話題のKaoss Padがビルトインされた全く新しい発想のDJミキサー

KORGKaoss Mixer

最初にKaoss Padが登場したときのレビューで、ロンドンのドラムンベース・シーンでも当時人気のあったKORG Z1内蔵のXYタッチ・パネルや、ARBORETUM SYSTEMS Hyperprismなんかを引き合いに出してその操作性の面白さを懸命に紹介した覚えがある。そして時は流れ、今やあっと言う間に"Kaoss Padみたいな感じでさあ......"とか"ああ、Kaoss Padなエフェクターだね"などという会話が自然に飛び交うほどの、定番的かつ唯一無二のポジションが確立された感がある。全国のツマミストたちがこぞってフィンガー・プレイヤーへの道を目指すほどのヒット作になったKaoss Padを、今度は何とDJミキサーにそっくり詰め込んだ商品が登場した。その名もKaoss Mixer(そのまんまや!)。これはもう放ってはおけまい。ぐだぐだ言っている間に、とにかくいじらねば!

現場志向で練り上げられた
DJミキサーとしての基本性能


焦る手を緩め、セッティングのためにもまずKaoss Mixerのミキサーたる部分をチェックしてみよう。入力部はDJミキサーたるあかし、RCAピン・ジャックのフォノ・インプット(ターンテーブル用のアース付き)、同じくRCAピン・ジャックのライン・インが共に2系統分存在する。つまり、基本的に2ch仕様のミキサーなのだ。ch1は本体前面にあるマイク・インとも連動していてPHONO/MIC/LINEの切り替えが、ch2はPHONO/LINEの切り替えが可能。マイク・インはフォーン・ジャックで、かなり幅広いゲイン・コントローラー+トーク・オーバーのON/OFFスイッチが付いている。このトーク・オーバー・スイッチとは、スイッチを押している間、マイクがch1にではなく直接マスター・アウトにミックスされるという便利な代物。本格的かつ実戦的な作りが伺え、早くも侮れない感じである。入力セレクターの下にはピーク・インジケーター付きのトリム、HIGH/MID/LOWの3バンド・イコライザー、そしてチャンネル・フェーダーが並んでいる。


サウンドの質感は、良い意味でなまめかしい音とでも言ったらいいか、クラブ仕様のまとまりのある感じ。EQもそれぞれ、程よくツボを押さえたあたりに反応してくれる(HIGHはもう少し上あたりでも良かったかなとも感じたが、本体内にアイソレーターもあるので納得)。また、面白かったのはウルトラ・ブーストという機能。当初よくあるロー・ブースト的なものかと思ったのだが、実際にツマミを回してみるとなかなかよくできたもので、低音域をワイドに強調しつつなぜかキックやベースのアタック部分もぐっと前に押し出されてくる感じになり、なかなか音楽的に使えるものだった(APHEX Aural Exiter with Big Bottom +SPL Transient Designerてな感じか)。どういった構造になっているのか分からないが、あまり単品で味わったことのない低域用エキサイターといった感じだ。


アウト系もまさにDJミキサー仕様で、かなりのハイ・レベルでも送れるRCAピン・ジャックのマスター・アウトと、同じく独立したレベル・ツマミ付きのブース・アウト。そして前面にch1/2それぞれのミックス、またはマスターの選択可能なヘッドフォン・アウト(もちろんレベル・ツマミ付きで、かなりの音量まで出てくれますよん)。さらに、細かくよくできているなあと感じさせたのはクロスフェーダー部分で、カーブを3種類の中から選択できるほか、ch1と2の切り替えポイントもかなりの自由度で微調整できる仕様となっている。ここのポイントやカーブはジャンルによって命とも言える点だが、本機がボーダーレス/オール・ジャンルに使えるよう、よく練られていると実感させられた(なんてったって取説も英/仏/独/日本語共通仕様だもんね)。上部にあるレベル・メーターも、ボタン1つでch 1/ch2/マスターの切り替え表示ができ、少ないスペースとこの価格設定の中でDJミキサーとしての実戦的な部分をもこだわり抜いた印象を受けた。


XYタッチ・パネルで操作する
80種類のエフェクト・プログラム


さていよいよKaossな部分、エフェクト部を見ていこう。Kaoss Padには60もの多彩なプログラムが存在していたが、本機にはFilter、Modulation、BPM FX、Delay、Reverb、SFX、X-Fade、Sample/Playという8つのエフェクト・カテゴリーそれぞれに10個のプログラム、計80ものプリセットが内蔵されている。それぞれのプログラムを呼び出して、中央部に鎮座するおなじみのXYタッチ・パネル上で指を滑らせていくと、あらかじめ設定されている機能がリアルタイムで、実に劇的かつ音楽的に変化していく。ご存じない方のために具体的にその仕組みの一部を紹介すると、例えばDelayの場合X軸(横)方向に指を動かすとタイムが、Y軸(縦)方向ではレベルと共にフィードバックのレベルが変化する。テープ・エコーやアナログ・ディレイをいじったことのある方にはすぐに理解してもらえると思うが、指をXYタッチ・パネルの左下あたりから左上に滑らせるとだんだん強くフィードバックしていき、そのまま左上から右上に滑らせると、リアルタイムにディレイ・タイムが長くなっていく。そう、テープ・エコーでインテンシティを上げながらリピート・レートを下げていって発振していくあの感じが、何と指先1つで自由にコントロールできるってものなのだ(しかもデジタルなだけに、異常に短いタイムでもきれいにフィードバックしてくれる)。こんなことが前述の各種のエフェクトで行え、フィルター系だとX軸にフリケンシー、Y軸にレゾナンス(まさにフィルター・プレイの2大要素)、モジュレーション系ではX軸にスピード、Y軸にデプスやレゾナンス、リバーブ系ではX軸にトーンやリバーブ・タイム、Y軸にリバーブ・レベルなんかがあらかじめアサインされていて......どうだろう? それらを自由にXY軸に動かした感触が想像してもらえただろうか。実はKaoss Pad時代からの僕のお気に入りはX軸にスピード、Y軸にレゾナンスをプログラムされたフェイザーで、ARP Solina Strings-Ensemble的パッドやRHODESなんかにかけて、ゆったりと指を上下させているだけでもう、"夏も近いな、極楽至極。至上の楽園イビサも近い"的気分でいっぱいになってしまうのだが......。もちろん各エフェクトの気に入ったポイントでHOLDボタンを押せば、指を離してもその位置でステイしてくれたり、FX ON/OFFスイッチで一気に元音に復帰する機能もKaoss Padから踏襲されている。


エフェクトとサンプリングの連携で
さらに多彩な使い方が可能


さらにKaoss Mixerで追加された機能を幾つか紹介しよう。まず、前述したエフェクト成分と元音とのバランスを取ることのできるFX/DEPTHツマミ。これは単体エフェクターでなくミキサーとして現場で使うには実に大事でありがたい機能だ。これで指先でエフェクトを変化させつつその成分自体をフェード・イン/アウトすることもでき、ツマミの位置も本体左下部とナイスなポジションだ(左利きの方、すんません)。また、こうしたエフェクトをミキサー上のch1/ch2/マスターのどこにインサートするのかをパネル上部のセレクターで切り替えることができる。例えばch1でノーマルに回しているレコードから、ch2のレコードのエコー成分だけにクロスフェード......なんてことも可能なのだ。そのエフェクト自体の種類も増えたのだが、何と言ってもDJ現場で戦力になるのが前述のBPMカウンターとリンクしたBPM FXだろう。オートBPMで測定したテンポ(測定しづらいものもTAPでOK)にのっとったインテンポのディレイや、トレモロ、フェイザー/フランジャーの揺らしもの(スピードがリンクしたステップ・フランジャーなんかは秀逸)などは、DJの現場で大活躍しそうなアイテムだ。こうしたエフェクト・セッティングをあらかじめ自由にアサイン/メモリーしておき、ボタン1つで呼び出せるプログラム・マップ・キーも8つに増えている。


さらにグッと進化したのがSample/Play関係のエフェクトだ。サンプリングの方法はKaoss Pad同様ワンタッチ。新たに用意された4つのメモリー可能なサンプル・バンクのいずれかを選択し、専用となったREC/STOPキーをサンプリングしたいタイミングで押すとサンプリング・スタート、再度押すと(または最大録音時間に達すると)ストップ。その後XYタッチ・パネルに触れれば、もうサンプリングしたフレーズが再生される。基本的に収録部分をまるまる自動的にループしてくれるのだが、その再生方法もプログラムによってXY軸でエンド・ポイント、スタート・ポイント、レベル、リバース再生、タイム・ストレッチによるBPMのリアルタイムな変化からスクラッチ的再生まで、自由自在に変えられる。この場合はFX/DEPTHが当然サンプル自体のレベルになるので、ch1や2で回しているレコードにBPMとレベルを合わせて、かぶせていくことも可能だ。これだけでもDJ現場ではかなり発想の膨らむ仕様だが、本機のすごいところは、サンプリングした素材自体にもKaossなエフェクトをかけて再生できること。パネル下部の1〜4のボタンはメモリー・バンクの切り替えだけでなく、それぞれにメモリーしたサンプルのプレイバック・ボタンも兼ねている。エフェクト・プログラムでSample/Play以外を選択し、バンク・キーを押しつつタッチ・パネルに触れると、サンプルの再生音にリアルタイム・エフェクトをかけることができる。この他、ch1、2のソースにそうしたリアムタイム・エフェクトをかけながらのサンプリングも行えるなど、よりフレキシブルに、より魅力的な機能として生まれ変わった。このサンプリング機能では、約6秒のサンプルを4種類メモリーでき、WRITEキーの操作によって電源を切っても本体内にセーブされる(これで事前にネタを仕込んで行ける!)。書き込みに1バンク当たり約20秒もかかるのには少し驚いたが、重要な機能であることには変わりないだろう。


このレビューを書くに当たり、1週間ほど本機をさまざまな現場に持ち込みいじり倒した結果、単にDJミキサーとしてだけでなく、入出力系のあらゆる機能とエフェクト機能が一体化したことによる使い勝手の良さや、フレキシブルな使用法の拡大など、1+1以上の魅力を感じてくるようになった。もはや単体エフェクターとして使用する際も僕はKaoss Mixerを使うことを選ぶだろう。Sample/Play機能をはじめ、より豊富になったエフェクター機能も素晴らしいが、あたかもこうあるはずだったというばかりのミキサーとの一体化による便利さを感じるからだ。Kaoss Padに装備されていたピッチ・ベンドやモジュレーション、エフェクト・コントロール等が送信できたMIDI OUTは残念ながら今回は搭載されていない。だがそれを差し引いても、夢広がる幾多の持ちネタを手にしたかのような、純粋に際限なく楽しめるエフェクターとしても進化したと言えよう。



▲本体前面。左からトーク・オーバーON/OFFスイッチ、マイク・レベル調整ツマミ、マイク入力(標準フォーン)、クロスフェーダーのカーブ切り替えスイッチ、ヘッドフォン(ステレオ標準フォーン)



▲本体後面。左からch2のライン入力(RCAピン×2)、同フォノ入力(RCAピン×2)、電源スイッチ、ACアダプター用コネクター、ブース出力(RCAピン×2)、マスター出力(RCAピン×2)、ターンテーブル接続用アース端子、ch1のライン入力(RCAピン×2)、同フォノ入力(RCAピン×2)


KORG
Kaoss Mixer
65,000円

SPECIFICATIONS

■入力/ライン(ステレオ)×2、フォノ(ステレオ)×2、マイク×1
■出力/マスター・アウト(ステレオ)×1、ブース・アウト(ステレオ)×1、ヘッドフォン・アウト(ステレオ)×1
■エフェクト・プログラム/80種類
■サンプリング周波数/44.1kHz
■AD/DAコンバーター/20ビット・リニア
■サンプリング・タイム/合計最大23.7秒
■外形寸法/216(W)×306(D)×90(H)mm(ゴム脚含む)
■重量/約1.8kg