自由度の高いサブチャンネルが魅力のアナログ・ミキサー

BEHRINGEREurorack MX3242X

本機は同社のEurorackシリーズの中でもハイエンド機に位置するもので、多数のチャンネル入力と、充実した機能を備えながらも、ラック・マウントが可能なコンパクトさを実現したミキサーだ。また、Eurodeskシリーズと同等の性能も再現しているという。使用感を早速レポートしてみることにしよう。

パネルの奥行きをうまく使った
各ファンクションの配置デザイン


まずは本体サイズを見ていこう。いくらラック・マウント可能とはいえ、これだけの多機能を備えているため、奥行き方向は相当長くなっている。付属の電源ユニットを同居させたり、発熱の点なども考えると、ラック・マウントする場合には少なくとも20Uくらいのスペースは必要になるだろう。なお、入出力端子面は回転式接続パネルになっていて、ラック・マウントした場合でも結線が容易にできるよう設計されている。また前述したように、電源は外部方式になっていて、2Uサイズの電源ユニット(150W)を使用するタイプだ。この規模のミキサーでは、電源部を本体に内蔵する設計がなされているものも多く、本機はかなり余裕のあるぜいたくな電源設計であることがうかがえる。ボディ・デザインは、全体的に渋い色彩感覚で、非常にメカニックな感じだ。クールで、温かみには欠けるかもしれないが、非常にプロっぽい精悍な感じがする。個人的にはBEHRINGERのこういったメカニックなデザインは好みである。また、パネル上の各ファンクションの配置は、余裕のある奥行き方向をうまく使ったデザインがなされているので、これだけ大規模なミキサーながらせせこましさは感じられない。フェーダーは100mmストロークのものを使用。氷の上を滑るようにとまではいかないが、悪くない感触で、現場での優れた操作性を確保。隣に位置する8段階/3色のLEDレベル・インジケーターでチャンネルのレベルを知ることができる。また、グループ1&2およびメイン・ミックスへのアサイン・スイッチはフェーダーの脇に用意されており、コンソールにもよく見られる一般的な配置がなされている。全体的な入力回路の構成としては、本機は32のインプットを備えた上で、16chの基本モジュールがあり、加えてインラインとしてプラス16chが用意されているというイメージのものだ。ちょっと抽象的な説明になってしまったが、要は1つのチャンネルにメイン・チャンネルとMix-Bチャンネルという2つのモジュールがあって、マイク(ラインも可)、ラインの2つの入力をどちらのモジュールに流すのかをフリップ・スイッチを使って決めるタイプのものだ。このモジュールをうまく組み合わせることによって、最大で32chを同時に扱えるという具合になっている。ちょっと誇大な表現のように感じられるかもしれないが、これから説明していくように、Mix-Bチャンネルは、工夫されたAUXの設計などにより、通常のミキサーのサブチャンネルとはひと味違った使い方ができることは確かだ。

Mix-Bチャンネルを併用すれば
32chのミックスも可能


メイン入力は16ch分のマイク入力をXLRタイプで用意し、ファンタム電源にも対応している。また、フォーン・コネクターによるライン入力も可能だ。ヘッド・アンプには"Acoustically Invisible Mic Preamp"というトランジスター・ペアを高電流でドライブする方式を採用し、サウンドの透明感を確保。入力に対して不自然なカラーレーションを行うようなこともない。また、入力部には75Hzのハイパス・フィルターが搭載されているので、有害な低音ノイズをカットしたい際などに有効だ。一方、INPUT-Bと呼ばれるサブ入力の方は、ライン入力のみの対応で、一括で+4/−10dBの切り替えが可能になっている。これらメイン・チャンネルおよびMix-Bチャンネルの計32ch入力は、最終的にメイン・ミックスへまとめることができる。また、別の使い方としてMix-Bチャンネルとメイン・ミックスの信号をパラレルにし、それを別ミックスとして出力することも可能。ライブのPAコンソールとして使用する際、録音用に別バランスのミックスをステレオで出したいときなどに便利な機能だ。また、メイン入力の各チャンネルにはダイレクト・アウトも用意され、MTRでのマルチトラック・レコーディングなどにも対応可能。さらにインサートも各チャンネルにあるので、エフェクトのかけ録りなどの用途にも使える。ちなみに、インサート端子はステレオ・フォーン・コネクターを利用したごく一般的なタイプとなっている。AUXはトータルで6本あり、AUXセンド3〜6はチャンネルごとに3&4、5&6という組み合わせで切り替えて使用する。さらにAUXセンド1、2はプリ/ポストフェーダーの切り替えが可能だ。さらに、AUXセンド1、2とAUXセンド3〜6の2つのブロックは、ブロック単位でメイン・チャンネルやMix-Bチャンネルにもアサインできるようになっている。つまり、本機のAUX回路はメイン・チャンネルとMix-Bにほぼ同じような条件でAUXを使用することができるようになっているということだ。この辺の工夫によって、本機は単なるインラインのトータル32chというスペック以上に、応用の可能性の広いモデルと言えるだろう。AUXリターンはステレオで4組用意され、そのうちの1つは内蔵エフェクトのリターンとなっている。内蔵エフェクトを使用しないのであれば、ここを外部リターンとして活用することもできる。なお、リターンはメイン・ミックス、およびサブグループ1〜4にアサインすることが可能だ。モニター出力系にはモニター・セクションとフォン・セクションの2系統が用意されている。またマイク内蔵のトークバック・モジュールも付いており、AUX1、2への割り込みが可能になっている。これを利用すれば、PA時にステージ上のミュージシャンとのコミュニケーションを取ることもできるだろう。

Virtualizer譲りの
32種類のエフェクトを内蔵


イコライザーは各メイン・チャンネルに4ポイントのものを装備し、ハイとローがシェルビング、ハイミッドとローミッドが周波数可変のピーキングという構成。非常に切れ味の良いかかりで、サウンドの変化が分かりやすい。ミッドの2つは個人的にはQが少し大きいかなという感じもしたが、これは好みの問題だろう。全体的に音作りのしやすいEQだという感じがした。コンソールでは当たり前のことなのだが、パネル・スペースの限られたラック・マウント・タイプにもかかわらず、EQのバイパス・スイッチが付いているのはうれしい点。不要なときはEQを切っておけばほとんど音の色付けはないし、原音とイコライジングされた音との比較が簡単に行える。また、本機には1系統のデジタル・エフェクターも内蔵されており、リバーブなどのシンプルなものなら外部アウトボード無しで済んでしまう。このエフェクターは同社のVirtualizer譲りの性能を持つもので、32種類のプログラムが用意されている(表①)。特にリバーブ系に良質なものが多いのが特徴で、例えば"Cathedral1"は非常に奥行きと深みを実現し、キメが細かく、リバーブ成分を多めに出しても実用に耐え得るクオリティ。また"Bright Plate"はプレート・リバーブをシミュレートしたもので、独特の広がりをうまく再現、"Medium Hall"はクセの無いホール・サウンドが印象的。そのほかにも汎用性の高いプログラムがそろっている。なお、各パラメーターの変更機能は無く、プログラムをそのまま呼び出して使うというシンプルなエフェクターだ。▲表① 内蔵エフェクト・プログラム一覧 本機はラック・マウントという省スペースな筐体で高機能を実現しつつ、性能面においても十分満足のできるものになっている。コスト・パフォーマンスの面でも注目に値するだろう。操作性に関してはデザイン部分でも触れた通り、奥行きをうまく生かした配置になっていて、多くのノブ類が用意されている割にはストレスを感じさせない操作性を実現。音質的にも全体的にナチュラルな質感で、非常に扱いやすいという印象を受けた。しかも、ラック・マウント可能なので、小規模なライブ・ハウスやイベント・スペースでミキサーの設置スペースに困っている際には、特に威力を発揮してくれるだろう。
BEHRINGER
Eurorack MX3242X
153,000円

SPECIFICATIONS

●モノラル入力(マイク)
■周波数帯域/10Hz〜60kHz(±3dB)
■全高調波歪率/0.007%(+4dBu、1kHz、帯域80kHz)
■SN比/−129.5dBu(入力インピーダンス150Ω、22Hz〜22kHz)、−121.4dBqp(入力インピーダンス150Ω、22Hz〜22kHz)、−127.8dBu(入力ショート)、−123.5dBqp(入力ショート)
●モノラル入力(ライン)
■周波数帯域/10Hz〜60kHz(±3dB)
■全高調波歪率/0.007%(+4dBu、1kHz、帯域80kHz)
■SN比/−97dB(入力インピーダンス150Ω、22Hz〜22kHz)
●デジタル・エフェクト・プロセッサー
■AD/DAコンバーター/20ビット64/128倍オーバー・サンプリング
■サンプル・レート/46.875kHz
●メイン・ミックス
■最高出力レベル/+28dB
■SN比/−112dB
■EQ/Low(80Hz、±15dB)、Lo Mid(50Hz〜3kHz、±15dB)、Hi Mid(300Hz〜20kHz、±15dB)、High(12kHz、±15dB)、Lo Cut Filter(75Hz、−3dB、18dB/oct)
■外形寸法/82.6(W)×95.25/228.6(H)×570(D)mm
■重量/12kg(電源アダプターを除く)