デジタル出力も備えたラック版ギター・アンプ・シミュレーター

LINE6Pod Pro

今や、どこへ行ってもLINE6のPodが当たり前に使われている。レコーディングの現場で参加ミュージシャンのほとんどが所有していて、冗談混じりでテーブルの上に数個並べる、なんてこともあるぐらいだ。音の良さはもちろんだが、それ以上にモノとしての魅力にあふれている近年まれに見る傑作なのだ。とあるエフェクター・メーカーの人と話したときに「ねえ、あのダイキャスト見た? すごいよね〜〜できないよ、普通!」と感心するやら、あきれるやら......とにかくハンパじゃない代物なのだ。

そのLINE6から、続々と新製品が発表されてワクワクしてしまう。今までテストした製品はすべて期待を裏切らない最高の出来で、このメーカーの底力を見せつけている。今回のPodのラック版Pod Proも、電源を入れた瞬間"オッ!"と思ってしまう出来の良さだ。

アンプ・モデルは32機種に増加
サウンドは全体的に明るめだ


一般的な傾向として、コンパクト・タイプで成功した製品をラック・マウント・タイプにするのは結構難しいみたいだ。機能面ではより充実できるし良くなりそうなものなのだが、コンパクトゆえの存在価値が失われてしまうこともあり得るからだ。幾つかの製品で、やっぱりコンパクトの方が良かった、と感じるものもある。では、このPod Proではどうだろう。あの魅力的な大きなソラマメ以上の何かが溢れ出てこなければちょっとつまらない。そう思いつつ電源をONにした。最近流行の直線と曲線を組み合わせた立体的なパネル・デザインは良い。フロントのカラーとパイロット・ランプの処理、これはうまい。写真で見るのより実物の方が、電源OFF時よりON時の方が、ずっと良い。これはなかなかできないことだ。どんな音がするのか、期待させるのに十分な出来と言えるだろう。余談になるが、LINE6のデザイン・チームはすごいと思う。最近Podを見ていて気が付いたんだけれども、コンパクト・タイプのダイキャスト・デザインにコード・ホルダーを最初から組み込もうと考えるセンスには、まったく脱帽してしまった(あの裏の溝ってコード・ホルダーなんですよね?)。さて、Pod ProとPodと並べて音を出してみると、同じ名前のプログラムでも感じが変わっている。全体的に明るくなっている印象だ。付属する専用のエディター・ソフトEMAGIC Sound Diverでプログラム・データの数値を見ると、Podとは全く違っているものもあって、新しく設定し直されたようだ。トレブルやプレゼンスのデータはむしろPodより低く設定されているものが多いのだが、音の印象は逆にハイが伸びているように聴こえる。ラックになって高域に余裕がある設計になったようだ。Podでときどき感じていたハイエンドの物足りなさが解消されていて、より艶やかな音作りになっている。試みにPodでのプログラムの数値をPod Proに入れてみて比較してみたが、全く違う音だ。すべて新しくなっているらしい。勝手な推測だが、PodとPod Proは別物なのだと思う。なお、搭載アンプ・モデルは32機種に増えていて(表①/Podは28機種)、キャビネット・タイプは16種類から選択可能だ(表②)。▲表① 32機種用意されたアンプ・モデル▲表② キャビネット・タイプは16種ある 

ほとんどのパラメーターに
本体だけでアクセス可能に


Podで面白かったのは、コンピューターからしかアクセスできないパラメーターがあったことだ。僕は、一見不便に見えるこのことが、実はPodの魅力を増大させていたのは間違いない事実だ、と思っている。つまり、ユーザーに謎解きの楽しみを与え、それを解いたものだけが到達できる"カーティス・クリーク"の優越を作り出すことに成功していたのだ。ところがPod Proでは、ほとんどのパラメーターに本体だけでアクセスできる。"もうばらしてしまうの?"という感じも無いことは無いが、Podがこれだけ普及したのだから"役割は終わった"のかもしれない。しかし、"ほとんど"であってすべてではないところがまた面白い。とにかく、操作性は大幅に向上している。32機種のアンプ・タイプが選べることや、16種類のキャビネット・タイプに容易にアクセスできるのは、サウンド・メイクの幅を広げるのに大いに貢献するだろう。特にコンピューターからのアクセスを経験していなかったユーザーにとっては、キャビネット・タイプの選択は目からうろこが落ちる思いがすることであろう。ただ、17番以降のアンプ・モデルの表示がパネル上に無いのはちょっと残念だ。マニュアルをよく読めば分からなくはないのだが、できれば"CAB SELECT"と同様にパネル上に表示してほしかった。

"Unprocessed Out"など
豊富なIN/OUTも魅力


さて、ラックならではの利点の1つに背面パネルの広さがある。これにより、考え得るIN/OUTを余裕を持って装備できるからだ。今回ステレオのセンド/リターンが装備されたのはまあ普通だが、"Unprocessed Out"が付いたのは何かと使い道があって便利だと思う。ライン入力が付いたのも、インピーダンスやレベル・マッチに頭を使わなくてもよくなったのでうれしい。これで"ReAmp"がとてもやりやすくなった。"純粋ギタリスト"には関係ないかもしれないが、われわれのような立場の人間にとっては、使い勝手が大幅に向上して作業が円滑になる。なお、ライン/ギターの入力切り替えスイッチはフロント・パネルにある。この辺の事情については、取り扱い説明書でAmp Farmとからめて説明してある。録音方法の変化に伴って、こういうエフェクターの使い方も変わってきた、ということだと思う。デジタルのアウトは、AES/EBUとS/P DIFが装備されている。これも一部の人たちにとっては有意義なものだろう。また、外部クロックの入力端子も用意されている。44.1kHz/48kHz/外部クロックの切り替えは、フロント・パネルのスイッチで設定できる。取りあえずS/P DIFのアウトをチェックしてみたが、何の問題も無く使用できた。デジタル・アウトのレベルが容易に設定できるのはとても便利だ。それ以上のチェックはこの試用期間ではできなかったので言及できないが、またチェックし次第報告したいと思っている。なお、取扱説明書(この時点では英文)には、外部クロックの簡単な解説が載っていて分かりやすかった。

Webサイトには
宝がいっぱい


LINE6のWebサイトには、Podのさまざまなサウンド・データがあると聞いてアクセスしてみた(www.line6.com)。あるある。あり過ぎて、どれをダウンロードするか迷ってしまう。もう1,000種類以上もアップされているようだ。どんな音がするか全く分からないので、行き当たりばったりで自分のPod用にダウンロードしてみた。頼りはネーミングだけだから、良い音にぶつかればもうけものという感じだ。曲名が付いたデータもあるので、有名曲のギター・サウンドに似せたデータなのかもしれない。うまく良い音にぶつかれば便利なことこの上無いが、そんなにうまくいくのかなあ、とにかく多過ぎて......。数多くダウンロードして整理してストックしておけば使いやすいかもしれない。この辺がデジタルならではの面白さなのかも。データのアップロードは簡単にできるみたいだから、自分で作ったデータをアップロードして、世界中の人に使ってもらうこともできそうだ。ところでPodの場合でも、今回のPod Proでも、ペダル・ボードについての報告ができていない。これは、試用させてもらうのが本体のみであるからで、ちょっと残念だ。説明書によれば、ペダル・ボードはとっても便利なものらしい。そして、このペダルが無くて一番残念なのは、ワウワウを試せないことだ。ほかの機能は本体だけで試せるが、こればかりは如何ともしがたい。噂によれば1960年代のVOXがかなりの程度に再現されているらしい。......らしいとしか言えないのが残念だが、もし店頭などでペダルが用意してあれば、ぜひとも試してほしい。

Podユーザーでも
Pod Proは買いなのか?


Pod Proが結構良いのは分かった。それでは、今までPodを使っていた人はどうすればよいのか? これは難しい問題だ。この2機種を比較してみると、異なったアンプであるという気がしてしまうからだ。機能面での豊富さに着目すれば当然買い替えだろう。しかし、サウンドのバリエーションと考えると、そう簡単には言えなくなってしまう。Pod Proが発表されてもなおPodは十分に魅力的であるし、手放すには惜しいものがある。でき得るなら2機種とも所有して......このぜいたくものめ! ありふれた結論だが、自分の使い方をよ〜く考えて選択してもらうしかない。LINE6のアナウンスによれば、こちらの財布はどんどん軽くなりそうな気配だ。まずはこのPod Proに続いて、Pod2というのが登場するそうだ。これは、Pod Proで採用された操作性に関する機能がPodにも搭載されたモノであるらしい。価格も59,800円と手頃だ。どんな音になって出てくるか興味津々で、これもまた定番になってしまうかもしれない。さらに、PodからPod2へのアップグレード・パスも用意されて、ROMを交換するだけでPod2になるとのことだ(詳しくはコルグのWebサイトhttp://www.korg.co.jp/の中のKIDセクションを見てほしい)。ROMの交換費用も5,000円という極めてリーズナブルなものになっている。親切過ぎるかもしれないが、ユーザーにとっては、とてもうれしいことだ。それから、今スタジオで一番の話題になっているのはPod Bassだ。銘機と言われるベース・アンプがどれぐらい再現されているのか......予約注文が殺到しているらしいのでいつ手に入れられるかは不明だが、できるだけ早く実戦で使いたいと思っている。また、エフェクターのモデリングものではディレイに続いてモジュレーションが出たし、秋には待望のディストーションのモデラーが出る予定だ。僕の周りはLINE6製品ばかりになりそうな気がしている。

▲リア部。左からLine Level Input端子(フォーン)、Unprocessed Guitar Out端子(フォーン)、Send/Return端子(TRSフォーン)、LIVE/STUDIOモード切り替えスイッチ、Unbalanced Analog Outs端子(ステレオ/フォーン)、Balanced Analog Outs端子(ステレオ/XLR)、LIFT/GROUND切り替えスイッチ、AES/EBU Out端子(コアキシャル)、AES/EBUとS/P DIFの切り替えスイッチ、S/P DIF Out端子(コアキシャル)、External Digital Clock In端子、MIDI In/Out端子、PEDAL端子

LINE6
Pod Pro
99,800円

SPECIFICATIONS

■アンプ・モデル/32
■キャビネット・モデル/16
■デジタル・エフェクト/16
■プログラム/36
■最大出力レベル/+4dB
■アナログ入出力/ライン入力(フォーン)、ギター入力(フォーン)、ステレオ出力(フォーン/アンバランス)、ステレオ出力(XLR/バランス)、センド/リターン(フォーン)、ヘッドフォン(フォーン)
■デジタル出力/AES/EBU(コアキシャル)、S/P DIF(コアキシャル)
■AD変換/24ビット
■サンプリング周波数/44.1/48kHz
■付属品/ACコード、CD-ROM(EMAGIC Sound Diver収録)
■外形寸法/482.6(W)×88.9(H)×177.8(D)mm
■重量/4.54kg