チューブ仕様の24ビット/96kHz対応ステレオAD/DAコンバーター

ARTDI/O

チューブ(真空管)を使った機材に積極的なARTから、新たにステレオAD/DAコンバーターが発売された。コンバーターにチューブ回路も加え、24ビット/96kHzにも対応と機能は豊富で、価格も手ごろなので要注目だ。

小型サイズで操作もシンプル
さまざまな用途に対応可能


ARTのDI/Oはパッと見たところポータブルのCDプレーヤーぐらいのサイズで軽く、同社の小型シリーズ共通の外観だ。スイッチやコントロールは前面に集中し、後面にアナログのイン/アウト(標準フォーン)とデジタル(S/P DIF)のイン/アウト、ACアダプター用の端子がある。前面パネルは、左からサンプル・レートの表示、サンプル・レート切り替えスイッチ、インプット・ゲインのコントロール、AD部に入力する信号レベルのインジケーター、チューブ用のコントロールとなる。操作はいたってシンプルだ。サンプル・レートを合わせ、インプットのゲインを適正にしておき、チューブ用のコントロールで真空管サーキットによる音の変化具合を決める、とこれだけである。


さて、DI/Oを使うシチュエーションを、入力/出力の形式で区別すると次の4つになる。


1.アナログ→デジタル
最も一般的な使用法。アナログのミキサーや楽器の出力をDI/Oのアナログ・インプットにつなぎ、DI/Oのデジタル・アウトをコンピューターのサウンド・ボードやデジタル・レコーダーのデジタル・インに接続する。通例、DI/O側がクロック・マスターとなる。サンプル・レートは、44.1/48/88.2/96kHzの中から選択できる。また、DI/Oのアナログ・インプットはハイインピーダンス仕様になっているので、楽器を直接入力することも可能だ。


2.デジタル→アナログ
この状況はあまり考えられないが、例えばDATなどのデジタル・メディアのモニターをする場合に、間にDI/Oをはさみチューブ・コントロールで音質を改善する、といったやり方がある。


3.アナログ→アナログ
あらかじめS/P DIFのケーブルでDI/Oのデジタル・イン/アウトをループさせると、アナログ・インに入った音がアナログ・アウトから出力される。インプット・ゲインとチューブ・コントロールで音質を調整する。


4.デジタル→デジタル
例えばマスタリングなどにおいて、DATとマスター・レコーダーの間にDI/Oをはさみ、サンプル・レートは外部クロックに設定し、チューブ・コントロールで音に温かさを加える、といったやり方だ。サンプル・レートは外部クロックに自動的に追従し、22kHzから100kHzまで広く対応する。


編注:DI/Oの真空管増幅回路はAD変換回路の前段にあります。「4.デジタル→デジタル」はアナログ出力とアナログ入力をケーブルで接続する必要があります。また「2.デジタル→アナログ」は「4.デジタル→デジタル」のように接続した後、他機器でのDA変換が必要です。(2018年1月付記)


チューブ独特の上品な質感から
豪快に歪んだサウンドまで


まず、普通のアナログ→デジタルのやり方で接続し、いろいろな音源とデジタル機器で試してみた。チューブ・コントロールのツマミは左に回しきった状態でスルーにしておき、インプットのゲイン・コントロールで−20dBの緑のランプが常時点灯するくらいの適正レベルに調整する。比較には、コンピューター用のサウンド・ボードとしてEMAGIC Audiowerk8とDIGIDESIGN Digi001のボード、単体HDRとしてROLANDのVS-2480を使ってみた。結果、DI/OのAD部は色づけの少ない素直なもので、Audiowerk8やDigi001のボードのAD部の方が個性的な音色を持っていた。またDI/Oはノイズ源になりやすいコンピューター本体と離して設置できるのも有利だ。


96kHzと44.1kHzの音の違いは、生楽器をマイクで録音すると顕著だが、通常のMIDI音源ではあまり目立たない。DI/Oの音質をうんぬんする前に、コンピューターやレコーダーなどの録音システム全体で、安価に24ビット/96kHzのシステムを組む可能性が出てくるところにDI/Oの大きな価値があるように思う。


チューブ・コントロールのツマミを右に回していくと、チューブ独特の質感(12AX7を使用)に音質が変わっていく。元のサウンドの中低域がふくらみ、ピークが少し丸くなって、サウンド全体が前に出てくる。ツマミを右に回しきっても、サウンドは上品な範囲に収まっているので、かけ過ぎて間違うおそれは少ない。ドラム、シンセ、オケ全体など入力する音源は問わない。また、プリアンプ付きのギターやパッシブのベースも直接入力してみたが、出力レベルは十分でDIとしても使えることが分かった。これらの楽器では、サウンドのキャラクターはチューブ・コントロールのツマミの設定次第で大きく変化する。これは、録音時の選択肢の1つになるだろう。


次に、アナログ→アナログのやり方で、DI/Oの左右のチャンネルをカスケード接続してみた(この方法はDI/Oの取説に紹介されている)。元の信号をアナログ・インプットの左に入力し、左の出力を右のアナログ・インプットに入力した上で、右の出力を外部ミキサーなどに接続するのだ。チューブ回路を直列で2回通ることになるわけで、これでインプットやチューブのレベルを調節すると、真空管で豪快に歪んだサウンドが得られる。信号はモノラルになるが、ほかのどのエフェクトにも似ていない独特のサウンドが得られる。歪み具合も調整できるので、ロックなユーザーは歪み専用マシンとして購入してもいいだろう。


DI/Oは録音作業のいろいろなシチュエーションで使える、便利な機材だ。コンパクトで移動/設置が楽なのもメリットだ。デジタル録音にチューブの質感を加えたり、手軽に24ビット/96kHzを試すのには最適である。



ART
DI/O
39,800円

SPECIFICATIONS

■AD/DAコンバーター/24ビット、128倍オーバー・サンプリング
■サンプリング・レート/44.1/48/88.2/96kHz
■外部同期レンジ/22kHz〜100kHz
■周波数特性/10Hz〜30kHz(±0.5dB)
■ダイナミック・レンジ/100dB typical
■最大入力ゲイン/+20dB
■最大入出力レベル/+20dBu
■入力インピーダンス/+100kΩ
■出力インピーダンス/220Ω
■外形寸法/136(W)×50(H)×133(D)mm
■重量/681g