dB)、優れたSN比(−132dB EIN/20Hz〜30kHZ)、低クロストーク(−130dB)、低歪率(0.0008%)、高ヘッドルーム(+31dBu)とその設計デザインの姿勢は十分理解できます。開発者がもともとICの設計を手掛けていたそうで、特別に選別されたマッチド・トランジスター、高性能ICとミリタリー・グレードのパーツを採用しているようです。トータル・バランスド・デュアル・サーボ・デザインにより、ファンタム・ブロック以外ですべてのコンデンサーをオーディオ経路から一掃したDCアンプ設計による徹底したこだわりも見られます。また本機は、8chのマルチマイク用を基本としていますが、ch7/8はXLR/TRSフォーンのコンボ端子を装備しており、マイクだけでなくハイインピーダンスのダイレクト入力(DI)機能を持っています。そのほかの特徴として、ch1/2にはM/S(Mid/Side)デコーディング機能が備えられています。これは若い人にはなじみが少ないと思いますが、ch1側の単一指向性(または無指向性)マイクをMid、ch2側で真横に向けた双指向性マイクをSideとするマイク・セッティング方式で、MidとSideのブレンド量により、ステレオの広がり感を調節できるというものです。8ch仕様でありながら1Uサイズへコンパクトに収められているのも評価したいポイントです。入力端子はXLRですが、出力端子にはTRSフォーン(バランス)を用いてスペース効率を工夫しています。ただこれによって、レコーダーなどのXLR入力端子に接続したい場合には変換が必要となります。また、出力は同時にTASCAM DB25規格のD-Sub25ピン・バランス端子からも得られるので、DTRS規格のデジタルMTRやハード・ディスク・レコーダー、DAW用のADコンバーターなどとの接続も容易になっています。基本的なコントロール(ゲイン、ファンタム電源のオン/オフ、位相反転)は、すべてフロント・パネルで操作できます。シグナル・インジケーターは、1Uサイズの本機としてはぜいたくな仕様で、オーバーロードのホールド機能や、接続されるコンソールやレコーダーの入力レベルに合わせるピーク・リファレンス機能などさまざまなレベル監視ができるよう工夫されています。特にこのピーク・リファレンス機能は、民生機のレコーダーなどを接続したときのレベル・マッチングには大変有効な機能です。以上のような豊富な機能を持ちながら、スイッチやツマミはワインレッド系のフロント・パネルに分かりやすくレイアウトされているので、1Uサイズでありながらもあまりきゅうくつな印象を与えません。ただ、ファンタム電源のオン/オフ・インジケーターが無いのが残念な点です。個人的には、オーバーロードのホールド表示と入れ替えても良いのではないかと思います。

生楽器の持ち味を十分に再現する
腰のあるハイファイな音質


実際に幾つかの楽器でチェックしてみましたが、スペック上に見られるハイファイ的な資質は一聴して確認することができます。ただし、周波数特性からイメージするサウンドとは若干異なる印象があり、ワイドレンジで隅々まですっきり伸びているというよりは、腰があり、ややトランスのニオイを感じさせるアンプと言えます。もちろん、透明感やつやっぽさは十分表現されていますが、とにかく食いつきの良さが本機にはあるようです。特に中高域の比較的パルスの鋭い音源のまとめ方には、従来のものではなかなかお目にかかれない良さがあり、生ギターやマンドリンなどを収録するのにはGoodです。欲を言えば、低域の伸びと粘りがもうひとつあれば、最高域の伸びも期待できるのではと感じます。その点から言えば、倍音成分の比較的多い楽器では、若干小ぢんまりとした印象を受けます。このキャラクターをうまく生かすには、マイクはチューブ系のオールド・タイプよりは、現行で購入できる新しいものの方が相性が良いと思います。Sony Music USAがクラシック用にこのPrecision8を指定しているとのことですが、私個人としてはホールのメイン用としてでなく、スタジオでの収録で使用したいアンプではないかと感じています。また、オフでセッティングするよりは、スタジオ内でオンでセッティングする方法で録音した方が、本機の持ち味を引き出してくれると思いました。本当に多くのマイクプリが発売されている昨今ですが、その中でも本機は、生楽器の本来持つ美しいサウンドを提供してくれるプリアンプの1つと言えるでしょう。

▲リア・パネル。ACコネクターの右にTRSフォーン出力端子×8、TASCAM DB25規格のD-Sub25ピン・バランス出力端子、DI対応のXLR/TRSフォーン・コンボ入力端子×2、XLR入力端子×6が並ぶ

TRUE SYSTEMS
Precision8
458,000円

SPECIFICATIONS

■入力端子/XLR×6、XLR/TRSフォーン・コンボ×2
■出力端子/TRSフォーン×8、D-Sub25ピン×1
■ゲイン/−16〜+64dB(マイク)、−4〜+44dB(DI)
■周波数特性/1.5Hz〜500kHz(+0/−3dB、ゲイン=40dB時)
■最大出力レべル/+31dBu
■最大入力レベル/+15dBu
■入力インピーダンス/5.5kΩ(マイク)、2MΩ(DI)
■SN比/−132dB EIN(20Hz〜30kHz)
■クロストーク/−130dB
■全高調波歪率/0.0008%(20Hz〜30kHz、−26dBu、100kΩ)
■外形寸法/442(W)×366.4(D)×44.2(H)mm
■重量/6.6kg