振動に強く音揺れの無いポータブルPCカード・レコーダー

MARANTZPMD690

なかなかいいポータブルのレコーダーがないなあーなどと思っているところに、出ましたねーMARANTZのポータブルPCカード・レコーダー!! 録音大好きのMAミキサーの私としては、早速チェックです。普段はNAGRAを使っているプロの目からしっかり見てみましょう。

ダイナミクスや録音モードが
切り替え可能なPCレコーダー


本機はDATでもMDでもなく、PCカードを使ったレコーダーです。まず見た目の印象ですが、とにかく小さい!! 大きさはVaioくらいでしょうか? 表面はつや消しブラック仕様です。上面のパネルには、左半分にオ−ディオ系のいろいろな機能が操作しやすいように配置され、右半分は録音/再生用のスイッチが並んでいます。アナログ系の入出力は右側面に、デジタル・アウト、バッテリー系は左側面にあります。そしてフロント・パネルの左側にPCカードのスロットがあります。 アナログ・インはXLRバランス入力(マイク/ライン兼用)、その横には48Vのファンタム電源のオン/オフ・スイッチがあって、電源を必要とするマイクも使えます。ライン・アウトはRCAピンになっています(できればXLRが欲しかったなあ)。デジタル・インはありません。デジタル・アウトはRCAピンのS/P DIF(48kHz)で出力されます。マイクのアッテネーションは0dB、−15dB、−30dBの3段階切り替えなので、状況に応じて選べます。ただ、F1などの大音量のものを録音するときには、これではヘッド・アンプで歪んでしまうので、もう1段PADが必要になるでしょう。ダイナミクスは、MANUAL、LIMITER、ALCと、これも3段階切り替えです。プロ・レベルでは、LIMITER以上は使うことはほとんどないと思いますが、一般的にはLIMITERオンが便利かもしれません。このLIMITERはレベル・メーターで−9dBをオーバーすると効くようになっています。ALCはオート・レベル・コントロールといって、いわばエキスパンダー/コンプレッサーのようなものです。ほかにマイク入力用のフィルターは(ハイパス、バンドパス)や、録音モード(STEREO SP、LPそしてMONO)がそれぞれ選べるようになっています。また、マイクが1本のときでも、セレクターによって両チャンネルに録音できます。IDに関しては、MARKという機能でマーキングできます。録音してストップ・ボタンを押すと、トラック・ナンバーが増えていきます。


次にPCカード関係を見てみましょう。カードはPCMCIAやATA互換のカードであれば、直接デジタル・オーディオが記録可能。設定によってメモリーの量は可変です。プロ・レベルの48kHzで一時間録音するには、1,536ビット・レートで800MBのメモリーが必要になります。ファイル・フォーマットはこのPCMモード以外に、WAVやMP2など、いろいろ使えるのでとても便利です。録音してしまえば、このカードをPCに挿し換えるだけで編集ソフトを使って編集が簡単にできます。従来DATなどで記録した場合より1工程少ない状態(DATからA/Dを使ってPCに記録する)でPCに取り込むことができます。


録音された音は
クリアできれいなサウンド


さて、録音屋から見た使い勝手を書いてみましょう。まず音が揺れない!!! これはすごく大事です。回転系で録音しているわけではないので、振動に強く音揺れが無いのです。車の中の音や、バイクの走行音などを録るにはうってつけではないでしょうか。ヘリコプター、ジェット・コースターなどの録音にもいいかもしれません。これはかなり画期的なことです。ノ−ト型のPCを一緒に持って行けば、即!バックアップもできます(場合によっては、編集して聴くことも可能)。また、記録フォーマットも多様なので、自宅で仕込んだ音をスタジオに合わせたフォーマットで持って行くこともできますね(ということもしてみたいので、将来的にはデジタル・インも必要でしょう)。現バージョンの記録方式は、MPEG1レイヤーII圧縮および16ビット・リニアPCMですが、24ビット・マシンも期待したいです。


さて、実際にマイクをつなげて録音して音を聴いてみると、それほどクセも無くきれいな音です。声を中心に録ってみると、ピークに強い感じがしました(当然リミッターは入れないで)。録音して、再生してみると、ほぼ録ったときと同じ状態で再生されます。


今度は、外に出て街ノイズをNEUMANN 191Sのステレオ・マイクで収録してみます。少し臨場感(広がり)が狭まりますが、音はクリアです。欲を言えばローエンド(20〜50Hz)がもう少し感じられるとうれしいかな、と思いました。電車の音をマニュアル・モードとALCモードで比較すると、マニュアル・モードで録音レベルを一定にすると、通過する音のみがやや強調されますが、ALCモードで録音すると近付いてくる音、遠ざかっていく音が割と考えずにバランス良く録音できますから、いちいちテストする時間が無いときは、使ってもいいかもしれません。


以上いろいろ使った感想ですが、もはやDATは要らないかもしれないと思いました。ポータブルのレコーダーとしては十分過ぎると思います。軽さも武器です。1.3kgですよ!! 私のNAGRAは7kgくらいあるのです。ということは、録音する疲労度も少なくなるはずですねー。プロ仕様としては注文を付けたい部分も少しありますが、価格のことを考えると、コスト・パフォーマンスは高いと思います。皆さんもぜひこれを使って、いろんな音を録音してみてください。


MARANTZ
PMD690
180,000円

SPECIFICATIONS

■サンプリング周波数/48kHz
■チャンネル数/2/1(stereo/mono)
■周波数特性/20Hz〜20kHz±0.5dB
■SN比/80dB
■全高調波歪率/0.03%
■ダイナミック・レンジ/85dB
■使用メディア/テスト済みのPCMCIA ATAフラッシュ・カードおよびHDDカード
■録音、再生方法/MPEG1レイヤーIIおよび16ビット・リニアPCM
■消費電力/5.2W(DC 13V、録音時)
■外形寸法/264(W)×52(H)×185(D)mm
■重量/1.3kg