CD-RWドライブを活用した新スタイルのワークステーション

ROLANDCDX-1

ROLANDの新製品CDX-1は、サンプラー+マルチトラック・レコーダー+CDレコーダーのワークステーション。コンセプト的には同社のSP-808EXに似ているが、CDX-1はこれまでの製品と大きく違い、記録メディアにCD-R/RWを採用。ハード・ディスクやZipドライブの代わりに、ハイスピード対応のCD-R/RWドライブを使う新方式は、どれだけの実用性を発揮するのか? 興味深く取り組んでみた。

CD-R/RWドライブ経由で
WAVファイル等の読み込みも簡単


サイズはちょうどVS-880くらいで、上面パネルはシルバーだが、ボディはスケルトン・ブルーを採用。CD-R/RWの高速ドライブはボディ手前右に装備されている。パネル上は左上がインプット・セクション、左下にトラック・フェーダー、中央がサンプルのパッドおよび走行系のボタン群となっており、分かりやすい配置。TIME/VALUEダイアルの周りのランプが、CD-R/RWドライブの動作時に回転するように光るのがユニークで、全体的にレトロ・フューチャーな印象を受ける。さて、CDX-1の機能を大別すると、パッド単位でサンプルを管理するサンプラー、8つのオーディオ・トラックを持つマルチトラック・レコーダー、マスタリング用のCD-Rライターに分けられる。順番に解説していこう。まずCDX-1のサンプラー部は、SP-808EXの同セクションをほぼ引き継いだものと考えると分かりやすいだろう。サンプル・パッドは8つだが、バンクは64個用意されているので、最大512ものサンプルを管理することができる。また、サンプルの同時発音数は、ステレオ/モノラルを問わず4だ。なお、サンプリングには本体メモリーを使用し、初期状態で15MB、オプションの128MBのDIMMを増設した場合は111MBが割り当てられる。サンプリング・タイプは4種類(ROLAND製品ではおなじみのR-DAC形式、表①参照)。余裕のあるサンプリングをするために、DIMMは購入時にぜひ増設しておくことをお薦めする。▲表① 最長サンプリング時間(モノラル換算)
※上記のサンプリング時間は、データ・タイプを1つに限定した場合の目安。データ・タイプはサンプリングする度に設定できるため、異なるデータ・タイプが混在するときはサンプリング時間は変わる サンプリングの素材としては、本体のアナログ/デジタル入力端子に楽器や外部機器を接続するほか、CD-R/RWドライブ経由でオーディオCDやWAVファイルも利用できる。WAVファイルのインポートができるのはとても便利だが、データをCDX-1の形式にコンバートするのにやや時間がかかる。また、パッドのサンプルにエフェクトをかけてリサンプリングしたり、オーディオ・トラックに録音したデータから一部をパッドへサンプリングすることも可能だ。さらに、パッドから手を離してもプレイバックが続くHOLDボタンや、あるサンプルから異なるサンプルへ自動的にクロスフェードができるPAD XFADEボタンなどを装備し、リアルタイムなパッド・プレイももちろん楽しむことができる。

パッド・サンプルをコンロールする
4トラック・シーケンサーを装備


さて、ここでCDX-1の入力部について述べておこう。マイク入力端子がXLRバランスとTRSバランスで各2つずつ、ギターやベースを直接つなぐHi-Z端子が1つ、RCAピン端子のライン入力がステレオで1組、さらにオプティカルとコアキシャルのデジタル入力端子もある(コアキシャル優先)。使用したい入力はINPUT SELECTスイッチで選び、その際アナログ入力ならばSENSEツマミで入力レベルを調節することになる。また、入力信号にインサート・エフェクトをかけてエフェクトのかけ録りもできる。この内蔵エフェクトはVSシリーズ同様よくできており、パッチの切り替わりも速い。しかも、マイクとギターをL/Rで同時入力する、といった場合に備えて、左右独立で異なるエフェクトがセットされたプログラムもある。また、録音レベルのツマミがSENSEツマミと別に用意されているので、エフェクトをかけたときの音量調整も行いやすい。サンプラーの解説に戻ろう。次はパッドにサンプリングした後のエディットについて。エディットの項目としては、ループ/レベル/トリム/ストレッチ/テンポ・マッチ/デバイド/リバース/ノーマライズなどで、いずれも操作は簡単だ。なお、テンポを変えずにキーを変えるエディット機能は無いが、その際にはインサート・エフェクトのピッチ・シフターを使えばよい。また、デバイド機能で"AUTO"を選ぶと、無音部分でサンプルを切り分け、パッドに自動的に割り振りしてくれる。これらの録音/エディットに関しては1回のアンドゥが可能だ。さて、本機はサンプル・パッドのプレイを4トラックの内蔵シーケンサーに記録し(ステップ/リアルタイム)、曲を作ることもできる。リズム・ガイド(内蔵メトロノームまたは各種リズム・パターン)を聴きながらリアルタイム録音をするのはなかなか楽しいもの。記憶したシーケンスは、ムーブ/ペースト/カットなど、自由にエディットが可能。また、タイミングやレベルの調整もできるようになっている。また、シーケンスで鳴らしたサンプルをオーディオ・トラックに記憶することもできるが、この場合同時再生できるシーケンス・トラックは3つまでとなっている。なお、前述したようなサンプルや、シーケンス、エフェクトのエディット設定のデータなどは電源を切ると失われてしまうので、忘れずにCD-RWにセーブしておくように。

オーディオ・トラックはCD-RWへ記録
1枚で2〜3曲のデータ管理が可能


次に、マルチトラック・レコーダー部。本機のオーディオ・トラックに録音をする場合、そのデータはCD-RWに直接書き込まれる。いくらハイスピードとはいえ、リアルタイムのリード/ライトは過酷なので、本体のメモリー約16MBがバッファーとなる。サンプル・レートは44.1kHzで、録音モードは3種類(表②参照)。フォーマット時にトラックの番地を割り振るため、使うトラック数が多くても少なくても各トラックの録音可能時間は変わらない。また、マルチ録音に使えるディスクはハイスピード対応のCD-RWだけである。表②の録音時間からすれば、1枚のCD-RWに2〜3曲分の長さの録音ができるだろう。▲表② オーディオ・トラックの最長録音時間(1枚のCD-RWディスクに録音できる時間)
※上記の録音時間は目安で、曲の編集内容により多少変化する。また、録音に使ったトラック数に関係なく、上記の録音時間が目安となる。例えば、1トラックのみを使って録音した場合でも、8トラックすべてを使って録音した場合でも、録音できる時間は同じになる また、同時録音は2トラック、同時再生は8トラックまで可能。同時再生音に余裕があれば、パッドのシーケンスをオーディオ・トラックと同時に再生することも可能だ。トラック録音時にかけられるエフェクトはサンプリング時と同じである。また、トラックからプリフェーダーで送られるループ・エフェクトが2系統用意されており、1系統はコーラス/ディレイ/ダブリング、もう1系統はリバーブだ。ちなみに、このエフェクトは入力信号やサンプル・パッド、さらにはリズム・ガイドにまでかけることができる(センド量はそれぞれ独立設定が可能)。そのほか、サンプラーと同様、録音後のアンドゥは1回可能。ロケート関連では最大100個のマーカーが付けられ、マーカー2点間のリピート再生などもできる。パンチ・イン/アウトも可能だが、オーディオ・トラックの編集機能は無い。また、最大6トラックのオーディオ・データを2トラックにバウンスすることができ、バウンス時にフェーダーやパンのコントロールも可能だ。なお、オーディオ・トラックの録音終了時や、離れた位置へロケートする場合、CD-RWという媒体の性格上、どうしてもバッファーおよびデータのアクセスに多少時間がかかる。待ち時間は5〜10秒程度で、テープ媒体にリニア録音していたときに比べれば速いが、ハード・ディスクの瞬時のロケートに慣れているユーザーの中には、少々気になる人もいるかもしれない。さて、曲が完成したら、CDX-1内でミックス・ダウンをすることもできる。ミックス・ダウン時には、オーディオ8トラックすべてを再生しながらパンやフェーダー・コントロールも可能。ミックス・ダウンのデータは、本体のパッド/シーケンスと同じメモリー領域に書き込まれるので、大事なパッド/シーケンスのデータはミックス・ダウンの前にCD-RWにバックアップをとっておくことが大切だ。また、ミックス・ダウンのデータは本体の電源を切ると失われ、セーブすることができないので、ミックス・ダウン後は、すぐにデータをCD-Rに焼くのが望ましい。

マスタリング・エフェクトも用意し
CD-Rへの書き出しまで1台でOK


前述したように、ミックス・ダウンしたデータは、本体のCD-R/RWドライブでコンピューター用CD-Rに焼くことができる。本機にはマスタリング用のエフェクトも用意されており、19種類のプリセットの中から任意のものをセレクトして、書き込み時にかけることができる。CD-Rへの書き込みは等速で、複数のCD-Rに連続して焼くことも可能。また、この際ファイナライズするかどうかも指定できる。そのほか、CD-Rへの書き込みは、ミックス・ダウンしたデータ以外にも可能で、パッドをリアルタイムに演奏したり(PAD XFADE機能も使用可)、シーケンスで鳴らされたサンプルをオーディオで直接書き込むこともできる。また、入力信号(アナログ/デジタル)にマスタリング用のエフェクトをかけ、直接CD-Rへ録音することもできるので、手軽なマスタリング用のCDライターとしても利用可能である。CDX-1はCD-RWを軸にしたオーディオ・ワークステーションだ。最終媒体がCD-Rになることを見越した設計は斬新で、機能も無駄を省いて必要なものだけが集約されている。ドライブの読み書き時のノイズは、ハード・ディスクよりも静かで発熱量も少ない。CD-RWにアクセスする際の待ち時間が気になるかどうかは人によって異なってくると思うが、筆者自身は本機の設計コンセプトに共感するものがある。
ROLAND
CDX-1
オープン・プライス

SPECIFICATIONS

■サンプル・レート/44.1kHz
■AD変換/24ビット64倍オーバー・サンプリング
■DA変換/24ビット128倍オーバー・サンプリング
■オーディオ・トラック数/8(最大同時再生×8トラック、最大同時録音×2トラック)
■サンプル・パッド/8パッド×64バンク(512フレーズ)、最大同時発音数=4(ステレオ/モノ)
■パッド・シーケンス/4トラック(イベント・レコーディング、リアルタイム/ステップ入力)
■接続端子/インプット(XLRバランス×2、TRSバランス×2、RCAピン×2、ギター入力×1)、マスター・アウト(RCAピン)、デジタル・イン/アウト(コアキシャル、オプティカル)、MIDI IN、OUT/THRU、フット・スイッチ、ヘッドフォン
■CD-RWドライブ/リード32倍、ライト12倍、リライト10倍
■外形寸法/456(W)×330(D)×94(H)mm
■重量/5kg