24ビット/192kHzに対応した8trデジタル・マルチトラック・レコーダー

TASCAMDA-98HR

いつしか季節は食欲の秋を迎えているが皆さんは食べてるかな? 腹が減っては戦はできぬというし、あらゆるクリエイティブ・ワークは頭も体も両方使うのでガッチリ食べて良い作品を作ることにしよう!

ということで、弟分のDA-78HRから採用されたDTRS-HRフォーマットがハイスペックにバージョン・アップした、DTRSシリーズ最新作であるDA-98HR。旧モデルから大幅にリファインされたこのマシンがどのように進化したのか、非常に私の好奇心をくすぐるマシンである。はやる気持ちを落ち着かせじっくりとその全貌を見て行くことにしよう。

ハイ・サンプリング対応のほか
AES/EBU I/Oを標準装備


さて、今までのラインナップに新たに追加された本機だが、一体何がどう変わったのか?というところを中心に見ていこう。


●ハイ・サンプリング対応:追加された対応サンプリング周波数は88.2kHz/96kHz/176.4kHz/192kHzの4つである(記録できるトラック数に制限あり)。


●AES/EBU I/Oを標準装備:今までは外部コンバーターでAES/EBUをTDIF-1へ変換をしたが、DA-98HRには標準でAES/EBU I/Oが装備された。これは通常使用以外に192(176.4)kHzのハイ・サンプリング入出力に使用される。


●マルチサンプリング・レート・モード:HRモードで、フォーマット時に異なるサンプリング・レートを混在したトラック構成が可能(ただしトラック混在モード時のプリセットを使用することに限定。また、必ず基本サンプリング周波数とその倍のものしか混在できない。つまり44.1kHzと96kHzの混在フォーマットは不可能)。


●AD/DAコンバーター・オプション:本機は標準でアナログI/Oが装備されていない。別売であるIF-AN98HR(100,000円)を使用することでアナログ入出力が可能になる(使用できるサンプリング周波数は最大96kHzまでに限定)。


●入出力パッチ・ベイ&ミックス・ダウン機能:DA-78HRと同じく入出力のパッチ・ベイ機能と8chの内部ミックスができる簡易デジタル・ミキサーが内蔵されており、本体だけで手軽に回線のルーティング設定およびミックス・ダウンが可能(ただし、すべてのトラックがサンプリング周波数44.1、48kHzで記録されている場合に限る)。


以上、基本的には従来のDA-78HRにハイ・ビット、ハイ・サンプリング機能やI/O周りの変更/追加という考えでよいだろう。当然のことであるがHR機以外のDTRSフォーマット(DA-38、DA-88)もフル・コンパチブルである。ただしHRモードで録音したテープはHRモード搭載の機種でしか再生できないが、通常のDTRSフォーマットで記録したものであれば、どのシステムでも録音/再生が可能だ。


その一方、アナログI/Oがオプションであることに驚かされた。最近ではデジタル・コンソールなどを含めたデジタル・ドメインでシステムを構築することが多くなったきたためだろう。アナログI/Oは現在のところ純正のIF-AN98HRのみのラインナップだが、今後4倍サンプリングのAD/DAやさまざまな入出力ボードが発表されることを期待したい。


プロフェッショナル対応の
充実したI/O群


では外観をチェック。写真を見れば分かるがDA-78HRと同じブラック・フェイスで、サイズも同様の4Uだ。従来の機種との違いはハイ・ビット、ハイ・サンプリング機能を操作するボタンや表示部、またDA-88には無い大型液晶パネルが追加された点だ。


次にリア・パネルをチェックしよう。プロフェッショナルのレコーディングやポストプロダクションをターゲットに作られている本機にふさわしい入出力構成だ。SMPTE IN/OUT、ワード・シンク IN/OUT/THRU、ビデオ IN/THRU、AES/EBU IN/OUT、MIDI IN/OUT/THRU、DTRS用シンク IN/OUTのほか、TDIF-1端子、メーター・ユニット端子、コントロール端子、RS442端子を装備している。それらのI/O群の下にIF-AN98HRなどの増設スロット×2が用意されている。


そのままの状態ではデジタル入出力のみなので、IF-AN98HRをセットアップしてチェックをしてみた。IF-AN98HRはDA-98HRの拡張スロット用ボードで、AD変換用とDA変換用の2枚のボードで構成されている。入力コネクターの形状はDAシリーズではおなじみのD-Sub25ピン・コネクターなので、同社から発売されているCableUpシリーズのケーブル等を使用すればよい。取扱説明書にもアナログおよびAES/EBUのピン・アサインが掲載されているので、ケーブルを自作する場合は必ずチェックしていただきたい。


2枚のボードを本機にセットアップするのは簡単である。本機のバック・パネルのブランク・パネルをドライバーを使って外し、上にADボード、下にDAボードを挿入して再度ドライバーでビスを留めれば完了である。


ABS-13設定などで
優れた同期環境を実現


本機の同期環境は非常に多様なアプリケーションに対応しており、DTRSレコーダーお得意の複数台の同期運転から、SMPTE/EBU、MIDIを使用したMTC、MMCおよびMA等のVIDEO同期環境などを実現する。もちろん音楽録音以外の同期システムでも十分使えるものとなっている。特にオフセットに関してはマスター・スレーブで細かいマシン・オフセットを組むことや、タイム・コード・ベースでオフセットを組むことも可能である。当然、システム・マスターがアナログ・システムでそれに追従するためにロックするタイム・コード精度を変更することもできるわけだ。このようにかなりフレキシブルに対応できるところなど、現場のエンジニアにとってはまさに痒いところに手が届く仕様と言えるだろう。


タイム・コードのモードにも便利なものがある。通常DTRSはフォーマット時にABSを書き込んでいくが、このABSはSMPTE/EBUとは違い独自のタイム・モードである。それをユーザーの必要に応じてSMPTE/EBUに変換できる機能が搭載されているのだ。この機能によりタイム・コード・トラックを再度書き換えることなく、フレーム・レートの違うモードでも即座に変換することができる。それに加えてABS-13、ABS-23設定という便利な機能も用意されている。これは1本の長いテープの上に、タイム・コードを分割して記録したように見せかける機能だ。例えば10分以内の素材を多数収録する場合はABS-13設定を用いることになる。これは、3分のプリロールと10分の録音エリアを考慮したタイム・モードで、毎時57分から始まるように設定されるもの。言い換えれば13分間のタイム・コードを次々と記録したように見せかけるモードなのである。これによりセッションごとの外部同期オフセットが楽に設定できるようになる。一方ABS-23は3分のプリロールと20分間の録音エリアを考慮した設定で、動作的にはABS-13と同様の働きをするものだ。これらのモードを活用することで、毎回ジャストからセッションをスタートすることができる上、曲をまたがるロケートなども素早く行えるようになるわけだ。


スムーズな作業を約束する
フロント・パネル


さて実際に電源を入れてオペレーションしてみよう。まずはテープのフォーマットをしなければならないが、その際大型液晶パネルで設定することによりミス・オペレーションが少なくなるだろう。どのようにフォーマットするかを表示し、各チャンネルの上に点灯するLEDでさらに確認することができるのだ。


また、フォーマットした後実際にオペレーションするための各種設定も非常に楽に行える。必要事項がすべて液晶パネルに表示され、メニュー間の移動はカーソル・キーやジョグ・ダイアルを使用すればよい。それ以外にも設定可能なファンクション・キーが最大10個まで用意されている。なお、ユーザー・セッティングは内蔵メモリーにストアすることが可能だ。また、DA-78HRから採用されたユーザー・セッティングをDTRSテープに記録できるようにもなっているので、複数のオペレーターで本機を共有する場合やプロジェクトごとにセッティングを変更しなければならない場合に有効である。


24ビット/96kHzモードによる
ハイ・クオリティ・サウンド


さて、肝心のサウンドであるが、実際にスタジオへ持ち込んでチェックを行った。その際ハイ・ビット/ハイ・サンプリングに重点を置き、実際にミックス・ダウンを行い、ハーフ・インチ(76㎝/sec)とDA-98HRの24ビット/96kHzモードで落としてみた。ミックス・ダウンの条件はソースのマルチがSONY PCM-3348で、コンソールはSSLのSL4040E-PRを使用。モニターはYAMAHA NS-10M。スタジオ常設のハーフとDA-98HRはコンソールからダイレクトに送るという方法で行い、AB切り替えで試聴した。結果、思わずう〜むと唸ってしまった。非常に良かったのである。具体的には高域の分離が非常に良く、低域も芯のあるしっかりしたサウンドであった。願わくばスーパー・ツィーター付きのモニターで聴きたいところであるが、通常のスタジオ・ワークをする場所でチェックをした方が良いということでNS-10Mの使用となったことを付け加えておく。


何よりも従来機より格段にAD/DA性能が向上しているように感じられた。在来のDTRSフォーマット(16ビット/48kHz)でも試聴してみたが、やはり非常に高いクオリティであった。多少高域の感じや空気感等が変わってしまうが、それでも基本性能の高さをまざまざと見せつけられたという感じである。本機を複数台リンクさせて生楽器などを直接録音してみたくなるような気にさせてくれる。さらに176.4、192kHzのハイ・サンプリングはIF-AN98HRでサポートされていないが、AES/EBU I/Oを通じてサード・パーティ製のAD/DAを使用すれば録音再生が可能となっている。


非常に短期間ではあったが実際に使用してみて改めてこの超弩級DTRS-HRレコーダーDA-98HRのすごさを感じた。デジタル・ドメインとしても、マスター・レコーダーとしても良し!といったところ。上質のアナログ・コンソールと組み合わせて使用したいと思わせるほどのスペック、それにHi-8テープを使った経済性。TASCAMのDTRSシリーズはモデルを重ねるごとにユーザーにとって良い方向で進化しているように感じる。時間や誌面の都合上書き切れないところも多々有るが、ぜひその実力はカタログからではなく直接自分の耳で確認してほしい。(協力:フリーダムスタジオ 目等進)



▲IF-AN98HRのAD変換用拡張ボード



▲同じくDA変換用拡張ボード



▲DA-98HRのリア・パネル。下部のスロット×2にIF-AN98HRを装着するようになっている


TASCAM
DA-98HR
800,000円

SPECIFICATIONS

■記録フォーマット/DTRS
■サンプリング周波数/44.1/48/88.2/96/176.4/192kHz
■使用テープ/Hi-8(8mmビデオ・テープ)*ME/MP、最大120分
■トラック数/8tr(オーディオ)+1tr(サブコード)
■記録時間/108分(120分テープ使用時)
■デジタル入出力/D-Sub25ピン(TDIF-1、AES/EBU)
■録音ビット数/16/24ビット
■ピッチ・コントロール/±6%(0.1%単位)
■外形寸法/482(W)×176(H)×356(D)mm
■重量/11kg
●IF-AN98HR搭載時
■AD/DAコンバーター/24ビット128倍オーバー・サンプリング△Σ方式
■周波数特性/20Hz〜20kHz±0.5dB、20Hz〜40kHz±1.0dB
■ダイナミック・レンジ/110dB以上(1kHz、Fs=48kHz、入力レベルFSー60dB)
■SN比/110dB以上(1kHz、Fs=48kHz、入力レベルFSー60dB)
■全高調波歪率/0.004%以下(1kHz、Fs=48kHz、入力レベルFSー60dB)