操作性抜群のボーカル・ピッチ&フォルマント・プロセッサー

TC・HELICONVoice Prism

T.C.ELECTRONICの新しいブランドTC・HELICONから、VoicePrismというボーカル用プロセッサーが発表された。内容は簡単に言って"ハーモニー・マシン"らしい。マニュアルをざっと見ても製造関係の表示が見当たらなかったんだけれど、筐体の背面を見たら、あった。HELICONの名前と並んで"TC-IVL Ventures INC"のクレジットがある。やっぱりIVL社が絡んでいるんだ。要するに本機は、以前IVLが絡んでDIGITECHから発売されていたStudio Vocalistの最新型と言ってもいいかもしれない。こういう言い方をするとひんしゅくを買ってしまうかもしれないんだけれど、どこのメーカーから出ていても、IVLファンである僕にとっては"IVLの仕業"なので、大いに気になる存在である。Studio Vocalistやその姉妹機はスタジオ・ワークで"ハーモニー・マシン"として大活躍してきた。Voice Prismはそれからどれくらい進化してきたのだろうか? 早速AVACOスタジオのMMルームに持ち込んでテストしてみた。ソースはたまたま手近にあったテープのボーカル・トラックを借用している。

独立4系統のハーモニーを生成し
エフェクトをかけることも可能


まず外見から説明すると、大きさは2Uサイズで、フロント・パネルが傾斜している。どこかの音源モジュールにもこういう形態はあったと思うが、とても使いやすい。フロント・パネルにはマイク・インとヘッドフォン端子、それと操作ボタン類が並んでいる。一方、リア・パネルにはライン・イン、AUXイン、パッド、ステレオ・ライン・アウト、S/P DIFアウト、フット・スイッチ、MIDI系の各端子/スイッチ類が並んでいる。ライン・インはフロントのマイク・インと切り替え式で、マイク・イン・ボタンが点灯しているときはフロントのマイク・インが生きるようになっている。また、このマイク端子にはファンタム電源も用意されている。AUXインは一部の内蔵エフェクト系が使えるインプットだが、そのインプット・レベル調整がこの機械側ではできないので、ちょっと注意が要るかもしれない(パッドは使える)。


どれくらい操作が分かりやすいものなのかをチェックするために、取りあえずマニュアルを見ないでどんどんプリセットを聴いてみたり、エディットしてみたりした。大きなディスプレイの表示は見やすいし、操作面に特に難しいところもなく分かりやすい。"直感的な操作"という意味でとてもよくできている。ただしピッチ・シフトに関しては、画面表示だけでは分かりにくいので、マニュアルをよく読んでおく方がいいだろう。


モードは5種類。ハーモニーをクロマチックのインターバルで考える"SHIFT"、指定したコードで考える"CHORDAL"、指定したスケール内で考える"SCALE"、ボコーダー的な使い方の"NOTES"、それと"NOTES"に似ているが、4つのボイスごとにMIDIチャンネルを指定して個別にコントロールできる"NOTES 4CH"がある。さらに、モードによってハーモニーをピッチ・コレクトするかどうかを選択可能だ。この辺りはすべてStudio Vocalist譲りで、ハーモニーの自然さを増す"SCOOP"などもそのまま踏襲されている。


エフェクト系では新たに加わったものもあって、コーラス、フランジャー、ディレイ6種類、リバーブ5種類を搭載している。いずれも設定しやすく、いわゆるマルチエフェクターに接したことがあれば、何の違和感もなく使えるだろう。各パラメーターへのアクセスも直感的で、10分も触っていればなじんでしまうのではないだろうか。なお、エフェクト回線としてFX1とFX2の2系統があって、FX1の方がエフェクト数が多く、FX2ではソースとしてFX1を選択することが可能。画面をよく見れば、それもすぐに理解できるだろう。


それ以外にEQも2系統あり、アサインを選べるようになっている。この機械の中で個別にEQできるので、ライブなどで使用するのに便利だ。


また、コンプとノイズ・ゲートも内蔵。共に"はっきりした"使い心地で、"正直"な感じを受ける。だからといって設定が難しいわけではなく、あいまいな機種に慣れていると"何て律儀なやつなんだろう"という感慨を持ってしまうだけなんだけれど。このコンプとゲートはセットで使用するようになっていて、リード、ハーモニーのそれぞれか、あるいは両方にかけることができる。


分かりやすいアイコン表示により
使い勝手はとにかく良い


しばらくいじっていても、使い勝手はとにかく良い。エフェクトやコンプやハーモニーなどの接続関係が画面に分かりやすい絵で表示される。ハーモニーの設定も、どのジェンダーで、何声のハーモニーがついているのか、アイコンで表示されるので一目りょう然だ。こういった機材であわただしくエディットしていると設定ミスを犯す場合があるが、この機種ではミスが少ないだろう。


特に便利だと思ったのは、設定されたモードごとにプリセットをグループ化していること。例えば"SHIFT"のブラウズ・ボタンを点灯させておいて、データ・ホイールを回すと、"SHIFT"モードにセットされているプリセットを次々と選んでいける。つまりプリセットを選んで試していく最中に、全く別のモードのプログラムが挟まらないので、ストレスなく作業を進めていけるのだ。このアイデアはとても有用だと思う。


今後の展開として注目したいのは、幾つかのオプション・ボードが予定されていることだ。特にIVLのオプション・ボード(ボーカル・モデリング&リード・ボイス・プロセッシング・ボード)はどんなものになって出てくるのか、興味津々である。大いに期待している。



TC・HELICON
Voice Prism
165,000円

SPECIFICATIONS

■プリセット・プログラム数/128
■周波数特性/20Hz〜20kHz
■ダイナミック・レンジ/95dB
■全高調波歪率/−84dB(0.0065%)
■AD/DA変換/24ビット/44.1kHz
■外形寸法/483(W)×89(H)×208(D)mm
■重量/3.54kg