デジタル・インプットを装備した3ウェイ・パワード・モニター

GENELECS30D

言わずと知れたパワード・モニターの雄、GENELEC製品。ここ数年の間、スタジオでの普及率はめざましいものがある。そのGENELECがデジタル入力を持ったモニターS30Dを作ってくれた。スピーカーの中に、パワー・アンプだけでなく、DAコンバーターまで内蔵してしまったわけだ。ということは、CDやDATなどのデジタル・メディアで受け渡しすれば、このモニターではどこでも全く同じ音が聴ける計算になる。私の作ったミックスをクライアントがどんな再生装置で聴くかという心配をする必要が無くなるとしたら、作業量は半減するくらい安心と言えるのだが......。

プロフェッショナル仕様の
ニアフィールド・モニター


まず外観から見てみよう。ウーファー以外のユニットがネットで保護されている点は、運搬される可能性の高いこの手のモニターにとってはすこぶるありがたい。オプションでフロント・グリルやフライト・ケースも用意されている点などは、さすがにプロフェッショナル仕様だ。アンプ・ユニットは、エンクロージャーに対してゴムで浮かせた固定方法を採っており、振動に対しての影響をできる限り抑えようとしているのがうかがえる。また、アンプ部の重量が低音の音質に一役買っているようでもある。


ニアフィールド・モニターとしては少々大きいS30Dは、業務用の大型コンソールのメーター・ブリッジの上に縦に置いた場合、ツィーターが耳に対して少々高い位置になってしまう点が課題となる。横置きにすれば解決するのだが、この機種にはリボン・ツィーターが採用されているため、水平方向の指向性と垂直方向の指向性に大きな違いがあり、それは好ましくない。が、そこはメーカーも心得ており、横置き用として、S30D Hがリリースされているようなので安心した(残念ながら今回私が試聴したのはS30D Vという縦置き型のモデルだけだった)。大型コンソールのメーター・ブリッジに乗せてニアフィールドで使用するなら、Hが便利だろうし、DAWなどと組み合わせ、床置きまたは低めのスタンドに乗せるならVが良いだろう。


さて、このS30Dだが、デジタル・インプットは16〜24ビット/29〜100kHzに対応している。すなわちレコーディングで使用されるほとんどすべてのフォーマットに対応しているわけだ。DVD-Audioなどの192kHzには非対応ながら、いま最も熱い24ビット/96kHzに対応。実際、周波数特性も36Hz〜48kHzと、96kHzのDVDフォーマットの帯域をほぼカバーしている。さすがにこの大きさでは、ローエンドは若干足りないが......。


デジタル結線では、従来のものに比べて配線が容易な点がうれしい。アナログでの配線の場合、左右のスピーカーに対してのケーブルは、同じ材質、同じ長さの物を用意する必要があった。ケーブルの質によって音質は大きく変化したわけだ。それでもパワード・スピーカーであれば、アンプとモニターの間の配線が無くなる分、ずいぶんと楽になったし、大きな電流が流れるスピーカー・ケーブルが最短になったことで、信号のロスは最小限になったはずであった。しかしデジタル入力への配線の場合、1本のAES/EBUケーブルをL/Rいずれかにコネクトし、そのスルー・アウトから他方に接続するだけで良いのだから、大幅に楽になった。リア・パネルのディップ・スイッチでL/Rの指定ができるので、左右の入れ替えができる点もうれしい。その設定によってはモノ(LRミックス)も選べる。さらに、デジタル領域で10dBステップにて−30dBまでアッテネート可能なので、実使用では非常に助かる。それ以外に、アナログのトリムで12dBの幅で微調整もできる。


また、Treble、Mid、Bassの各ユニットに対するレベルも、1dB単位で−6dBまで調整することが可能になっている。特にBassに対しては、"BASS TILT"と"BASS ROLL-OFF"が用意されており、2dBステップで、−8dBまでコントロールできるため、設置場所による低域補正が可能だ。


コンプレッション感を伴った
エネルギッシュな鳴り


さて、実際の音についてだが、本機はエンクロージャーの横幅の割にウーファーの口径が小さめで、1030〜1038で見慣れた横幅一杯のシングル・ウーファーと共にツィーターの両側にバスレフ・ダクトが配置されたモデルとは、少々異なる。これはリボン・ツィーターの採用や、コンパクトなサイズに3ウェイを納めたことなどが関係しているのだろうが、低音域の鳴りっぷりに大きな影響があるだろう。実際の試聴でも、セッティング位置の工夫と前述の"BASS TILT""BASS ROLL-OFF"の活用で、100〜300Hz辺りをどこにコントロールするかが鍵になった。


リボン・ツィーターは48kHz(±2.5dB)まで伸びており、96kHzレコーディングを意識していることがうかがえる。しかし、従来のメタル・ドーム・ツィーターを採用したGENELECとは、少々異なった印象だ。ただ、ツィーターが異なるとはいえ、音質はやっぱりGENELECといった感じ。音像感や質感よりもアタック感やパワー感を重視したい人などが、DVDのために96kHzレコーディングする場合には最適と言えるだろう。コンプレッション感を伴ったエネルギッシュな鳴りは、われわれエンジニアには、クライアントのOKを取りやすいありがたいモニターではあるが、過信するとマスター・テープには反映されないので注意しよう。


GENELEC
S30D
390,000円(1本)

SPECIFICATIONS

■デジタル入力サンプリング・レート/29〜100kHz
■デジタル入力/AES/EBU、S/P DIF(XLR)
■入力インピーダンス/10kΩ
■最大音圧レベル/連続102dB SPL/1m、ピーク122dB SPL/1m
■ダイナミック・レンジ/120dB
■周波数特性/36Hz〜48kHz(±2.5dB)
■外形寸法/495(H)×320(W)×290(D)mm
■重量/20kg