拡張性に優れた重量級アナログ・シンセサイザー

STUDIO ELECTRONICSOmega 8

う〜ん今年の夏は異常に暑い。マシンの放熱も加わってスタジオはエアコンガンガンでもなかなか冷えない。そんな暑い室内をさらにプラス2度は暑くさせてしまうような重量級アナログ・シンセサイザーがSTUDIO ELECTRONICSから発売された。STUDIO ELECTRONICSと言えば、名機MOOG Minimoogの基板をそっくりラック・マウント化したMIDI-Miniや、さまざまな特性のアナログ・フィルターをカートリッジ化し、本体背面スロットにて取り替え可能という個性派アナログ・モジュールATC-1などが有名である。先日、レコーディングで久々にMIDI-Miniを使用してみたのだが、最近バーチャルものばかりに触れていた私の耳にはやはり新鮮であった。シミュレーションものではなかなか出せない音の太さを感じ、やはりアナログにはかなわない部分があるな、と再認識していたところへ同社の新製品であるOmegaシリーズの原稿依頼を受けたわけだ。参考資料のトップには"not simulation"なる文字が......。では早速チェックしよう。

拡張カードを装着することで
最大8音ポリフォニック・シンセに


青いパネルとたくさんのつまみが目を引く本機は4Uサイズ。ボタンやツマミ、デザインを含めた全体の作りは、最近のコスト削減シンセと違い堂々とした風格があり、良い仕上がりだ。基本的には同社のアナログ・モノフォニック・シンセE-1のパネル・デザインを継承していると思われ、VCO、VCF、VCAといったアナログ音色作りの基本概念を心得ている方なら、説明書無しで即座にエディットが行えると言っていいだろう。背面部にはMIDI IN/OUT/THRU端子とLEFT/MONO/RIGHTのマスター・オーディオ・アウト端子、さらにはパラアウト用のINDIVIDUAL OUTと、外部入力信号を取り込んで本機で加工できるEXTERNAL IN端子が並ぶ。パラアウト端子はTRSフォーン・タイプのステレオ出力となっており、ステレオ・プラグを挿した場合は本機内部でボイスごとに自由に定位を設定できる。


次に上面蓋を開けてみよう。中をのぞくと、基板とボイス拡張スロットがずらりと並んでおり、なかなか圧巻のフォルムだ。ただし本機のデフォルト・ポリ数は1音、つまりボイス・カードが1枚装着された状態だ。このままだと当然ながらモノフォニック・シンセサイザーなわけだが、この拡張スロットにオプションのボイス・カード(68,000円)を装着することによって最大8音ポリフォニック・シンセサイザーにすることができる。


安定したファジー・ピッチを実現する
自動オシレーター・チューニング機能


では実際の出音をチェックしてみたい。なお、私がチェックしたOmega8はボイス・カードが5枚装着されたモデルであることを最初にお断りしておこう。まずは液晶画面下のQツマミを順次回し、計256のプリセット・パッチを聴いていく。アナログ・シンセサイザーらしい揺らぎのあるぶ厚い音が飛び出してくる。このようなアナログ・シンセ特有の太さ、揺らぎを生む要因の1つとして、アナログ・オシレーターの"ピッチの不安定さ"が挙げられるわけだが、これは裏を返せば音痴ということで、特に夏場の暑い室内や、照明効果の激しいライブ・ステージでは音痴も度を超す場合がある。しかし本機にはデジタル制御の自動オシレーター・チューニング機能が搭載されており、各ボイスごとに正確なチューニングを自動的に行いつつ、それでいて揺らす方法をとっている。要するにいい感じに安定したファジー・ピッチを実現してくれるわけだ。


さて、操作方法を交えながら各セクションを見ていこう。オシレーター波形には三角波、ノコギリ波、矩形波が搭載されており、パネルの真ん中にあるオシレーター・セクションの選択ボタンでオシレーター1、2の波形を選択する。このセクションにはオシレーターのフリケンシー、パルス・ワイズ調整ツマミのほか、オシレーター・シンク・ボタン、オシレーター1のハーモニクスを利用するサブオシレーター・ボタンも用意されている。また、セクション下部には各オシレーターとノイズ・レベルの調整ツマミがあり、ミキシングも可能。さらに、パネル上にはEDITボタンが用意されており(各セクションに付いている)、これを押すことによって物理コントローラーに用意されていない細かいパラメーター・エディットが可能だ。例えばこのオシレーター・セクションのEDITボタンを押すと、ファイン・ピッチ、エンベロープ1によるオシレーター2のモジュレーション・アマウント幅などをLCD上で指定できる。


次にフィルター部。本機に用意されたフィルターは、OBERHEIMタイプのLPF/BPF/HPF/BPF/NOTCH(各ー24、ー12db)とMOOG MinimoogタイプのLPF(ー24db)でかなり多彩。さらにはオプションでROLAND TB-303、ARP 2600タイプのフィルターも組み込むことが可能で、この部分も本機の売りの1つと言える。


最後にパネル右側の3系統のエンベロープ・セクションを見ていこう。こちらも物理コントロール部はADSRの一般的なものであるが、EDITモードに入ればディケイ2やエンベロープのディレイ、ベロシティ・センスなどの細かい指定を行うことができる。そのほかMIDIシンク可能なアルペジエーターも搭載され、オクターブ・レンジや符割りの指定まで行うことができる。


さて駆け足での紹介だが、一言で本機の魅力を述べると、シンプルな操作で複雑な音色作りにも対応でき、かつ安定度の高いアナログ・サウンドが得られるということになる。さらに本機の充実した機能を最大限に引き出すのならば、やはりボイス・カードを増設したいところである。しかし安いバーチャル・アナログならばこのボイス・カード1枚分の値段で買えてしまうのだから、これは悩みどころかもしれない。確かに最近のバーチャルものは、音作りの自由度が高く、多機能だ。しかし、冒頭でも述べた通り、同社のアナログ・サウンドに対するこだわりは現在までに十分実証されており、拡張性の高さも大きな魅力だ。"本物"のアナログ・サウンドを探している方には自信をもってお薦めできる。



STUDIO ELECTRONICS
Omega 8
288,000円

SPECIFICATIONS

■音源方式/マイクロ・プロセッサー制御完全ディスクリート方式アナログ
■最大同時発音数/1音(Omegaボイス・ボード増設時最大8音)
■マルチティンバー、レイヤー、スプリット/最大4パート(Omegaボイス・ボード増設時)
■アルペジエーター/UP/DOWN/UP&DOWN(MIDIシンク可能)
■グライド/リニア/対数カーブ選択可能
■MIDI/IN/OUT/THRU
■外形寸法/482(W)X385(D)X177(H)mm
■重量/6.9kg