マイク・プリアンプを搭載した音質重視のADコンバーター

APOGEETrak2

最近マイクプリとADコンバーターを組み合わせた製品が数多くリリースされていますが、ADコンバーターのしにせであるAPOGEEからも2chのマイクプリとADコンバーターを組み合わせたTrak2が発売されました。ADコンバーターはもちろんですが、APOGEE初と思われるマイクプリの音質も気になるところです。

Soft LimitとSoft Saturate機能に
最新のUV22HRを搭載


まず本機の主な特徴を見てみましょう。
●24ビット/88.2/96kHz対応
●2chマイクプリ搭載
●Soft Limit、Soft Saturate機能
●UV22の最新版UV22HRの搭載
●オプションで2chまたは8chのDAコンバーターの内蔵が可能
●AMBUSスロットを2基装備


AMBUSスロットは各種のデジタル・フォーマットにダイレクトに対応するスロットで、ADATやTDIF、Pro Toolsなどのボードが用意されています。特にDigi-8+というボードを使えばPro ToolsのI/Oとして認識されるので、この場合はコンバーター以上の機能を持つことになります。その他、サンプリング・レート・コンバーターやビデオ・シンクなどのボードも用意されているので、ボードの組み合わせ次第でさまざまなシステムに対応できるでしょう。


フロント・パネルにはCURSORボタン、LCDパネル、データ・ホイール、ステータスを表示するLED、レベル・メーター、多数あるパラメーターに素早くアクセスするためのショート・カットの登録が可能なQUICK KEYS、XLRとTRSの両入力に対応するNEUTRIK製コンボ・タイプ・コネクターのAUX INPUTが装備されています。


リア・パネルはメインのMIC IN、インサート・モード時に使用するSEND、LINE IN、DAコンバーターのスロット、AMBUSスロット、AES/EBUとS/P DIFの出力を兼ねたXLRのデジタル・アウト、ワード・クロックIN/OUTなどが並んでいます。


メインのMIC INとフロント・パネルの入力はパラメーターによって切り替えることができます。マイクプリ部の機能は、48Vファンタム電源やPAD、PHASE、40Hz/90Hzの選択が可能なローカット・フィルターと標準的なものがそろっています。マイク・ゲインはデータ・ホイールで設定するのですが、その際のゲイン・ステップを0.5〜4dBの間で変更することが可能です。インサート機能もあり、マイクプリとADコンバーターの間にアナログのコンプやEQを接続することができます。このインサート機能を利用して通常のマイクプリ+ADコンバーターとしてだけでなく、両機能を完全に切り離して使用することも可能です。LINE INを利用し、ADコンバーターとして使用しているときでもマイクプリは生きているため、本機のマイクプリとADコンバーターは独立したものと考えられます。


ADコンバーター部の特徴としては、UV22の最新バージョンであるUV22HRの採用が挙げられます。マスタリング・スタジオではもはや定番といった感じのUV22ですが、今回のUV22HRはアルゴリズムを強化し、さらに解像度を高めた仕様になっているようです。設定するパラメーターは特にありませんが、プロセッシングの量をNORMALとLOWの2種類から選択できるようになっています。


もう1つ新しい機能として、Soft Saturateがあります。これは以前同社のAD-500というコンバーターに搭載されていた機能の復刻版で、アナログ・テープ・レコーダーで得られるハーモニック・ディストーションをシミュレートするものです。AD-500では1種類の効果しかありませんでしたが、本機では23タイプの中から選ぶことができるようになっています。


APOGEEらしいキャラクターの
クリアでフラットなマイクプリ部


では音質のチェックをしていきましょう。送られてきたデモ機にはDigi-8+カードと8chのDAコンバーターが装着されていたので、Pro Toolsに直接接続してチェックしました。


まずマイクプリの音ですが、とてもクリアでクセのないフラットな印象です。APOGEEらしいキャラクターがよく表れていると思います。特にアコースティック・ギターやピアノ、ストリングスなどで高域の抜けを重視したい場合や、コーラス・パートの録音などに向いているのではないでしょうか。逆に歪みを利用した音作りには不向きなようですが、Soft LimitやSoft Saturateとの組み合わせでということになるでしょう。


ADコンバーター部の音質はさすがの一言です。ローエンド、ハイエンド共によく伸びていて、中域の張りもしっかりしています。ソースを選ぶこともなく、あらゆるスタイルの録音に対応できる音質だと思います。


そしてAPOGEEのADコンバーターで個人的にも気に入っているSoft Limit機能。これを使うと突然のピークを気にすることなく高いレベルで録音することができるので、私がAPOGEEを使うときは、Soft Limitをほぼ入れっぱなしにしています。Soft SaturateはSoft Limitのように余分なピークを削る効果がありますが、プリセットにはテープというより真空管のシミュレートっぽいものもあるので、積極的な音作りができそうです。


UV22HRの音質は、UV22に比べるとさらにキメが細かくクリアになったようです。NORMALとLOWの2種類の設定ですが、効果が強くなった分、作業の過程で何度かUV22HRを経由する場合はLOWにした方が良いでしょう。


本機はスイッチ類が少ないため、若干操作性が犠牲になっているのが残念ですが、音質に関してはマイクプリ、ADコンバーター共に素晴らしいと思います。とにかく音質重視という方はぜひチェックしてほしい製品です。



APOGEE
Trak2
オープン・プライス(市場価格/550,000円前後)

SPECIFICATIONS

●マイク・プリアンプ部
■ゲイン(可変)/±90dB
■最大入力レベル(マイク入力)/+24dBu
■最大出力レベル(アナログ出力)/+28dBu
■ミニマム・ロード・インピーダンス/150Ω
■Relative THD+N/−109dB(@1kHz)
■ダイナミック・レンジ/118dB
●ADコンバーター部
■サンプリング周波数/44.1-96kHz±10%
■ダイナミック・レンジ(−60dB)/−119dB
■周波数特性/10Hz〜20kHz(Gain±0.025dB/Phase<0.01degree)
■クロック・ジッター/32〜106kHz(≪15pSec)
●DAコンバーター部
■サンプリング周波数/32〜106kHz
■ダイナミック・レンジ(−60dB)/−116dB
■周波数特性/10Hz〜20kHz(Gain±0.15dB/Phase≪1.0degree)
●デジタル・シグナル・プロセッシング
■UV22HR Amplitude/16ビット(−84dB)、20ビット(−108dB)
■外形寸法/483(W)×45(H)×362(D)mm
■重量/5.8kg