クセが無く扱いやすいサウンドが得られる低価格コンデンサー・マイク

SEIDEPC-51

今回はSEIDEの楽器用ピュア・コンデンサー・マイクPC-51をリポートします。この1年、最近発売された廉価版コンデンサー・マイクをいろいろチェックしてきましたが、価格の割には……いや、価格をヌキにしても結構“使える”ものが多く、経済的に無理の無い範囲で選択肢が増えたのはうれしいことです。SEIDEブランドのマイクもその1つだと思いますが、特にPC-M1Dなどはナチュラルでクセが無く原音忠実収録といった感じで、そのコスト・パフォーマンスの高さには驚かされました。これらのローコスト・マイクは製造をアジアで行うことにより人件費を削減し、マイク本体のボディなどもメーカー間で部品の共用化を図って、製造コストを下げることに成功しています。これは今や自動車などの分野でも世界的に行われている製造効率を上げるための手法で、クオリティを落とさずにコストを下げることができます。ですから価格が安いからと言って軽く見てはいけません。

クリアだが輪郭の太い高域が
特徴的な音像を作り出す

このPC-51も、そういった廉価版マイクの流れに位置付けられる1本だと言えます。ルックスはNEUMANN U87のようないわゆるオールマイティ・タイプではなく、AKG C451のような小径ダイアフラムのスティック・タイプです。ボディは小振りですが、重厚感のあるブラック仕上げとゴールドの文字に高級感が漂う大人なデザインです。ローカットやパッド、指向性切り替えのスイッチ類も無いため(指向性は単一のみ)、非常にシンプルです。ピュア・コンデンサー・タイプというのを売りにしていますが、これは比較的高価なマイクに使われている方式で、エレクトレット・コンデンサー・タイプと比べて、構造上ダイアフラムに使用できる素材の選択範囲が広くなるため、より薄くできたり、出力インピーダンスを下げるためのアンプを設けなくてもいいので回路がシンプルにできるなどのメリットが挙げられます。

では、本題の音の方はどうでしょう。まずアコースティック・ピアノに立ててみました。第一印象で感じたのは高音域のクリアさですが、高域まで伸びていて繊細という感じではなく、レンジ的にはやや狭く感じます。しかしヌケが悪いというわけではなく、逆にその特性が、高域の音像を太い輪郭で聴こえさせるのに効果的に働いているようです。ちょっと個人的な意見になってしまいますが、U87などで録ってミックス時にEQしたときのような音だと思いました。つまり、より完成型に近い音色ということでしょうか。

低域は高域同様クリアですが、やや下方向の伸びが少なく締まり過ぎな感じがします。ピアノを普通に録る場合にはもっとふくよかな方が好ましいと思いました。

フラットで力強いサウンド
カブリの少なさはPAにも向く

次にボーカルで試してみました。カタログには楽器用と書いてありますが、人の声はダイナミック・レンジが広く周波数も広いのでチェックには適しています。オンマイクでは中低域が膨らんだ感じですが、立ち上がりが良く子音も適度にありますので言葉の明瞭度は失われません。硬めの声の人は太く聴かせてくれると思いますが、柔らかい声の人はやや不明瞭になるでしょう。また、吹かれには結構強いです。少しオフにしてみると(50cmくらい)明瞭度はグッと上がり、よりナチュラルになります。このくらいがバランス的にも良いようです。オンで使ったときよりも中高域が張った感じになるので近接効果は強いようです。また、試しにオンで大声を出してもらいましたが歪みは全く無く、SPL(最大音圧レベル)の高いことがうかがえました。

次に、お薦めのドラムのオーバートップに立ててみました。この場合、他の楽器よりもセッティングはオフ気味になります。シンバルなど金物系の音質は高域(10kHz辺り)よりもやや下の4〜5kHz辺りが強いので、キレイな響きというよりもシンバルの厚みが実際より厚くなったような腰の座った音になります。硬いという印象はありません。こう言うとヌケが悪いようですが、そんなことはなく、繊細な高域以外はフラットに出ているので力強いという感じです。単一指向性ですが指向範囲は狭いようで、部屋の空気感はあまり感じませんでした。このようにカブリが少ないためにPAでの使用にも適していると思われます。録音ではハイハットをよりセパレートして録りたい場合やデッドなドラム・サウンドにしたい場合に効果的でしょう。

金管楽器にもお薦めだということですが、残念ながら今回は試す機会はありませんでした。しかし、これまでのチェックの結果、締まりはあるが細くならないサウンド、派手過ぎない特性などからきらびやかな響きよりも力強さ、重厚さを狙う方に向いていると思われます。

このPC-51のカタログには“扱いやすいサウンド”とうたってありますが、まさにそういう表現がぴったりです。クセの無い落ち着いたサウンドと言うと無個性なマイクと思われるかもしれませんが、基本的なクオリティは高く、良い意味で主張の無いところがこのマイクの個性と言えるでしょう。それゆえに後の加工がしやすく、EQしても素材の音色を損なうことのないしっかりしたサウンドが得られるのではないでしょうか。


SEIDE
PC-51
48,000円

SPECIFICATIONS

■指向性/単一
■周波数特性/20Hz〜20kHz
■感度/16mV/Pa(−40dB)
■出力インピーダンス/≦250Ω
■外形寸法/φ22.5×136mm
■重量/140g
■付属品/マイク・ホルダー、ウインド・スクリーン