24ビット/96kHz対応の8チャンネルAD/DAコンバーター

PRISM SOUNDADA-8

DAWの普及に伴い、各社からさまざまなマルチチャンネルAD/DAコンバーターが登場しています。デジタル・レコーディングにおいて音質、そしてクオリティを決定するAD/DAは、エンジニアの最も興味ある機材の1つではないでしょうか。今回チェックしたのは、イギリスのメーカーPRISM SOUND DreamシリーズのADA-8です。

モジュール化されたデジタルI/Oで
各種インターフェースに対応


筆者は、PRISM SOUND AD-1という2ch A/Dをよく使用していました。ロンドンのメトロポリスのマスタリング・ルームやタウンハウスで使われているのを見て、"これがあの音の秘密なのか"と、早速輸入できるのかを調べたものです。当時はA/Dの選択肢も少なく、AD部の性能でマスター・レコーダーを選ぶ状態だったので、その新しい魔法の小箱はミックスで必ず使用していました。今回のチェックは、そのときの驚きをもう一度感じさせてくれることを期待しつつ行いました。


本機は24ビット/96kHz対応の8ch AD/DAですが、将来のさらなるハイサンプリング化を見据えマザーボード類は192kHz対応に設計されています。また各種インターフェースに柔軟に対応するためにI/Oをモジュール化し、AES3(1&2ワイアー対応)、TDIF、ADATオプティカル、SDIF、Sonic Solutions、DIGIDESIGN Pro Toolsなどをカード交換することで使用できます。24ビット対応でPro Toolsにダイレクト接続できるのは、現時点でDIGIDESIGN 888︱24 I/OかAPOGEE AD-8000、Trak2しかないことを考えると、大変歓迎されるのではないでしょうか。


なおこれらのモジュールは2つの回路パスを持ち、それぞれ独立設定できます。これにより8ch×2回路の入出力パッチが可能になり、異なるフォーマット間での切り換え、分配が行えます。一見地味なこの機能は、筆者が現在のDAWの弱点に感じているフォーマット・コンバートやルーティングの不便さを解決してくれるもので、非常に重要だと思います。また単に分配するだけでなく、スーパー・ノイズ・シェイピング、ダイナミック・レンジ・エンハンスメント、ワード・マッピング、AES3フォーマット変換(1ワイアー→2ワイアー)、サンプル・レート・アップ・コンバートなどのD/D機能も装備。さらに、アナログ入力段の同社独自のオーバーキラー回路(他社で言うソフトリミット機能)も搭載、急激なオーバーロードでもデジタル・クリップしない設計になっています。


録音、ミックスそれぞれに
非常に使い勝手の良いA/D


では、実際の使用感です。チェックは、筆者が普段使用しているPro Toolsシステムに組み込んで行いました。マスター・クロックにAUDIO DESIGN Pro Box12、そして888︱24 I/O×3+本機という構成で、888︱24 I/OにはSuper Clockを、本機にはWord Clockを送ってあります。


基本的に本機は、マニュアルを見る必要が無いほどパネルおよびLCDの表示がするべきことを教えてくれます。また、さまざまな設定がプリセットされていて、A/DやD/Aのリファレンス・レベルを−20dBFsから−18dBFsへ一括変更することなども可能で非常に便利でした。再生中にモードの切り替えも試してみたのですが、ノイズを出すことなく変更できたことは感激です。細かな設定の変更も、LCDの表示をスクロールさせていくだけでなく、フロント・パネルの青いボタンがショートカット・キーになっていて、直接そのブロックのエディットが可能です。


さて、最も重要な音質の感想です。まずI/Oを切り替えてのD/Aの比較ですが、普段聴き慣れている888︱24 I/Oとの違いは、特に高音部の広がりに表れています。細かなリバーブの残り方やステレオ音源の定位などが、ベールを1枚剥いだかのように感じられました。それに伴い低音の存在にも影響が出て、全体的に逆三角形のバランスになっているように聴こえました。これは音やせする感じとは異なり、センターの音源に広がりを与えることにも使えると思います。A/D部も同じ音源をI/Oの切り替えで比べましたが、筆者が今回のチェックで一番うれしかったのが、頭に残っているあのAD-1のキャラクターが本機からも感じられたことです。A/Dを通すだけで、むしろミックスのクオリティが上がっているとさえ思える変化で、ステレオ感、そして高域の伸びに影響を与えます。しかしD/Aに感じられた低域の減少感は無く、ステレオ感の変化により低音の音源にしまりを与えるのです。AD-1に感じていた魔法の小箱という思いがよみがえります。録音、ミックスそれぞれに非常に使い勝手の良いA/Dでしょう。


AD/DAは色付けのないものを目指すべきだと筆者は考えるのですが、必ず何らかのキャラクターが存在する以上、そのキャラクターを積極的に録音、ミックスに生かす形で使用していくことが重要だと思います。本機はその音質のキャラクターだけでなく、基本性能、拡張性などこれからのDAWに求められる要素すべてにおいて、PRISM SOUNDのこだわりを感じさせてくれます。今後も増えていくであろうAD/DAの選択肢の中でも、常に筆頭に挙げられる製品だと思います。



▲リア部。左端からXLR端子のアナログI/O、オプションのPro Tools用DAW I/O(上)、標準のAES3対応の8ch DAW I/O(下)。右端はシンク用のWORD IN/OUT端子、AES IN/OUT端子と、モニター出力用のアナログ&デジタル端子、COM端子だ


PRISM SOUND
ADA-8
オープン・プライス

SPECIFICATIONS

■サンプリング周波数/96kHz、 88.2kHz、 48kHz、 44.1kHz、32kHz
■DAW I/O/AES3/DB25 I/O(8ch I/O、2ワイアー時は4ch I/O)
■DAW I/O(オプション)/AES3/4 XLR-F(8イン、2ワイアー時は4イン)、AES3/4 XLR-M(8アウト、2ワイアー時は4アウト)、TDIF/DB25(TASCAM TDIF対応8ch I/O)、Lightpipeモジュール(ADAT対応8ch I/O)、SDIF2/DB25モジュール(SDIF2対応8ch I/O)、DAWモジュール/S/D(それぞれSonic Solutions、DIGIDESIGN対応のサブミニチュア・コネクターを装備)
■外形寸法/483(W)×88(H)×370(D)mm
■重量/8.6kg(DAW I/O搭載時)