クラブでのライブにも対応できる本格的DJミキサー登場

ALLEN&HEATHXOne:464

21世紀になってもまだまだ元気なのがDJの世界。業界に元気があるのはいいことです。国内や海外からも続々と新製品が登場する中、本家ミキサー屋のALLEN&HEATH(以下A&H)から遂にDJミキサーがリリース。とはいってもそこはそれ、DJ専用というわけではないことは一目瞭然。まー、図体がデカイので一瞬ひいちゃいましたけど(笑)、この大きさには訳があるはず。そして、それだけの機能があるということでしょう。6本のステレオ・フェーダーに4本の本格的なシングル・フェーダー。いろいろ夢がふくらんできますよね? ということで、早速電源を入れて音を出してチェックを始めてみましょう。

計16系統の
充実したインプット


このミキサーのカタログ的なことから押さえていってみよう。入力はフォノ4系統(同時使用可)、ステレオ・ライン入力8系統(同時使用6系統)、そしてモノ・ライン入力4系統だ。これだけでも図体の大きさの理由が分かるというものだ。ステレオ入力の方には各チャンネルにゲイン調整つまみ、4ポイントのパラメトリック・イコライザー(周波数ポイント固定)、それからAUXの送りがモノで2系統、ステレオで2系統の計6系統。そのうち5〜6の送りはプリフェーダーでの送りが切り替えで可能となっている。背面の端子パネルはノーマル状態では裏面に向いていて埋め込むようになっていますがそれはご安心を。左右のねじを1本ずつ外すことで、後ろ面にパネルが移動するのです。その際には適度な角度が付くので状況に応じて使い分けができるようになっています。その辺もよく考えられていますね。


フェーダーの上にはいかにもDJ用という感じの視認性の良いキュー・ボタン。各ステレオ・フェーダーにはクロスフェーダーの左右どちらにもアサインできるスイッチが付く。もちろんクロスフェーダーを使わないことも可能だ。ちなみにクロスフェーダーは昨今では珍しくなくなったVCAコントロール・タイプ。こうすることによって、クロスフェーダーに音声信号が通過しないので、クロスフェーダーのガリや劣化による音質の影響がない優れものだ。フェーダーはカタログに明記されていないが触った感じは恐らくプラスチック・フェーダーだと思う(サンレコ読者ならプラ・フェーダーの方が耐久性に優れていることぐらい常識だよね?)。


シングル・フェーダー部分は、より本格的な機能。同じAUXアウトを共有してはいるが、1〜6までそれぞれが独立したものになっていて、そこら辺の差別化はさすがはミキサー屋さんというところか。イコライザーも同じく4ポイントではあるが、ミッドの1、2がそれぞれポイントの周波数が可変となっている。このチャンネルに楽器や声を扱うことを前提としていることが、ここでもよく分かる。せっかくインプットが多くても、こういう肝心なところが見落とされているものも少なくないからねー。


アウトプットはステレオで2系統。RCAピンとXLRがそれぞれ装備されていて便利便利。当然それぞれにインサートも備えているので、トータルにコンプ/リミッターを挟み込むのにも非常に便利。モノラル・アウトもあって、これは裏面パネルでミックスの1か2を選択する形になっている。ステレオ・フェーダーに直接割り込むエクスターナル・インもあるので、これをメイン・ミキサーにして他のミキサーを割り込ませることも可能だ。D-SUB端子を取り付ければ同じくSYS-LINKが1本のケーブルでとれるので、こちらをサブミキサーとして使うことも考慮されている。もちろん、シングル・フェーダーにはマイクのXLRインとファンタム電源も装備されている。この辺もさすがはミキサー・メーカーというところだね。


レゾナンス・フィルターで
音色が加工可能


って、何が便利かっていうのはですね、クロスフェーダーの左右に付いているつまみ。"フィルター"と書いてあるんですけどね。そんでもって、マスター・フェーダーの左側に"レゾナンス"と書かれているんだけどさー。勘のいい人ならすぐに分かるでしょう? そうなんです。ステレオ・インプットの音源をクロスフェーダーにアサインしてやると、レゾナンスで決めてやったポイントでフィルターがかけられるわけですよ(もちろん、クロスフェーダーの左右それぞれにね)。これは結構盲点というか、随分前から私も考えてましたけど、こんな感じで装備されちゃいました。効果の方はかなり便利です。最初はジャンルを限定しそうなイメージでしたけど何にかけても効果は抜群。めちゃくちゃ楽しいです、これ。もちろんフィルターのつまみの横にスイッチも付いているのでカットアップもできますし、レゾナンスとフィルターのつまみをいじることで見た目にも音にも同時に効果があるというお手軽で素晴らしいものだと思いますね。


音質や音色は文句なしという感じ。特にイコライザーは大音量で出したときに200〜400Hz付近のもたる感じを削るのに良さそうだし、ハイやローも適度なかかり具合。もうちょっと下品でもいいかな?と思ったのですがそれはレゾナンスでいじってやればいいんですよね。そうそう、レゾナンス目いっぱいにしてフィルターを目いっぱい絞っておくとファットな低音具合になってかなりいけると思いますよ。


ヘッドフォンのジャックが背面と表面にあるのですが表面の方は一番奥にあるのでそれがちょっと煩わしいと感じました。ヘッドフォン・アウトの音量はかなり大きめですね。個人的にはヘッドフォンはあまり大きくして使わないのですが、これだけの音量があればどんなDJにも対応できると思います。ちなみにヘッドフォンのボリュームつまみの下にあるのはミックスの音やAUXのモニターです。感心したのはAUX3-4、5-6がステレオ・フェーダーの方はステレオ送りになっていたのでモニターはどうなるんだろうと思ったところ奇数番だけとか偶数番だけ押すとモノラルなのに、両方押すときちんとステレオになるのです。こんなところも細かい気配りですよね。


クラブでのライブPA
にも対応可能


さてさて、機能やスペックはこれで十分に伝わったと思うので、このミキサーをどういった場所で使用するのが望ましいのか?を考えてみましょう。これだけの大きさでこのインプット数ですから、DJをすることをメインに考えていてなおかつ音作りをしたいという人にはかなり重宝しそうですね。ただしお値段が34万円近くするので個人レベルで購入する気になるのかは少々難しいかもしれません。やはりこのミキサーの本領を発揮できるのはクラブでしょうね。それも小さい箱から大箱まで、バンドが入らず、ベーシック・トラックとボーカル&ギター(ベース)という規模のライブをこなしながら、メインはDJプレイという、最近のクラブでよく遭遇する状況にこそこのミキサーは威力を発揮するでしょう。


バンドが入ってライブをする場合には当然のことながらインプットは足りませんが、このミキサーはそういうものに対してはキチンと線をひいて"俺はクラブ・レベルでコンパクトだけど最高のクオリティで音を出すことができるぜ!"と言ってるようです。バンドが入るのであればそれは別にPAを組み上げろというのが潔い考えだと私も思います。AUXが6系統もあるのもモニター(ステージ上の)の送りのことも考えてのことだと分かりますね。そう考えるとこの大きさも気にならなくなってくるし、よくこれだけきちんとしたものを考えるなぁと感心してしまいますね。さすがはイギリスのミキシング・コンソール・メーカーです。クラブやモバイルDJが文化として根づいている国は違います。


多機能よりも
絞り込まれた機能性


結局のところこのインプレッションを読んで一番気になるところは"買いなのか?そうでないのか?"ということになるのですが、はっきり言って個人が自宅で楽しむためには必要ないと思います。それはなぜかというと、もっと安価で同じようなことをする方法があると思うからです。しかし、それがクラブで使うということで購入を考えるならどうでしょう? 私の考えでは十分に買うに値するものだと考えています。業務レベルで使える商品だということです。昨今のクラブでは2台以上のターンテーブルと2台のCDプレーヤーがセッティングされているのは珍しくなくなりました。その他にもDATやMD等々ミキサーに入れるモノはどんどん多くなります。もちろん、それをインプット切り替えで補うのも1つの手ですが、やはりそれは何気ないようでも結構ストレスを感じるものなんですよね。


その点このミキサーはステレオ・インプットが同時に6系統も使えますからねー。いろいろなタイプのDJが入れ代わり立ち代わり来ても対応できる優れものだと思うのです。おまけに最近クラブなどでよくあるカラオケ(もしくはターンテーブル)に乗せて歌ったりするパフォーマンスのときにも、このミキサーは非常に重宝すると思います。マイクや楽器用にきちんとしたミキシングができますからねー。


よくそういうライブもあるクラブでは大がかりなミキサーが1台あって、そこにDJミキサーが入力されるというセッティングなのですが、これからはそれも必要なくなるかもしれません。大がかりなシステムが必要なときだけそれを組めばいいのです。このミキサーをクラブ・ユースとして考えると、とてもコンパクトに機能が凝縮されているように感じてくるでしょう。


とにかく第一印象が"デカイ!"という感じなので一瞬ひるんだのですが、使うにつれその操作性のラクチンさとフィルターの面白さにかなり虜になってしまいそうでした。やはりクラブというかダンス・ミュージックというものがしっかりと生活や文化の中に根づいているお国柄で作られたミキサーですよね。よく現場の意見を取り入れてあります。このミキサーは見てくれはDJ向けということでかなりナンパなデザイン(そこがいいんですけどね)になっているのですが、中身は質実剛健。ごちゃごちゃし過ぎず、かといって華がないわけではなく最近クラブで一番重宝しそうなものを一点だけ盛り込む。こういう考え方ってすごくいいと思います。往々にして日本のメーカーはあれもできる、これもできるという商品を作ってしまうのですが、本来一番追求すべきは、操作性のしやすさや音質や音色の良さだと思うのです。新しい世紀に入ってもまだUREI 1620がクラブで使われているのを見るにつけ"多機能よりも大事なこと"を考えさせられます。


このXOne:464は、そういった観点からもいかにコンパクトなミキサーでDJがメインの現場で新たな機材を入れずにライブ・パフォーマンスを問題なくこなすことができるか?という1点にのみ的を絞った製品だと言うことができると思います。これからクラブをオープンさせようとか、新しくミキサーを入れ替えようと考えてる人たちにまた1つ新たな選択肢が増えたということは非常に喜ばしいことだと思います。



▲リア・パネルの充実したインプット



ALLEN&HEATH
XOne:464
398,000円

SPECIFICATIONS

■ヘッドルーム/21dBチャンネル、+23dB(MIX→OUT)
■最大出力/(負荷2kΩ以下)+26dBu(XLR3相当)+21dBu(TRS)(負荷10kΩ以下)+15dBu(RCAピン)
■メーター/ピーク・タイプ MIX1モニター(12LED)
■ピークLED/クリップ手前9dBで点灯
■周波数特性/20Hz〜40kHz(+0,-1dB)
■全高調波歪率(+14 dBu,1kHz)/0.006%
■クロストーク/−90dB以下(フェーダー・オフ)
■電源/100〜240VAC 50/60Hz
■最大消費電力30W
■ヒューズ/T500mA 20mm
■外形寸法483(W)×192(H)×530(D)mm
■重量/10Kg