エフェクトの独自性が光るデジタル・マスタリング・プロセッサー

DRAWMERDC2476

"あ、また出たんだ、こういうの"と言いながらも、ついつい小さい活字で載っているスペックをジッと見てしまう人は結構多いと思う。1Uのデジタル・プロセッサーは、今となっては真新しいモノではない。それでも各社は次々と開発し、他社よりも良い機能を付け、操作性を上げ、価格は同等もしくは下げて市場に送り出している。開発側からすればめちゃ大変なことであるが、それだけこの市場は大きいということなのだ! こういう場合、機材の独自性がとても重要となるのだけれど、さて、これは???

独特なボタン配置による
インパクトあるパネル・デザイン


DRAWMERといえばノイズ・ゲートが有名なメーカーで、アナログ寄りのイメージがある。ここが出すデジタル機材というだけで、ちょっとワクワクしてしまうのだが、このデジタル・マスタリング・プロセッサーDC2476はまず、見た目でインパクトがカナリある(笑)。どうしても比較対象にされるこの道の先駆者であるT.C. ELECTRONIC Finalizerの四角いボタンに見慣れていると、DC2476の丸いボタン(十字キーも丸い)と、派手なメタル・パネルの色味がとてもカワイイ。でもカワイイだけではなく、さまざまなお仕事ができるのである。


アナログ入出力端子はともにXLRで、AD部は32/44.1/48/88.2/96kHz/24ビットと、今現在使用されるであろうサンプリング周波数に対応している。AD部分の音の印象としては、中域から中高域にかけてブライトな感じだ。デジタル入出力はAES/EBU、S/P DIFの2種類で、そのほかワード・クロックをBNCで受けることができ、MIDIも付いている。プリセットのプログラムは50種類ほど用意され、ユーザー側で作ったセッティングは、内蔵RAMか別売りS-RAMカードにセーブが可能だ。


次に操作部分だが、入出力切り替えやプリセットの呼び出し/書き込みやエフェクター画面へのページ切り替えはMODE表示下の3つのボタン、PATCH、EFFECTS、GLOBALで行う。十字キーの右に付いているCHAIN/PARAMボタンで方向を切り替え、ページとパラメーターの移動は十字キーで行う。実際の値の調整はADJUSTノブを回して調整し、決定の際にはそのノブを1回押し込む。これは慣れるまでちょっと時間がかかるかもしれない。レベル・メーターの下にある4つのボタンは、各エフェクトのバイパスとソロ用のスイッチ。COMPAREボタンはいわゆるA/B切り替えボタンで、例えば現在のセッティングとロードしたプログラムを簡単に比較することができるようになっている。


入力信号の流れに沿って並ぶ
6つのエフェクト・ブロック


次は肝心のエフェクター部分だ。エフェクトは入力信号経路の流れに沿って6つのブロックで構成されている。順に説明していこう。


まず最初は"Dynamic EQ"。これは1個のパラメトリックで設定した周波数に対して、高いレベルの信号が入ってきたときにだけ動作するので、ゲインをマイナスに設定すればディエッシングまたはディポッピングされ、プラスに設定すればさらに強調することができる。周波数帯域は64Hz〜8kHzなので、クラブ系の低音を強調した音作りや、ボーカルの子音のコントロールもできるだろう。


次の"Equaliser"は5バンドのパラメトリックで、18dBのブースト/カットが可能。周波数帯域は32Hz〜22kHzとなっていて、ハイとローはカーブをシェルビングまたはピーキングに選択できる。このEqualiserの効きは素晴らしくいいので、かけ過ぎに注意が必要かもしれない。何事も初心に戻れる勇気は必要なのである(笑)。


そして今度はダイナミクス系。"Expander""Bootstrap Compressor""Limiter"へと続く。これらダイナミクス系はすべて3バンドの帯域別に動作し、各ダイナミクスごとに細かい設定ができるが、クロスオーバーの設定は共通となっている。まあ全部使うことはないと思うのでOKだろう。特にBootstrap Compressorは、1バンドだけに使用したときに他のバンドへの周波数に影響が少なかったのが印象的だった。音のにごりも少なくて、奇麗にかかる感じだ。また、Limiter部にあるStereo Imageセクションは、各帯域の位相を広げたりモノラルにしたりするもので、広がり過ぎてしまった音像をセンターに寄せたり、あるいはその逆もできる。だが、あまり広げ過ぎると逆相になっていくので、もしそのミックスで後々アナログ盤を切る予定がある場合は、カッティングに支障をきたす恐れがあるので、注意してほしい。


そして最後に登場するのが"Tube Saturator"である。プラグインなどではすっかりおなじみだけれど、こういった形は初めてなのではないだろうか。これもやはり3バンドの帯域別に処理ができる。このセクションの画面を初めて見たとき、いきなりディスプレイ上に真空管が3つ並んでいる絵が出てきたので、あまりのストレートさに笑ってしまったのだが、こういう遊び心は常に大事なのである。音も良くシミュレーションできていると思う。ちなみにダイナミクス系は帯域別にモニターすることが可能で、帯域別とフルバンドでのかかり方が確認できるのである。ここも大きな特徴であると思う。


以上、そのエフェクトの充実ぶりに至れり尽くせり感のあるDC2476だが、そこにさらなる注文をするとすれば、エフェクト・ブロックの並びを変えられるようにしてほしい! マスタリングに使用するとなれば細かい作業も多くなるので、常にEQの後にダイナミクス系を使うとは限らないのである。それからまだ欲を言うと、ユニットをバイパスしたときの音と、DSPを通っただけのときの音の差を少なくしてほしい! コンシューマーは欲張りなのである(笑)。売る側も、もちろん使う側もお互いに切磋琢磨していくことが肝心なんですね。



DRAWMER
DC2476
オープン・プライス

SPECIFICATIONS

■インピーダンス/10kΩ(入力)、50Ω(出力)
■最大入出力レベル/+21dBu
■ダイナミック・レンジ/−112dBu@48kHz(入力)、−108dB(出力)
■クロストーク/−80dB@10Hz〜20kHz
■全高調波歪率/0.008%@1KHz、+10dBu
■サンプリング・レート/32/44.1/48/88.2/96kHz
■AD/DA/24ビット
■外形寸法/482(W)×44(H)×250(D)mm
■重量/5kg