MIDIとサンプルの強力な連携を単体で実現したトラック制作マシン

YAMAHARS7000

コンピューター上でMIDIとオーディオがシームレスに扱える環境が整ってきた昨今、この分野の単体機に関してはまだまだ発展途上だと思っていた矢先、YAMAHAからこのRS7000が発表された。MIDIとサンプルを同じような感覚で扱うことができ、とりわけサンプル・ループ主体の音楽制作に最適なミュージック・プロダクション・スタジオであるという。早速チェックしてみることにした。

直感的なインターフェースを採用し
制作に必要な機能もすべて装備


本機は音源、サンプラー、シーケンサー、エフェクターなどの機能を1台に凝縮したマシンだ。最初にその多彩な機能を各セクションごとにざっと紹介してみよう。外観上、まず目を引くのは、トップ・パネルに並ぶ18個ものコントロール・ノブだ。フィルター、LFO、EG、エフェクトなどの主要なパラメーターは、このノブでダイレクトにコントロール可能。そのほかにも、ノート・トリガーだけでなく、シーケンス・トラックのミュート/ソロもできる鍵盤状に並んだパッドや、2つのベロシティ・パッドなど、リアルタイム・コントロールを重視したユーザー・インターフェースが多数備えられている。


音源部にはAWM2方式を採用。1,054音色+63ドラム・キットと、ありとあらゆる音楽に対応した音色が用意されているが、テクノ、トランス、ハウスなどに向いたものが多いような印象を受けた。これだけの音色を持つ内蔵音源にも無いような音が欲しければ、本機のサンプラー機能を使えばよい。オーディオ入力からのサンプリングだけでなく、YAMAHA AシリーズやSU700をはじめ、WAV、AIFF、AKAI Sシリーズといったフォーマットのデータが読み込める。後述のシーケンサーで作ったフレーズや内蔵エフェクターを通した音のリサンプリングも可能。もちろんタイム・ストレッチ、ピッチ・コンバートなどの機能も備えている。


また、同時に4系統まで使用できるエフェクターと、さらにこれとは独立して、マスター・エフェクトが用意されている。出力最終段のこのセクションではマルチバンド・コンプやアイソレーターなどを用意。マスタリングまでを可能にするこの機能は、"1台完結"という本機の基本的な姿勢を端的に表しているとも言えよう。


16トラックのシーケンス部は、パターン、パターン・チェイン、ソングという3モード構成で、パターンを組み合わせてのトラック作りから1曲通しての打ち込みまで、さまざまな制作手法に対応。パターン・チェイン用のプリセットのフレーズは5,980種類も用意され、そのうち半分近くは"Trance"や"Techno"というような名称のフレーズで占められている。もともとYAMAHAのサンプラーやグルーブ・マシンの得意分野であるし、外観や音色、マスター・エフェクトにあるアイソレーターやフィルターなどを見ても、テクノに強いことは間違いないだろう。ただし、次項で述べるように、"それだけの機械"に留まらないのが本機のすごいところだ。


MIDIとオーディオの
シームレスな作業環境を実現


本機で新しく導入されたIntegrated Sampling Sequencerでは、サンプル・フレーズから自動的にアタックを検出して分割し、この分割したそれぞれのサンプルの長さに対応したMIDIノート・データを自動生成することができる。分かりやすく言うならば、PROPELLERHEAD ReCycle!、シーケンス・ソフト、サンプラーを組み合わせた機能を1台で有しているわけだ。これによってサンプル・ループとMIDIシーケンスのBPM同期が可能となり、サンプルをMIDIデータと同じ感覚でコントロールできるようになる。また分割したサンプルを自動的に組み替えて再構成するリアルタイム・ループ・リミックス機能を搭載。ピッチ変更や波形のリバースもでき、斬新なループ・サウンドを無限に作り出すことができる。さらに、サンプル・ループのグルーブをアナログ・シーケンサーのような操作感でリアルタイムに変更できるグリッド・グルーブ機能も備えるという充実ぶり。"テクノに強い"と先に述べたが、R&Bやヒップホップなどのトラック・メイキングについても、これらの機能で十分にフォローされていると言えよう。


個人的な意見を言えば、さまざまなソフトウェアが使え、大きなディスプレイで表示できる点では、コンピューターでの音楽制作は有利だろう。しかし、必要な機能がすべて含まれているならば、機材間やソフト間を行き来することなく制作に打ち込める、本機のような複合単体機の方が便利だと思う。リアルタイムでの操作性に優れた本機の場合、曲を作りながらパラメーターを操作して変化を加えたり、新しいパターンを生成したりなど、今までとは違った曲の作り方をすることで新たな発見があるかもしれない。


本機は、内蔵する多くの機能をうまく統合し、さまざまな音楽ジャンルにきちんと対応しており、中途半端に終わらない懐の深さを感じさせる。最新の機能を全身にまとった、まさに最強の音楽制作マシンと呼んでも過言ではないだろう。


YAMAHA
RS7000
175,000円

SPECIFICATIONS

■最大同時発音数/62
■エフェクト/リバーブ(12種)、ディレイ/コーラス(25種)、バリエーション・エフェクト(100種)、マスター・エフェクト(8種)
■シーケンサー/16トラック+BPMトラック、シーン/ミュート・トラック(ソング・モード時)
■サンプリング・メモリー容量/4MB(標準)、64MB(最大拡張時、32MB SIMM×2)
■最長サンプリング時間/約6分20秒(44.1kHz時。モノラル/ステレオいずれの場合も同様)
■外部メモリー/スマート・メディア(128MBまで使用可)
■接続端子/インプット(L、R)、アウトプット(L/MONO、R)、ヘッドフォン・アウト、MIDI IN/OUT A/OUT B、フット・スイッチ、SCSI端子
■外形寸法/440(W)×134(H)×363(D)mm
■重量/7.0kg