多機能/高音質のプロ仕様ポータブル・ミニディスク・レコーダー

HHBMDP500

プロのMAエンジニアが、MDレコーダーを現場に持っていくことはほとんどありません。あるとしても、緊急用として、民生用の物を取りあえず持っていくくらいです。撮影(同録)現場は何が起こるか分かりません。いつも使っているNAGRAのテープ・レコーダーやDATが突然故障したら、皆さんならどうしますか? 仕事を放棄して帰るなんてことがないように、メインのほかにもう1台欲しいものです。しかしプロ用の機械は異常に高い。そんなときにうってつけなのが、20〜30万円クラスのレコーダーです。そう思っていたら、HHBがいいもの出してくれました!

豊富な入出力端子に加え
シーン・メモリーも搭載


専用のポータブル・ケースに入ったMDP500はとてもコンパクト。まずアナログの入出力ですが、入力がXLR、出力がRCAピンです(いつも思うのですが、出力もXLRにしてほしい)。S/P DIFデジタル入出力はコアキシャル、オプティカルの両方があり便利です。さらにUSB端子が標準で付いています。録音してきた素材をPCで作業する方には、うってつけですねー。これらのI/Oとヘッドフォンの出力が右側面にきれいに並んでいます。MDを入れるスロットは左側面です。


フロント・パネルには、ほぼ中央にディスプレイ、右側にRECレベルのダイアル、REC、PAUSEのスイッチ、左側にPHONEレベルがあります。実際にケースを左肩にかけて使ってみると、ヘッドフォンの出力が右側面にあるので、すべてのケ−ブル類が本体右側に集中します。マイクを右手で持つときは、かなり右手の周りがごちゃごちゃします。マイクを左手で持って、ケースを首もしくは右肩に提げるとRECレベルもPHONEレベルも使いやすくなってきます。STOP、FF、REW、EDITなどのボタンはトップ・パネルにあり、ケースの上からでも操作しやすいです。


電源はACと単3電池(8本)の両用です。付属のNiMHバッテリーの充電もできて便利。このバッテリーまで含めてなんと2kgという軽さですよ!


さてここまで来て、何か足りないんじゃないか?と思っている人はいませんか? そうです! このMDP500には、マイク/ラインの切り替えやパッド、ローカット、マイク・ゲインなどのスイッチがパネル上に一切無いのです。すべてオートか?と一瞬思ってしまいますが、そんなわけはありません。ディスプレイとRECレベルとの間に、設定を行うためのボタン類があります。ここで設定できる主なものは、マイク・ゲイン(−52dB〜−22dB、15dB刻み)、L/R個別のマイク/ラインの切り替え、ローカットやリミッターのON/OFF、デジタル系の設定、ヘッドフォンのモニタ−・セレクト機能(片方のチャンネルしか使わない場合でもセンターでモニタリングできる!)などです。これらの設定は、ディスプレイ下にある3つのファンクション・キーそれぞれに個別にメモリーすることができるので、非常に便利です。言ってみれば、シーン・メモリーができるレコーダーなのです。こういった機能を使えば複数の現場の行き来があっても素早くセットアップができます。


振動にも強く
屋外での録音に最適


スペックのチェックが終わったら、さあ!肩にかけて街に出てみましょう。ここではマイクはSENNHEISER MKH415改(48V仕様)、1chのみ使います。モニター・セレクトでL-monoに設定し、Lchの音がセンターで聴こえるようにします。とにかく軽い!ので、歩きながらの録音でも疲れません。時折ヘッドフォンを外して、生音とヘッド・アンプの音を聴き比べます。この段階では割と良い感じです。実際に録音してみると、周波数的に少しハイエンド、ローエンドのレベルが落ちる感じがします。ダイナミック・レンジに関してはあまり問題無いようです。自宅近くの神社で、鳥の声や、木々の葉の擦れる音、神社の裏側を走っている東海道本線の音、神社の階段を上る音、近所の人が喋っているオフの声などを収録します。帰り道では走りながら録音して、振動対策のチェックもしました。


自宅に戻り、MDP500のコアキシャル・アウトからDAWのコアキシャル・インに入れて、全素材をデジタル・コピーします。特にエラーもなく記録できました。音を聴いてみると、やはり低い周波数(10Hz〜60Hzくらい)のレベルが少しだけ下がります。高域(16kHz以上)も少し下がっています。ただ、この"少し"は本当に小さいものですから(聴感上で0.5〜0.8dBほど)、ほとんど問題は無いでしょう。


MKH415は奥行きもしっかり録れるマイクですが、MDP500で録音した音でも神社の空気感、奥行きを奇麗に再現できました。ローカットのON/OFFでかなり空気感が変わるので、好みでON/OFFすればいいでしょう。振動に対しては、6秒のバッファー・メモリーのおかげで、普通に走ったくらいでは音飛びはありませんでした。


マイク・ゲインの設定値によって音のキャラクターが変わります(マイクの種類と録音するものにもよりますが)ので、これを利用して1つの音を録るのにいろいろな方法が試せます。ダイナミック・レンジの再現性が良いので、単にレベルが小さいからゲインを上げるのではなく、小さいものは小さく録音する方が良い場合があります。


リミッターはアタック/リリースともに少し遅めな感じがしました。レシオがどのくらいかは確認できませんでした。


トータルで見てみると、メイン・レコーダーとしても使えるかなー、と思います。ただ私としては、メインで使うのであれば小さくてクオリティの高いADコンバーターを経由させて録りたいですねー!!(T.C. ELECTRONIC FinalizerのADを使って録音したら、結構良かった!)。あと、やっぱりヘッドフォンのジャックとボリュームは同じ側にあった方がいいかな?


NAGRAやDATのサブとしても、外録用のメインとしても十分使えるMDP500。音楽用のSE音源収録にもいいかもしれない。良い道具は使いこなして初めて生かせます。自分のレコーダーを持っていない人は、まずこれから始めてみたらどうでしょう? 自分でいろいろ録音することで、新たな方法論の発見があるかもしれません。



▲右サイド・パネルの端子群


HHB
MDP500
198,000円

SPECIFICATIONS

■サンプリング周波数/44.1kHz
■最大記録時間/80分(ステレオ)、160分(モノラル/MDLP LP2 ステレオ)
■周波数特性/10Hz〜20kHz
■ダイナミック・レンジ/89dB(再生時)
■全高調波歪率/0.02%
■アッテネーション/0dB、-15dB、-30dB
■ローカット周波数/OFF、75Hz、150Hz
■消費電力/4.5W(録音時)、3.5W(再生時)
■外形寸法/225(W)×57(H)×180(D)mm
■重量/2.0kg(バッテリー含む)