自宅からPA現場まで幅広く対応する20chアナログ・ミキサー

YAMAHAMX20/6

発売以来、好評を得てきたYAMAHAのアナログ・ミキサーMX12/4が、久しぶりにアップグレードされ、MX20/6、MX12/6という2機種となって新たに登場した。基本性能重視のアナログ・ミキサーということで期待が高まるところだ。早速、上位機種であるMX20/6をチェックしてみたのでその使用レポートをお届けしていこう。

コンパクトかつ高音質を実現する
基本性能重視の設計思想


MX20/6は、1997年に発売され好評を得たMX12/4の後継モデルとしてデザインを一新し、さらに機能が強化されたアナログ・ミキサー。MX20/6は20インプット/6バス仕様だが、12インプット仕様のMX12/6も同時発売されている。今回はMX20/6についてレポートしていくが、MX12/6もインプット数以外は基本的に同じ構成なので参考になるはずだ。本機の設計コンセプトは"コンパクトかつハイクオリティなサウンド"ということで、YAMAHAがこれまでに手掛けてきたミキサー、特にSRの第一線で使用されているミキシング・コンソールPMシリーズで得られたノウハウも投入されている。さらにアース周りの再検討など徹底したノイズ対策と、単に性能だけでなく試聴結果を反映させたというパーツ厳選の結果、高い信頼性と高音質が実現しているわけだ。デザイン的には、シックな濃いグレーが基調となった飽きのこないものだ。電源は本体に内蔵されているので重量は比較的ある方だが、セットアップするときに電源を置く場所に頭を悩ませることはない。また、基本的に使用頻度の高い入出力に関してはパネルのフロント面に取り付けられているため、リア部にそれほどスペースをとらずにセットすることができ、自宅録音での使用にもマッチする。また、低消費電力化や低公害の梱包材の利用など環境に配慮している点は、音響機器としては珍しいコンセプトと言えるだろう。

豊富なマイク/ラインの入出力と
シンプルで自由度の高い6バス構成


マイク入力には1から16チャンネルまでが対応しており、もちろんXLR端子を使ったバランス方式でのインプットが可能だ。パッドは装備していないものの、ゲイン・トリムによって広範囲な入力に対応している。XLR端子はパネル・トップに取り付けられているので、マイク回線の変更や配線替えなども簡単に行える。また、ファンタム電源も装備されていて、ハイクオリティなコンデンサー・マイクも手軽に使用することが可能だ。ファンタム電源は一括のオン/オフではなく、1〜8、9〜16チャンネルの2ブロックに分けてオン/オフを設定でき、例えば1〜8チャンネルはコンデンサー・マイクを使用するパート、9〜16チャンネルはダイナミック・マイクやライン入力というように分けて運用すれば、不用意にマイクに電気的なショックを与えずに済む。ファンタム電源の供給状況もLEDではっきりと確認できるように設計されている。ライン入力は20チャンネルすべてで可能になっている。1〜16チャンネルはパッドをかませた後にマイク・アンプに入力する仕様で、バランス入力にも対応したTRSフォーン方式だ。また、17/18および19/20チャンネルは2組のライン専用のステレオ入力となっている。こちらのチャンネルはRCAピンの入力端子なので、オーディオ機器やDTM用の音源を接続するときなどに便利だろう。これ以外にも入力としてはテープ・インがあり、サウンド・チェック時にリファレンス音源を流したい場合に有利となる。各チャンネルにはそれぞれLEDによるピーク・インジケーターが付いているので、広範囲な設定が可能なゲイン・トリムと合わせて、最適なレベルでヘッド・アンプを調整できる。また、特定のチャンネルで歪みが発生したときのトラブル・シュートにも役立つだろう。リア・パネルには1〜8チャンネル用にインサートI/O端子が用意されており、コンプ/リミッターやEQといった外部エフェクターをチェンネル別にライン・レベルで接続することができる。ただし、ここは標準ステレオ・フォーン端子が採用されているため別売のY字ケーブルを使用する必要がある。一方で、通常のフォーン・プラグ/ケーブルを使えばMTRなどへの各チャンネルのダイレクト・アウトとしても活用できそうだ。AUXは3本。通常使用するのはAUX1/2で、このうちAUX1がプリフェーダー、AUX2はプリ/ポストフェーダーの切り替えが可能になっている。もう1つのAUXであるEFFECTは、そのネーミングが示す通り内蔵エフェクトへアサインされている。しかし、EFFECTにも外部へのセンドが付いているので、ポストフェーダーの第3のAUXとしても使用可能。リターンはL/Rの1系統だがステレオ・バスはもちろん、AUX1/2に返すこともでき、これはモニター用にもリバーブを乗せられるということを意味している。各チャンネルに用意されたEQは、ハイとローがシェルビング、ミッドが周波数固定のピーキングと、ごく標準的な3バンド構成だ。実際にいじってみると非常に滑らかなかかり具合で、特にミッド・ブースト時の乗りが素晴らしいように感じられた。全体的にEQはナチュラルな印象で、周波数ポイントの設定などの面でも扱いやすさを感じる。センター・クリックに持ってきたときにも変にイコライジングが残らず、聴感上きちんとフラットに聴こえる設定になっている。MX20/6のバスは6バスで、内訳はグループ4本に、ステレオ・バス1組という構成。各チャンネルのこれらのバスへのアサインはプッシュ・スイッチで選ぶことができ、出力先は完全に自由が保証されている。また、グループ・アウトはステレオ出力にミックスすることができるので、PAなどのフレキシブルさが求められる現場での使用時に幾つかのチャンネルをグルーピングしてオペレートすることも簡単だ。出力はステレオ・アウトがXLR端子で、バランス出力が可能だ。また、モノラルにまとめたものもXLR端子でのアウトプットが行えるようになっており、これも何かと便利に使えそうだ。グループ・アウトとAUXセンドは標準フォーン端子でインピーダンス型バランスと呼ばれる方式を採用。これは送り先がバランス方式ならバランス伝送と同じ効果が得られるというものだ。

手軽に使える内蔵デジタル・エフェクトと
7バンド・グラフィックEQ


本機にはデジタル・エフェクトが内蔵されている。既に説明したように内蔵エフェクト用のバスが用意されているので、特別な結線は必要なくエフェクト・スイッチをオンにするだけで手軽にデジタル・エフェクトを使用することができる。操作は至って簡単で、16種類用意されたエフェクト(表①)を選択するロータリー・スイッチと、例えばそこでリバーブを選んだらリバーブ・タイムといったようにそのエフェクトの代表的なパラメーター1つがロータリー・ポットで調節できるだけのシンプルなものだ。細かなエディットはできないが、その辺の潔さがかえって使いやすさにつながっていると言えるだろう。▼表① 内蔵デジタル・エフェクトの種類 このデジタル・エフェクトはボーカル用リバーブ、ボーカル用エコー、プレートなど空間系が中心で、それぞれで幾つかのバリエーションが用意されているので、細かくパラメーターをいじるよりもこれらの切り替えによってマッチするエフェクトを見つけるという感じが現実的だろう。音質を聴いてみても、おまけ的なエフェクターにありがちな安っぽいものでは決してなく、例えばリバーブだったら緻密で広がりのある非常にクオリティの高いものが装備されている。さらに本機には7バンドのグラフィックEQが用意されているので、使用するさまざまな場所での音響特性の簡単な補正が可能だ。バイパス・スイッチが搭載されていないのがやや残念なポイントだが、全バンドをセンター・クリックにすれば手早くフラットな状態にすることができる。それぞれ±12dBと十分な調整範囲、適切な周波数ポイントの設定、Qの取り方など、総合的に見れば非常に使いやすいEQだ。サウンド的にはチャンネル用のパラメトリックEQと同様ナチュラルなもので、かなり思い切ったイコライジングをしてもサウンドに破綻を来すことがない。

余裕を持たせたパネル・レイアウトで
操作性を大幅に向上


次に操作性をチェックしてみよう。MX20/6はコンパクトとはいいながら、かなりパネル面積に余裕を持って作られている。そのため、パネル上のポット類の取り付けピッチもゆったりとしていて操作がしやすい。特にチャンネル間のスペースに余裕が感じられるのがうれしい。また、チャンネル・フェーダーは60mmストローク・タイプだが、ステレオのマスター・フェーダーには大型コンソールと同じ100mmストロークのものが採用されており、フェード・イン/アウトなどの細かいオペレーションも自在にこなすことができる。全体的な信号の流れがシンプルで理解しやすいのも優れたポイントだろう。プッシュ・スイッチ類は上部はグレー、下部はホワイトというように色を変えているので、状態が視認しやすい。ちょっとした工夫だがPA現場などで確実なオペレーションを行わなければならない場面では大変ありがたいものだ。さらに、パネル上にBNCのランプ用コネクターが用意されており、ここにリトライトなどを取り付けることができることからも、本機がホーム・レコーディングのみならずライブ現場での使用も十分に視野に入れられていることが分かるだろう。音質的な面でもかなりこだわりをもって設計されているようだ。例えば、使用するオペアンプに関しては回路ごとに他のパーツとのマッチングなどを考慮しつつ、実際に試聴して決定されているという。もちろん、個々のパーツそのものも厳選した素材を使用し、電源にも余裕を持たせ、かつクオリティを重視したタイプを使用するなど、かなり手の込んだ設計だ。アナログ回路では個々のパーツがサウンドに直接影響を与えるため、このようなアプローチは設計の上で何よりも重要になってくる。実際に使用してみると、これらの宣伝文句は誇張でなく、マイク/ラインともに非常にナチュラルで安定したサウンドを出しているように感じられた。また海外製品によく見られるようなカラーレーションも全く感じられず、良い意味で日本製らしい特徴を持っているという印象を受けた。価格に関しては安価な海外製品が氾濫している現在、決して安い部類に入るものではない。しかし、そのしっかりとした設計思想や音質面を考慮すると非常にリーズナブルな製品である。フレキシブルに使用できる6つのバスと3つのAUXを活用すればパーソナル・レコーディングはもちろん小規模なPA、イベントなどに実力を発揮してくれるはずだ。また、シンプルな内蔵エフェクターやグラフィックEQの搭載、XLR端子を多用した入出力系などから、レンタル・スタジオの常設用としても最適かもしれない。

▲MX20/6のリア・パネル。左より電源スイッチ、RECアウト(RCAピン)、テープ・イン(RCAピン)、グループ・アウト×4(TRSフォーン)、リターン(L/R、フォーン)、エフェクト・センド×1/AUXセンド×2(TRSフォーン)、インサートI/O×8(TRSフォーン)。上に+48Vファンタム電源スイッチ×2

YAMAHA
MX20/6
99,800円

SPECIFICATIONS

■チャンネル数/20
■入力/マイク×16(XLR)、ライン×16(TRSフォーン)、ステレオ・イン×2(RCAピン)、テープ・イン(L/R、RCAピン)、リターン(L/R、フォーン)
■出力/ステレオ・アウト×1(XLR)、モノ・アウト×1(XLR)、グループ・アウト×4(TRSフォーン)、AUXセンド×2(TRSフォーン)、エフェクト・センド(TRSフォーン)、フォーン×1(TRSフォーン)、RECアウト×1(RCAピン)
■インサート入出力/8(TRSフォーン)
■ランプ・コネクター/BNC(12V、0.5A)
■周波数特性/20Hz〜20kHz
■全高調波歪率/0.1%以下
■内蔵デジタル・エフェクト/16種類
■チャンネルEQ/最大可変幅±15dB(HIGH:10kHzシェルビング、MID:2.5kHzピーキング、LOW:100Hzシェルビング)
■グラフィックEQ/7バンド(125、250、500、1k、2k、4k、8kHz)
■外形寸法/658(W)×85(H)×384(D)mm
■重量/9.5kg