24ビット対応の単体型24trハード・ディスク・レコーダー

MACKIE.HDR 24/96

一昨年の発売アナウンスの後、なかなか発売されないので心配していたHDR24/96だが、今回ようやくチェック用に製品版が手元に届いた。やはり一番気になるのが"ディスプレイを使った波形編集がどこまで快適にできるのか?"という点。スペック的には、より高価なプロ機であるFAIRLIGHTやOTARIのRadarに迫る内容なだけにその完成度は大いに興味あるところだ。

安価で高速なIDEドライブを採用
入出力カードは任意オプション


まずは本機の主な特徴を把握しておこう。
●24トラック/24ビットHDR
●ディスプレイをつなげば本格波形編集が可能
●20GBのHDを標準で内蔵
●さらにリムーバブル・ベイも装備
●各トラックに8つのバーチャル・トラック
●便利なオート・テイク機能
●I/Oカードはオプションで任意選択可能
●100Base-TのEthernet端子を標準装備
といったところ。


同時再生/録音ともに24トラック。バーチャル・トラックは各トラックに8つずつで、合計192トラックを用意。録音フォーマットは16/24ビットそれぞれで44.1/48kHzが選べる。96kHzでの録再は今後のバージョン・アップで対応予定だが、その際は12トラックまでという制限がある。内蔵HDは標準装備で20GB。WAVEまたはAIFFのファイル・フォーマットから選択して、24トラックで最大90分の録音が可能だ。さらにフロント・パネルにはリムーバブル・ベイも用意されており、オプションのHDカートリッジを挿してバックアップはもちろん直接録音することも可能。安価で高速なUltra DMAドライブが使えるのが魅力だ。さらにE-IDE HD以外には2.2GBのORBがマウント可能になるとのこと。なお、今回外部用SCSI端子は搭載されていない。


4Uの本体は奥行きも少なめでコンパクトだが、重量は10kg弱とちょっと重く感じる。背面にはスタンダードPCキーボード、PS/2マウスを接続可能(ただしキーボード端子は5ピンDINと特殊なので注意)。ディスプレイ用のビデオ・アウトはD-Sub15ピンのSVGAで、既に持っているコンピューター用を切り替えて使ってもいいだろう。17インチ相当が用意できれば十分快適だ。


オーディオI/O用にはスロットが3つ用意されており、同社のデジタル・ミキサーD8Bと共通の各種ボード(後述)から8チャンネル単位(イン/アウトで1枚)で任意選択できる。I/Oをすべてオプションにしたことでかなりのコスト・ダウンができるわけだが、録音状況に合わせてカードを差し替える必要も出てくるだろう。I/O部のカード差し替えは手回しのネジ式なので簡単だ。


標準装備のSYNCカードには、ワード・クロックのI/OとSMPTE端子(入出力は内部切り替え)を用意。クロック・インはComposit VideoとBlack Burst にも切り替えられ、LTCを使った本格的同期が可能。MIDI 用は特殊な9ピン端子だが、MIDI端子への変換ケーブルが付属している。MTCのマスター/スレーブになれるし、MMCにも対応。また、リモート端子にはオプションのREM24(50,000円)やREM48(開発中)をつないで遠隔コントロール可能だ。


HDRソフト並みの
快適な波形編集機能


やはり専用機だけあって録音/編集作業は実に快適だ。まず電源をONにすると、30秒程度で前回最後に作業していたプロジェクトが自動的に立ち上がりプレイバック状態に入れる。ディスプレイを使った作業は、ほとんどコンピューター・ベースのHDRソフトそのもの。専用OSなので操作感も抜群、描画もかなり高速だ。24トラック分のレベル・メーターがディスプレイ上部にも表示できるが、本体のLEDよりも見やすいくらいスムーズ。波形の拡大はもちろん、ズーム・アウトすれば24トラック分が一覧可能である。


プロの現場にも対応できるような編集作業を考慮して、各種ショート・カットも十分に用意されている。例えば"Ctrl+矢印キー"で波形の縦横ズーミング。"Ctrl+M"では走行中にCUEポイントの登録、テン・キーにもダイレクトにCUEポイントが登録可能だ。画面状態は、F5〜12キーにストアし瞬時に切り替え可能。ボリューム・データは鉛筆ツールを使って書き込めるし、クロスフェードの設定も簡単だ。もちろん、小節で管理してグリッドを使ったデータ移動もできる。また、リージョンを間違って移動しないようにロックすることも可能だ。


さらに2ボタンのPS/2マウスには右クリックにも機能が割り当てられており、カスタマイズできなくても使い勝手はかなり良好だ。多機能ではないが、通常のHDRソフトに付いているおいしい機能は大抵装備されていると思ってよいだろう。


999ステップまでさかのぼってのアンドゥ/リドゥは"History"として履歴がリスト表示され、作業内容まで分かるので実用的。アンドゥの際によく陥りがちな、勘違いによる失敗もかなり少ないだろう。その他、音素材を一覧するプレイ・リスト、名前も付けられるCUEリストなどは大きめの表示でとても見やすい。


ただし本機にはミキサー機能がないので、各トラックへのリアルタイムのエフェクト処理は当然外部ミキサー側で行う。波形処理用のファイル・ベース・プラグインなども用意されていない。


便利なオート・テイク機能
本体だけでも快適な作業が可能


録音関連機能で最も魅力的なのは"オート・テイク"機能。オート・パンチ・インの範囲を設定してオート・テイク状態でループしておけば、8つのバーチャル・トラック内で自動録音を続けてくれる。8つのテイクの波形をずらりと並べてつなぎ合わせられるので、とても分かりやすい。録音後の試聴もリアルタイムでテイクを切り替えられて便利(Ver1.0ではこの操作の反応が悪いのが残念だが)。とにかくこのオート・テイク機能はお薦めなので、ぜひ店頭で体験してみてほしい。


前面パネルのフロッピー・ドライブでは、OSのバージョン・アップが可能。また万が一作業中に内蔵HDがクラッシュしてもフロッピーに入ったOSから立ち上げるられるので、バックアップしておいたHDカートリッジ側で作業を続行できる。これ以外にも、ちょっとしたオーディオ・ファイルの読み込み/書き出しなどに役立ってくれる。


またSCSIが付いていないことで気になるのは手持ちのメディアへのバックアップ問題だが、本機には100Base-TのEthernet端子が付いている。これを使えばTCP/IPでコンピューターにデータを吸い上げることも可能だ。試しにOS9のMacintoshにFTPソフトでファイル・コピー後、HDRソフトで開いてみたがまあまあの速さ。ドラム・トラックぐらいの移動だったら実用範囲内である。


さらに本機の優れている点は、本体だけでも編集以外のほとんどの作業が快適にできることだ。通常の録音作業以外にもトラックのミュート、バーチャル・トラックの選択、ファイル管理など、編集以外はたいていスムーズに行える。オート・テイクまで可能なのもうれしい。LCDディスプレイは小さめだが、無駄が無くて意外に使いやすい。


オプションのリモート・コントローラーREM24は、安価な小型外部ロケーター。本体の排気用ファンの音が結構大きめなので、生楽器の録音時などの遠隔操作に便利だ。ボタン類は最低限だが、オート・テイク番号が確認できるし、任意の1トラックのみならレベル表示も可能なのが便利そうだ(今回はチェックできず)。またREM48は、本機を2台接続して使用する場合のプロ仕様のリモート。こちらは48個のレベル・メーターやジョグ・ホイールまで装備しているようだ。ただし2台の場合ファイル管理や編集作業などは別マシンのままらしいので、48トラックとは言ってもさほどスマートには管理できないないかもしれない。


アナログI/Oは抜けのいい
透明感のあるサウンド


今回はアナログ8ch(AIO・8)とADATオプティカル(OPT・8)の両方のI/Oボードを挿して、サウンドをチェックした。AIO・8のAD/DAコンバーターのサウンドに関しては筆者はD8Bで使い慣れており、聴き覚えのある抜けのいい透明感のあるサウンドに安心した。低域もしっかり伸びている。デジタル・インはもちろんワイド・レンジ。D8Bとのセットアップでは、このオプティカルI/Oカードを使うのが安くて音もいい。ディスプレイ、キーボード、マウスのセットを共通にしてスイッチャーで切り替えて使うとさらに経済的だろう。


録音作業は快適な本機だが、あえて弱点を挙げるとすれば、まずはI/O周り。"モニター側をデジタルにして録音側だけアナログ"あるいはその逆、の使い方ができないのが場合によってはちょっと不便だ。スロットを1つ増やして、内部切り替えできるとよかったと思う。また、一昨年の発表時にアナウンスされながらVer1.0での搭載が間に合わなかった幾つかの機能も気になる。やはり、SCSI端子は必要だろう。これが無いために、当面はバックアップ用に大容量のHDカートリッジを数台準備しなければならないからだ。業務用のD-Sub9ピン・リモート端子もリクエストが多い機能だ。さらにリバース、タイム・ストレッチ、ノーマライズ、ピッチ・シフトなどのベーシックなファイル・ベース処理のコマンドも、HDRならではの便利機能なので早く搭載してほしい。


もっとも、これらの機能が加われば本機がかなりパワフルで魅力的なHDRとして完成されるのは間違い無い。24トラックに対応できるミキサーはやはり大型で高価になるが、外部機器との接続に高い自由度を持つという利点も大きい。常に外部ミキサーを使うのであれば、システム的にはよりシンプルで使いやすく、経済的でもある。


音楽用と同じコンピューターで、ワープロやインターネットを見たりするのはストレスを抱える原因になる。使い込むほどに音楽専用マシンが欲しくなってくるものだ。本機のような録音専用機の良さは"高い安定性"と"作業の速さ"にある。多機能ではないと書いたが、その長所を犠牲にするような余分な機能は搭載しない方が正解とも言えよう。波形編集のできる音楽専用機が欲しい人は、真っ先に要チェックのマシンだ 。



▲メーター・ブリッジも装備された24tr表示の編集画面



▲I/Oカード・オプション。左からAES/EBUフォーマットの8chI/O、PDI・8(66,000円)、アナログ8ch I/OのAIO・8(66,000円)、ADATオプティカルとTDIFを備えた8ch I/OのDIO・8(75,000円)。I/Oとしてはほかに、ADATオプティカルI/O、OPT・8(20,000円)も用意されている(下のリア・パネル参照)



▲オプションのADATオプティカルI/O、OPT・8を3枚装着した状態。OPT・8右横の上部にREMOTE、MOUSE、PUNCH端子が並ぶ。その下はKEYBOARD端子。さらにVIDEO、ACC、SYNC、ACC、ETHERNET、MIDI用の端子が続く


MACKIE.
HDR 24/96
800,000円

SPECIFICATIONS

■同時録音トラック数/24
■内蔵ディスク容量/最大90分/24トラック(Ultra ATA 66/20GB)
■周波数特性/2Hz〜22kHz±0.5dB
■全高調波歪率/0.00001%
■ダイナミック・レンジ/144dB(デジタル)、106dB(アナログ)
■クロストーク/−90dBu
■最大入力/−18dBfs/0dBfs(デジタル、定格)、+4dBu/+22dBu(アナログ)
■サンプリング周波数/44.1/48/96kHz(96kHzにはアップグレードで対応)
■量子化ビット数/24ビット
■外形寸法/483(W)×178(H)×337(D)mm
■重量/9.65kg