マスタリング時に必要十分な機能を備えたステレオ・プロセッサー

FOCUSRITEMix Master

個人的に、その先鋭的デザインがすごく素敵だと思うFOCUSRITEのPlatinumシリーズに、新しいモデル、Mix Masterが加わりました。これは24ビット/96kHz ADコンバーターのほか、あらゆる2トラック・ソースにおいてマスタリングやさまざまなプロセッシングが行える機能を有した、ハイコスト・パフォーマンス・マシンのようです。

自宅マスタリングにも適した
多彩な機能を搭載


Mix Masterは、アナログ入出力としてXLRとフォーン・ジャックを各2ch備えています。フォーン・ジャックの入出力は−10dBに設定されているため(これとは別に、フォーン・ジャックのステレオ・ダイレクト入力は+4dBの設定になっています)、セミプロフェッショナル機器や民生用のDAT、CD、MDなどを多く使用している自宅スタジオやプロジェクト・スタジオなどでも問題なく使えるところはとても機能的で便利です。


デジタル出力はAES/EBU(XLR)、S/P DIF(同軸)の2系統を装備。ただし同時に使うことはできないので、DIGITAL O/Pボタンで切り替えて使用します。出力の量子化数(16/20ビット)やサンプリング・レート(44.1/48/88.2/96kHz)の選択スイッチも同様に背面パネルにあります。そのほかにエクスターナル・ワード・クロック・インプット(BNC)を装備しているので、クロック・ジェネレーターまたは外部デジタル機器からのクロック供給も可能になっています。


プロセッシング機能としては、エキスパンダー、マルチバンド・コンプレッサー(3バンド)、マルチバンド・リミッター(3バンド)、3バンド・イコライザー、ステレオ・イメージ・コントローラーがすべてステレオ仕様で装備されていて、マスタリング用アウトボードとして必要な機能は十分含まれています。各部エフェクト・セクションはそれぞれバイパスできるのと、すべてのセクションを同時にバイパスできるEFFECT BYPASS機能(リミッターはバイパスされない)も付いているため、各プロセッシングON/OFFのサウンドを一斉に切り替えて比較することができます。ジョグ・ダイアルやディスプレイなどは一切ありませんが、エフェクトのコントロールにはディテント・タイプ(クリック・タイプ)のボリュームを使用しているので、プロセッシングのセッティングを正確に再現することができ、ディスプレイ表示では分かりづらいプロセッシングの状況もすべてツマミの位置で確認できるので視覚的にも分かりやすいです。


中高域がやや前に出た
全体的にクリアな音質


では音質についてチェックしていきたいと思います。まずはADコンバーター部分をAPOGEE AD-1000やDBX Quantumと比較して聴いてみました。高域、中域、低域それぞれ分離良く出ていて素直な感じです。傾向としては中高域がちょっと前に出ているようなので、全体的にクリアに聴こえる印象があります。ADコンバーターの前にあるマルチバンド・リミッター機能は、固定されたスレッショルド値に設定されています。用途としては2トラック・ソースをプロセッシングする前段階でピークを抑え、デジタルのクリッピングを防ぐのに効果的です。ただ、レベル(音圧)を稼ぐために過大入力し過ぎると、シャックリのようにサウンドが揺れてしまう場合もあります。


EQは3バンドになっており、各バンド10dBのブースト/カットが可能です。LFは40/70/120Hz、HFは10/14/20kHzと周波数を選択できるほか、TILTという機能があり、これを使用することによって低域や高域を全体的にブースト/カットすることができます。MFは100Hz〜10kHzの周波数帯になっているほか、×10ボタンがあり、これを使うことにより周波数を10倍の値に設定可能です。またQコントロール機能もあるので、指定した周波数のバンド幅を設定することができます。個人的にはLF、HFともにもっと細かい周波数帯の指定ができるとうれしいです。


次に3バンド・コンプレッサーですが、LO/MID/HIでの調整が可能で、スレッショルド、レシオ、リリースの設定のほかにLF/HFトリム(スレッショルド調整機能)、LOCKスイッチ(3バンドのスレッショルドを固定させる機能)、SLOW ATTACK(アタックの調整)、SLOPE(LF/HFの周波数クロスオーバー・ポイントの設定)、MAKE UP GAIN(コンプレッション後のゲイン調整)があり、各バンドにはゲイン・リダクション・メーターが付いています。またEQ、コンプともにO/L LEDが付いており、各ゲインが高過ぎるときにLEDが点灯する仕組みになっています。


このほか、エキスパンダーは、スレッショルドとリリースの設定によって、信号レベルの低いノイズをマスキングすることができます。ステレオ・イメージ・コントローラー(WIDTH)は、ステレオの広がりの増減を、位相のコントロールによって調整する機能です。バランス・トリムも付いており、ステレオのバランスを左右3dBの範囲で調整することが可能です。また、これらのステレオ・イメージ・コントローラー機能や2トラック素材の位相をピーク・メーターで確認できるPHASE (位相)メーターも装備しています。7セグメント表示のLEDによって最大180度までの位相を表示できるので、自宅でのアナログ盤用マスタリング作業のときなどには便利だと思います(アナログ盤の場合、逆相になっているとうまく再生されないことがあるので、それを防ぐための目安として)。


以上紹介したように、多くのプロセッシング機能を搭載しているほか、かなり広範囲で使うことのできるマシンだと思います。



FOCUSRITE
Mix Master
188,000円

SPECIFICATIONS

■周波数特性/5Hz〜200kHz(±2dB)
■ノイズ・レベル/−96dBu以下(全セクション入力)、−86dBu以下(全セクション出力)
■全高調波歪率/0.006%以下(+4dBu)
■ヘッドルーム/22dB
■外形寸法/480(W)×88(H)×265(D)mm
■重量/5.2kg