ハード・ディスク・レコーディング環境に対応したBass Pod

LINE6Bass Pod Pro

Podシリーズの大ヒットの秘密は開発メーカーの驚くべきオタクさと、ハード・ディスク・レコーディング(以下HDR)による制作システムの変化にぴったりシンクロした2点だと思われる。"構成や細かいミスは後でなんとか"という気楽さと"ウチコミ以上に完璧に縦軸を合わせられてしまう"HDRに演奏といったパーソナルな揺らぎ/興奮を与えたいというニーズに、手軽かつ今日的な完成度、マニアック度の高いシミュレーション技術でもってこたえたPodはまさにタイムリーな1品だった。手軽なPodに前後してラック・マウント版Pod Proが発表されたのも記憶に新しい。そして、当然のように大ヒットしたBass Pod(僕も発売当初、電話をかけまくってやっと1台押さえてもらった)のProバージョンが発売された。いったいどこがProなのか、探ってみよう。

ライン入出力やデジタル出力など
Proならではの仕様


実は僕はTDMプラグインLINE6 Amp Farmの愛好家であり、Pod、Bass Podのヘビー・ユーザーでもあるという、メーカーの回し者的存在である(全部自分で買ってるんですけど......)。もともとベーシスト(今でも弾いてるんですけどね)でもあり1960年代のAMPEG B-15なんかを必死でリペアし続けている僕にとって、赤Podでベースを弾くのは今ひとつの感が強く、Bass Pod登場に強い期待を抱いていた。その結果はというと、今ではベーシストとして呼ばれる現場に必ずBass Podも持参しているほどである。しかもBass Podはもうひとつの僕の顔、ブレイクビーツにもグッとくる化学反応を示してくれる1台だった。レンジの広いビーツものをアンプを使ってリレコする際はギター・アンプよりもベース・アンプの方がOK度が高いとは思っていたのだが、シミュレーションものでも同じ結果が出た。いわゆる音悪くする系のことはPodでも十分できるのだが、ビーツの存在感を変えずに程よい荒らし加減やにじみを加えたいときに実に役に立つ。


そんなBass Podが持っていた機能は、本機にもすべて入っている。早速基本のベースを入力し音を聴いてみた。基本プリセットは同じものがあるので幾つか選んでみると、質感こそ同じだがレンジ感が大きく、グッと前に出てくる印象があって驚かされた。DAコンバーター自体にも差があるのかとも思ったが、それ以前にも背面にあるProならではの細かい仕様に差があるのだ。通常の−10dBvアンバラ・フォーン・アウトのほかにモデリング/DI共にバランス・キャノンの+4dBuアウト(リフト/グランド切り替え付き)が存在する。さらにLive/Studioという切り替えスイッチがあり、ライブ時にアンバランスはステージ・アンプ、バランスはPA卓へと使い分けられる便利さ。極め付けがExternal Digital Clock In付きのAES/EBUとS/P DIFアウトの存在だ。先ほどの環境は1968年製テレキャス・ベースをアナログのバランス・アウトからYAMAHA 02Rに立ち上げ、YAMAHA NS-10Mで確認したのだが、明らかにプロは差を感じる音だ。幾つかのブレイクビーツでも違いを感じた。


さらにProっぽいのが、リアンプ用のライン・インが用意されていることだ。前述のリレコのケース以上に、完全にエフェクターとしてMIX時に他の音色とのマッチングを合わせながらじっくりと設定を詰めていける。実はBass PodのTDMプラグイン版が出ないかと期待していたのだが、これなら十分それに代わる使用法が可能だ。この端子はプリエフェクトのリターンとしても使える便利なもの(もちろんセンドも並んで付いてます)。また、付属のポストセンド/リターン端子と合わせて、Proのどんな要求にもこたえてくれる仕様になっている。


デジタルならではの
レスポンスの良さを確認


期待の高まったところで、今度はデジタル・アウトも試してみた。AES/EBUをDIGIDESIGN 888︱24 I/Oに入力。本機はフロント・パネルにDigital Syncスイッチがあり、44.1/48kHz、Externalの切り替えが簡単にできる。クロックを、僕がマスターに使用しているMARK OF THE UNICORN Digital Time Pieceから送り、ベースを弾きPro Toolsに録音してみた。結果は同じくレンジ感/ヌケの良い、かつクリアでレスポンスの良いものだった。さらにBass Podで感じていた内蔵エフェクト(シンセ・ベースにもなってしまうすぐれものたち)のノイズも軽減されているようにも感じた。HDRにおいてこうした接続が可能ということは重要で、作業ストレス自体も減らしてくれるありがたい仕様だ(これまでPodからのゲインを上げるためだけに卓に立ち上げたり、プラグインで持ち上げたりしてたでしょう)。デジタルでの出力ゲインも正面パネルのツマミでコントロールできる。


ここまでくると、どうしても意地悪くレイテンシーも確認したくなるのが人情。やっちまいましたよ。オリジナル音をライン・インに送り、デジタルとアナログのアウトから取り込んだ結果、デジタルならではのレスポンスの良さを確認できた。


Bass Podとの差額は4万円、さて果たしてこれは買いだろうか。しかしHDRベースのクリエーターやエンジニアにとって本機のこうした恩恵は実に大きなものだと思われる。え、僕? Bass Pod Proを前に思いっきり悩んでいる最中である。



LINE6
Bass Pod Pro
99,800円

SPECIFICATIONS

■モデリング/アンプ・モデル(32)、キャビネット・モデル(16)、デジタル・エフェクト(16)
■アナログ入出力/ライン入力(フォーン)、ベース入力(フォーン)、ステレオ出力(フォーン/アンバランス)、ステレオ出力(XLR/バランス)、センド/リターン(フォーン)、ヘッドフォン(フォーン)
■デジタル出力/AES/EBU(コアキシャル)、S/P DIF(コアキシャル)
■AD変換/24ビット
■外形寸法/482.6(W)×88.9(H)×177.8(D)mm
■重量/4.54kg