ツィーターに5インチ・リボン・ドライバーを採用した高耐入力モニター

SLSS-8R-B

今回紹介する製品は、5インチもの大きなリボン・ドライバーをツィーターに使い、8インチのちょっと変わったダイナミック・ウーファーをマウントした、"情熱を持った頑固者が作った"としか思えないモニター・スピーカーです。このモニターを作ったSLS社のWebページ(http://www.slsloudspeakers.com)を見てみると、他のカタログはなんとステージ・モニターばかり! ほとんどがSR用ラウド・スピーカーなのですが、何とツィーターがリボン・ドライバーなのです。リボン・ドライバーの製作や修復は、熟練技術者の技術管理や長期間確保などのコスト的問題から儲けが出るわけないと思うのですが、それでも良い音のためにリボンを選ぶこのメーカーの姿勢には頭が下がります。とにかく良い音を伝えたい頑固者社長(褒めてます)に"分からんやつは買わんでえぇ!"なんて怒られそうですが、一目で分かる感じの素材選びや、丁寧な作り。いかにも"良い仕事してますねぇー"的なこの製品、さーてどんな音がするんでしょうか?

定位感がある中高域と
スピードの速い低音


まず初めに、この外面どうですか、こだわり感じませんか? 何とツィーターが、ウーファーの下に配置されています。リボン・ドライバーはPRD500を使っており、キャスト・アルミニウム・ボディで、kaptonフィルムというダイアフラム素材は、なんと通常のコンプレッション・ドライバーの10分の1以上軽量とあります。この説明を聞くだけで、高音の軽やかさや音のレスポンスが期待できます。


試聴時のパワー・アンプは私のスタジオにあるAMCRON DC300-2を使いました。まず、ヒップホップの拷問のような、スネアやキックのアタックをビシバシ鳴らしてみて、それだけでなく、ゆったりしたジャズ、音質の良いアナログ盤も流してみてチェックに入りました。


聴いてみた最初の感想ですが、とにかく全帯域にわたって耳当たりが良いです。音域のつながり、鳴りともに素晴らしい。リボン・ドライバーを使っている高域は、しっかりしたアンプでなければ、腰砕けな音しか出ないかもしれないと不安でしたが、問題ありません。それどころか、中域からスーッとピークなく超高音まで伸びており、実に透明感のある音像が浮かび上がってきました。ギター・バンドもののCDを鳴らしてみると、スーッと伸びる特性からか、まるで真空管ギター・アンプを通した音のように滑らかに丸くなりました。後で調べたところ、能率が1Wで90dB SPL、しかも20kHzまでフラットに出て、レベルは下がりはしますが、40kHzまで鳴るそうです!


次に中高域ですが、誤解を恐れず例えるならば、甘い繊細さが"TANNOY系"と言っていいでしょうか。ユニットが同縦軸上に並んでいるため気持ち良い定位感があり、ゆったりと鳴るストリングスなどの定位やエコーの奥行きの広がり感は、素晴らしく繊細に表現されていました。また、リボン・ツィーターは左右の指向散布角度が120°となっているため、コンソールの前に2人並んだとしても、定位感は損なわれないでしょう。そして、一番大事な中域ですが、私には少なめな印象でした。低域は、ウーファーが8インチと少し小さめかと思ったのですが、エンクロージャーと、バスレフ・ポートの設計がしっかりしており、タイトな音です。40Hzまでの低音も難なく再生できます。ROLAND TR-808のキックに他のキックが重なったフレーズも、十分鳴らしていました。


特徴的な構造により
ピークで500Wの入力を実現


しかし、よーく見るとこだわりはリボンだけじゃないんですね。ウーファー・ユニットの通常内蔵されるべきボイス・コイルが表に出てきています。コーン紙は軽量化と、放熱のためにフローティング構造にしたのでしょうか、何と浮いています! そのため大きな音でも全く腰がなくなることなく、非常にスピードの速い低音が実現されています。ピークで500Wも音が入るのは、この特殊な構造が可能にしたのかもしれません。


ところで、なぜユニットの配置が逆さまなのでしょう。本来、耳がツィーター軸から外れると、直進性の強い高域の正確なモニタリングが不可能になるため、モニター位置はツィーター・ユニットの高さが耳の高さと同じになるのが基本となっています。まさにこのモニターは、ツィーターが下部にくることでコンソールの上に置いたとき、ツィーターの高さが耳の高さと同じになるように設計されているのです。筆者も天井が低いスタジオやコンソールの角度などの影響で音の反射が気になるときは、モニター・スピーカーを立てたり、横に倒してみたり、スピーカー台が高過ぎれば逆さまにすることもよくあります。最初、間違ってツィーターを上にして本機をセッティングしたところ、2kHz辺りから全然聴こえなかったのですが、それもそのはず、このモニター、上下の指向性が40°なのです。椅子から立ったり座ったり軸上から外れると、本当に高域がすっかり聴こえなくなります。セッティング位置だけは気をつけるようにしましょう。


それにしても、このモニターはよく鳴ります。長時間のレコーディングでも聴き疲れしないので、大音量でのモニタリングが必要なバンドを抱えたエンジニアの人にお勧めです。先入観があってか、鳴らすのが難しいかな?と思っていましたが、どんなアンプでもあっさり鳴ってしまうことでしょう。高音は軽やかに、低音は力強くキリリと引き締まって、毎日のレコーディングに安心とゆとりを持って使えるモニター・スピーカーだと思います。筆者は自宅用にも欲しくなりました。


SLS
S-8R-B
147,000円(1本)

SPECIFICATIONS

■周波数特性/44Hz〜20kHz(±2.5dB)
■クロスオーバー周波数/2500Hz、12dB/oct
■定格最大入力/125W (RMS)、500W
■入力インピーダンス/8Ω
■ドライブ・コンポーネント/LF:8インチ・ウーファー、HF:5インチ・リボン・ドライバー
■外形寸法/483(H)×267(W)×286(D)mm
■重量/11.25kg
※エンクロージャーにオーク材を使用したS-8R-CF(164,000円)もあり