畳み込み方式により空間の響きを忠実に再現するリバーブレーター

YAMAHASREV1

"シミュレーションではない、リバーブレーションである"。カタログにそう記されている通り、YAMAHAキモ入りの新製品SREV1は、従来のリバーブとは全く違った発想で設計されている。この"畳み込み"と呼ばれる方式は、広さや壁の素材などから反射をシミュレートするのではなく、実際の空間を計測して反射特性を割り出すものと考えればよい。詳しく解説してみよう。

音響特性を解析/データ化し
独自のLSIで残響を再現する


(1)実際のホールのインパルス特性を調べる
現実に存在する世界の名ホールやエコー・ルーム、レコーディング・スタジオやトンネルなど、さまざまな音場特性を測定する。音が止まってからの残響特性を計るのではなく、インパルスを音源に使用(インパルスとは、全帯域の情報を持ち、非常に立ち上がりが早く、非常に短い音のこと)。その反射を解析することで、音場の特性を正確に把握することが可能になった。(2)音場特性を解析し、データ化する
インパルスの応答音をFIR(Finite Impulse Response)型フィルターで処理することにより、DSPで処理することが可能になる。ただし、リバーブの正体は"非常に高密度なインパルスの集合体"なので、並のDSPでは全く処理能力が足りない。(3)専用LSIを開発
あまり知られていないが、YAMAHAは自社開発のLSIを大量生産できる環境を持っている(おそらく日本最大)。その特徴を生かし、解析した残響特性を畳み込むための演算用LSIを新開発した。写真①に見られるように、ずらっとLSIが並ぶ様は壮観である。このボード1枚が標準装備されており、その状態で5.46秒(2ch)/2.73秒(4ch)の残響再現が可能だ。同じボードを1枚増設することで、10.92秒(2ch)/5.46秒(4ch)まで増強可能。増設時の演算数は、リアルタイムで520,000ステップ/chというから、驚異的スペックと言える。▲写真① DB-SREV1
価格/200,000円 

3Uラック・マウント・サイズで
リモコンは02Rの操作性を踏襲


外観は3Uラック・マウント、奥行き451.8mmなので、大概のケースに収納可能。重量は11.5kgだ。CD-ROMとType II PC Cardスロットを持ち、音場データのロード/セーブができる。標準状態ではAES/EBUのデジタルI/Oしか付いていない。アナログのI/Oを付けたいなら、YAMAHAお家芸のスロット・カードを増設する。また、SREV1はコントローラーが無いと使えないので、
●本体(500,000円)
●リモート・コントローラー (150,000円)
●アナログ・インのADボード(28,000円)
●アナログ・アウトのDAボード(22,000円)
が必要になり、実際の価格は700,000円となる。リモート・コントローラーには、どこかで見たような液晶画面が陣取っている。おそらく同社の02Rと同じものだ。個人的に青い液晶はニガテだし、通常の使用状況ではかなり横から見ることになるため、大変見えづらいが、45度ぐらいまでいくと、問題ないレベルになる。操作性も02Rを踏襲していると考えてよく、RECALLやSTOREのボタンが点滅しているのが懐かしい。しかし、02Rに比べて機能が限定されているせいか、使い方を迷うことはなかった。OSの都合なのか、文字がすべて大文字なので、"NIPPON BUDOKAN"などの日本名プログラムは読みやすいのだが、"KONZERTHAUS GROSSER"などとなると、直感的に認識しづらい。そのほかは、複数回押すことでページをめくれたりするボタンに代表されるように、洗練されたインターフェースと言える。操作性に問題はない。マニュアルを読むこともなく、I/Oの設定からシンク関係まで問題なく使うことができた。

元音を十分作り込むことで
畳み込み系のリバーブが生きてくる


テスト機は、アナログのI/Oボードを装備していなかったので、DIGIDESIGN 888|24 I/OのAES/EBUを使い、デジタル・イン/デジタル・アウトで試聴した。まずは2ch状態で試聴したのだが、正直なところ、かなりとまどった。全体に響きが暗く、プリセットを変えても音色があまり変化しない。畳み込み系のリバーブは、こういうものなんだろうか......? 一瞬そう思ったが、気持ちを抑えて方々に問い合わせてみる。いろいろな話をしているうちに、"サラウンド状態で聴いてみよう"と思い、4イン/4アウトにしてチェックしてみた。音色の暗さは、まだ残っているが、かなり改善され、自然なサラウンド感に浸れるようになった。リバーブの音色には、"元になる音の音色"が密接にかかわっているので、ああでもないこうでもないと、Pro Tools内の元音をいじり倒していた。すると、ドラムのハイエンドをブーストした瞬間に、ぱあっと目の前が開けた。なるほど、そういうことだったのだ。畳み込み系リバーブの特徴を理解できたように思う。現存する多くのシミュレーション系デジタル・リバーブとは違い、元の音を十分作り込むことが必要なのだ。あえて誤解を恐れずに言えば、元音に"生音のような新鮮さ"が必要。そうなって初めて、リバーブ感が生き生きと響くようになる。一般的なデジタル・リバーブで、元音を明るくし過ぎると、高域のいやらしい反射が目立つことが多い。そのクセが固定概念として筆者の頭に残っていたらしく、程々の作り込みでリバーブに送っていたのだ(反省)。そういった処理を施してからのSREV1は、"10年の歳月を費やして世界中の名ホールをサンプリングして歩いた"という言葉も納得できるほどの響きを聴かせてくれた。

サラウンドにも対応の
計24種のプリセットを内蔵


本機には、2ch用のプログラムが12タイプ、4ch用のプログラムが12タイプ(表①)の計24種のプリセットが内蔵されている。ホール、チャーチ系のプログラムでは、初期反射の少ない、上質なリバーブ感が得られる。5.46秒を上限として響きが止まっているはずなのだが、そんなことは全く気にならない。4イン/4アウトでサラウンドにする場合以外は、DSPボードの増設は必要なさそうだ。スタジオのルームをサンプリングしたプログラムでは、吸音されたルーム感が再現されている。エピキュラス・スタジオというプログラムでは、グラスウールの反射音が再現されていて、思わずニヤッとしてしまった。プレート系は、あらゆるデジタル・リバーブの中で、最も良くできている。ルームとは全く違った初期反射が感じられ、アタックの早い音も、躊躇なくリバーブに送ることができる。デジタルくささは、ほとんど感じられない。▲表① プリセット・プログラム表 次は、サラウンド・モードで聴いてみよう。今度はホール系プログラムでもハッキリとした初期反射を聴くことができる。実際のホールでは、残響時間は思ったよりも短く(2秒前後)、初期反射による広がり感の方が支配的なもので、そういう意味でも忠実な再現だ。特に低域がすごい! 100Hz以下の響きが前後左右から押し寄せるようにやってくる。こういう響きは、ほかのリバーブでは聴いたことがない。近いものでLEXICONの960Lがあるが、あれは個人で買えるものではない。これが700,000円ならスタジオは買う価値がある。チャーチ系プログラムでは、独特のヌメッとした初期反射が宗教色を煽る。武道館プログラムは、ライブの収録でノイズ・マイクがうまく録れなかったときなどに重宝するだろう。当然のことだが、サラウンド・モードにプレート系は無い。筆者などは、EMT140を2台使ってサラウンドをやることもあるので、ぜひプリセットを作ってほしいものだ。もっとも、SREV1には音場特性をサンプリングするソフトウェア(画面①、②)も付属するので、自分でやろうと思えば不可能ではない。そのためにスタジオをレンタルする気にはなれないが、ハウス・エンジニアなら可能なことだ。いっそYAMAHAのサイトでプリセットを募集してはどうか? ダウンロード1回につき1,000円とかなら、みんな頑張るかも(笑)。▲画面① メジャー・ソフトウェアの画面▲画面② インパルス応答データ・エディター・ソフトウェアの画面 

畳み込み方式の宿命と
今後の要望


では最後に、非常に良くできたリバーブだという前提に立って、あえて現状の欠点を書いてみたい。この方式なら、ソフトウェアのアップデートでかなりの可能性があると思うからだ。まず残念なのは、畳み込み方式の性格上"サンプリングされた長さよりもリバーブ・タイムを伸ばすことができない"という宿命を持つ。つまり、気に入った音色のプログラムが見つかっても、そこからリバーブ・タイムを伸ばすのは不可能なのだ。短くすることはできるので、長めのプログラムからエディットするしかない。いつか、演算のアルゴリズムを開発して伸ばせるようになってほしいものだ。初期反射のバランスを変えられないのも、非常に惜しまれる。実際の残響がそうなっているのだから致し方ないのだが、純粋に技術的な進歩として、"解析された残響を自在にコントロールできる"ようになるのは、面白いと思うのだが......。暫定的にエフェクト分のエンベロープが変えられるだけでも重宝するだろう。もう1つ苦言を呈するが、CD-ROMから読み込むときに時間がかかり過ぎる。サラウンド系のプログラムをロードすると10秒ほど待たされることになるので、SREV1を最初に使うときは、十分な時間のある仕事で試したい。好きなプリセットが決まってしまえば、それをインターナル・メモリーに蓄えておけば良い(PCカードにセーブして持ち歩くこともできる)ので、慣れてしまえば何の関係もないのだが、最初はイライラすることだろう(俺だけか?)。

▲MY8-AE(AES/EBU)
価格/28,000円



▲MY8-AT(ADAT)
価格/22,000円



▲MY8-TD(TASCAM)
価格/22,000円



▲MY4-AD(24ビット/4ch)
価格/28,000円



▲MY8-AD(20ビット/8ch)
価格/28,000円



▲MY4-DA(20ビット/4ch)
価格/22,000円


YAMAHA
SREV1
500,000円

SPECIFICATIONS

■サンプリング・レート/48kHz(インターナル)、44.1kHz or 48kHz(エクスターナル)
■内部処理/32ビット
●プログラム・メモリー
■2ch×2mode/12(P1〜P12)
■4ch、2ch mode/6(P1〜P6)
■PC Cardスロット/PCMCIA ATA TypeII memory card
■CD-ROMドライブ/ISO9600 Level 2 discs(FAT16)
■電源・電圧/100V AC、50Hz/60Hz
■消費電力/110W
■外形寸法/480(W)×141.7(H)×451.8(D)mm
■重量/11.5kg