個性的な高域と安定したパワーを持つアクティブ・モニター

FARAV-6
久しぶりに使えるスピーカーに出会った気がした。それが第一印象だ。アクティブ全盛のモニターの中で、本当に使えるモノが少ないことを嘆いていた矢先のことだ。私はこのレポートを書くに当たって、初めてFARというメーカーの製品に触れたので、http://www.far-audio.comにアクセスしてみると、ベルギーにあることをはじめ、かなりのバリエーションのモニター・スピーカーを発売していることが分かった。アクティブ・モニターだけでも、本機を含めたAVレンジと呼ばれる5機種と、コンパクトなPeakレンジという2機種、パッシブ・モニター6機種、さらにパワー・アンプ2機種、サブウーファーだけでも5機種をそろえる充実ぶりに驚かされた。私が勉強不足だけだったのか、まだまだ浸透していないのか、会社の歴史が6年足らずのFARは、これからが期待できるメーカーには違いなさそうだ。

音の輪郭が見えるような
パワーのあるモニター


早速コンソールのメーター・ブリッジに乗せて、レコーディングとミックス・ダウンで使ってみた。高音域に特徴があり、超高域の息づき感を非常に良く再現してくれる。女性ボーカルの倍音をチェックする際などは、すこぶる聴き取りやすかった。逆にミックス・ダウンで使用する際は、ある程度倍音が強調される傾向を考慮しておかないと、地味なマスターを作ってしまうことになりかねないかもしれない。同じようなマーケットに君臨するGENELECと比較すると、高音域に関しての個性は、さらに高い周波数にあるようだ。従って、音量を上げても耳に痛い感じは無い。一言で言うと、音の輪郭が見えるモニターと言えるかも知れない。


個人的にはミックス・ダウンやマスタリングで使用するより、ボーカル等のダビングで使用したり、クラインアントやミュージシャンへのプレイバックに使いたいと感じた。本機の代理店はフェアライト・ジャパンとのことだが、Kim Studioでは今も活躍しているFAIRLIGHT IIIの100kHzでサンプリングされたきれいな倍音を、美しく再現してくれたのが印象的だった。


21cmのウーファーが発する安定した低音には重量感もあり、十分なパワー感と相まって安心して仕事ができる。一般的にレコーディングの現場では、未加工の生の音をそのまま聴くことが多いために、予想外の大音量や、過大な低音成分が入力されて、ウーファーが暴れたり、時としてユニットを飛ばしたりしてしまうが、リミッターも内蔵されておりその点でも安心できそうだ。このモニターの低音再生能力は、このサイズとしては十分なもので、無理に低音を強調したブーミーな小型モニターが多い中で、かなり素直に聴ける方だ。とはいえKim Studioのラージ・モニターと比べてしまうと、さすがに重低音の表現力には物足りなさを感じる。ただ10倍以上の重量差を考慮すれば、良くできていると言えるだろうし、同クラスのライバル製品と比較しても十分に抜きん出られる。Kim StudioのラージはKINOSHITA MONITORの名機RM-7Vだが、重量が250kgもあるわけで、狭いスタジオに設置することは現実的に不可能だが、モニター・アンプ内蔵で20kgの本機ならコンソールのメーター・ブリッジにおける重さだろうし、かろうじて運搬する気が起きる重さとも言える。何よりも、ラージで聴いたディテールを保っていることが特筆に値する。


設置方法を選ばず
リモート・コントロールも可能


本機は、ニアフィールドのみならずラージとスモールの間を補うような使用法も面白いだろう。大型コンソールのメーター・ブリッジに乗せるか、コンソールの後ろにスタンドを置いて設置するのが現実的だと思うが、埋め込む価値もあるだろう。


決して小さくはないアンプの残留ノイズを気にするなら、至近距離でのモニターには向かないかもしれない。が、バック・パネルに配置された、数多くのファンクションの一部はリモート・コントロールが可能なので、離れた場所に設置したり壁に埋めたりしても使用には何ら問題がなさそうだ。しかしながら、最近のモニターはどうしてこんなにも複雑なフィルターを内蔵するのだろうか? フィルターでごまかすのではなく、スピーカーそのものをフラットにしてくれれば、あとは設置方法で解決すべき問題だと思う。


そういった点では、本機はリモート・コントロールに工夫が感じられる。リモート・コントロール可能なファンクションは、音量、ミュートのほかに、プリセットしたフィルターをフラットにしたり、メーカーでプリセットされた音場特性カーブのシミュレーションの切り替えなど豊富だ。特にミュートやレベルがリモートできるのは非常に便利そうだ。今回の試聴ではコントローラーが用意いただけずに残念だったが、1台のコントローラーで左右を同時にリンクできるようで、左右でのレベル調整の心配はなさそうだ。


また、音場のシミュレーション・カーブは非常にユニークなアイディアで、Academy、TV、Car、ClubそしてFlatの5つが用意されており、それなりに的を射た設定になって面白い。テレビやカー・ステレオで聴かれた場合等のシミュレーションをモニター・スピーカーを変えて行わなくても、ワンタッチでイメージがつかめるとすれば、重宝な人もいることだろう。


アクティブ・モニターが超人気の昨今のスタジオ業界。相変わらず名前だけでモニターを指名買いする人たちが多いわが国で、後発メーカーとなるFARが、そして本機AV-6が、どれだけ受け入れられ浸透していくのか見守っていたいと思う。


FAR
AV-6
200,000円(1本)

SPECIFICATIONS

■周波数特性/45Hz〜22kHz
■アクティブ・フィルター/ローパス、ハイパス、ミッドパス、バンドパス
■クロスオーバー周波数/3.5kHz、24dB/oct
■全高調波歪率/0.05%
■定格最大出力/LF:120W/180W、HF:70W/100W
■外形寸法/270(W)×400(H)×300(D)mm
■重量/20kg(1本)