インライン入力チャンネルを1Uに凝縮した高品位アウトボード

AMEKChannel In A Box

このほどAMEK社よりChannel In A Boxが発売されました。デザインはあのルパート・ニーブ氏。同社では今までにもマイク・プリアンプ、イコライザー、コンプレッサー、はたまた大型コンソールまでデザインして製品化していますが、どれも確実な製品にもかかわらず、コスト・パフォーマンスに優れ大変評判が良いものばかりです。近年、他社からもオールインワン的なアウトボードがいろいろ発売されていますが、ニーブ氏はどのような製品をデザインしたのでしょうか。早速チェックしてみましょう。

1Uに凝縮された
インライン入力チャンネル


Channel In A Boxはマイク・プリアンプ、ライン・プリアンプ、フィルター、イコライザー、コンプレッサー、アウトプット・フェーダーを納めた(本体はツマミのみ)、アナログ回路、モノラル仕様のアウトボードです。しかし、モノラル仕様と言っても最近流行の"これ1台あれば何でも録れる"というオールインワン的な機材とは設計コンセプトが違い、マイク・インとライン・インの両方を同時に受けることができるという、まさにインライン・ミキシング・コンソールの1モジュールをそっくり抜き出したような設計になっています。


外観ですが、これだけの機能を持ちながらラック・マウントも1Uサイズと小さく、一見使いづらそうに見えますが、フロント・パネルのレイアウトなどが、信号の流れに沿って分かりやすいように左から順番に並んでいます。ボタン類もすべて押すと光るようになっており、押し間違いもありません。またメーターも装備されています。SSLやNEVEなどのコンソールを使用しているエンジニアの方は、全く同じ感触でマニュアル無しでもすぐに使用できるでしょう。


今回は製品チェックということなので、失礼ながら内部を見させていただきました。実際これだけの機能をどうやって1Uサイズに納めているか見るまで不思議でしたが、表面実装型のチップICやチップ抵抗が多く使われており、それらはまるでコンピューターの基板のようにうまく納められています。


その分メインテナンスは大変だと思いますが、何と電源部にはファンも装備されていたりと、ニーブ氏の設計もとうとうここまで来たかと時代の流れを感じました。


4バンド・パラメトリック方式の
イコライザー・セクション


では、初めにリア・パネルにある入出力端子から見ていきましょう。基準レベルは+4dBで2番ホットのXLRバランス仕様のみ。先にも述べましたが、本機はマイク・イン端子に入力された音はマイク・アウト端子に、ライン・イン端子に入力された音はライン・アウト端子に出力される、完全2系統回線になっています。各メイン・アウト端子の横にはフェーダー・アウト端子というものがあり、ここにオプションのフェーダーを接続すると各出力がフェーダーで操作できるので、まさにインライン形式のモジュールと同じ仕様として使うことができます。そのほかコンプレッサーをもう1台のモジュールとステレオ・リンクさせるための、リンク端子もあります。


それでは、実際に操作するフロント・パネルの各セクションの機能を見ていきましょう。パネルに向かって左側からインプット・セクション。マイク・プリアンプのゲイン・ブースト量は+72dBと十分に取ってあり、6dBステップのメイン・ツマミとその間を無段階に調整できるトリム・ツマミの2つで構成されています。ゲインは絞り切ると0dBまで落とせるので、実質+4dBのライン・レベルも受けることができ、大変便利です。


また、もう片方のライン・インにも、−6dB〜+12dBまでの調整ツマミが付いています。本機は両入力同時に受けられるので、フェイズ・ボタンもオーバーロード・インジケーターも2対ずつ装備されています。ただし、ファンタム+48V電源はマイク・イン側のみです。このセクションには−30dB〜+10dBまで表示できる16ポイントのLEDメーターも装備されていて、ボタンでマイク入力音とライン入力音を切り替えて表示することができます。また、後で紹介するアウトプット・セクションのMETER SOURCEボタンを押すことで、メーター表示を出力音に切り替えて表示することもできるようになっています。


次はフィルター・セクション。周波数の設定範囲はハイパス(ローカット)22Hz〜300Hz、ローパス(ハイカット)2.5kHz〜25kHzで、共にカット量は18dB/Octaveです。各セクションの機能をオン/オフするには、そのセクションにあるINボタンを押すと始めにマイク・イン音にかかるようになっています。ライン・イン音にかけたい場合、その横にあるLINEボタンを押すとライン・インに入力された音にかかります。これは、この後のイコライザーやコンプレッサーでもすべて同じ方式です。


続いてイコライザー・セクションを見てみましょう。方式は4バンドのパラメトリックとなっています。ここではLF(低域)&HF(高域)セクションとLMF(中低域)&HMF(中高域)の2つのセクションに分かれています。各バンドのゲイン・ブースト・カット量は±18dBと十分に取ってあります。


まずはLF&HFセクション。周波数の設定範囲はLFが30Hz〜300Hz、HFが2kHz〜20kHzと可変で、ピーキング・ボタンを押すことでシェルビング、ピーキングどちらのカーブにもすることができます。そのほかの機能として、LFにはGLOWボタン、HFにはSHEENボタンがあります。これはAMEK 9098EQにも搭載されていましたが、簡単に言うと、イコライザーのカーブを変えるボタンです。これを押すことで、より広いカーブにすることができます。この効果は、ただカーブが広くなっただけとは思えないほど質感も変わり、より真空管回路のような温かさが加わります。これはシェルビング、ピーキングのどちらでも効き、2つのボタンの組み合わせで計4種類のカーブ設定が選択できるようになっています。


その横のLMF&HMFセクションでは、LMFが20Hz〜200Hzと100Hz〜1kHzを、HMFでは500Hz〜5kHzと2.5kHz〜25kHzを×5ボタンで切り替えて設定することができます。ここではQカーブも0.7〜2まで変えられ、先ほどのHF&LFセクションと合わせてすべての周波数帯をカバーしています。また、イコライザー・セクションの右横には、コンプレッサー・セクションもあります。


マイク&ライン・アウトでは
個別のレベル設定が可能


次に、コンプレッサー部の各ツマミの設定範囲を見てみましょう。スレッショルドの設定範囲は−40dB〜+20dBと広く、どんなレベルにも対応できるようになっています。レシオは1:1〜40:1、アタック・タイムは0.3msec〜300msec、リリース・タイムは0.1sec〜10sec、アウトプット・ゲインは−10dB〜+20dBと、広い設定範囲になっています。そのほかの機能として&MMボタン、KEYボタン、そしてLINKボタンがあります。まずは&MMボタンですが、これは一般的に言うソフト・ニー・カーブへの切り替えボタンです。次のKEYボタン、これは例えば今マイク・イン音にコンプレッサーをかけているとしたら、反対のライン・インに入った音をトリガーとしてコンプレッサーを動作させるという機能です。そしてLINKボタン、これは本機を2台使用して、ステレオ・リンク動作させるためのボタンです。


実は、そのほかにもまだ機能があります。前に紹介したフィルターやイコライザー・セクションにS/Cというボタンがあったのですが、それを押すとそのセクションでかけた音をコンプレッサーのトリガーとして動作させることができます。つまりイコライザーで設定した周波数帯域にのみにコンプレッサーをかけられ、設定次第でいろいろな使い方ができるようになっています。このセクションにはゲイン・リダクション・メーターとオーバーロード・インジケーターも装備されているので、機能的不便は全く感じないでしょう。


最後にアウトプット・フェーダー・セクション。マイク・アウトとライン・アウトにそれぞれツマミがあり個別にレベル設定ができます。範囲は∞(無音)〜+10dBと一般的なフェーダーと同じになっています。本機では実際にはボリュームが付いていますが、本当にフェーダー(オプション)を接続してレベルをコントロールすることも可能です。


中高域が明るく前に出る
真空管的な質感のイコライザー


それでは肝心の音のチェックに入ります。HAL STUDIOのコンソールはNEVEですが、その他AMEK 9098EQや彼が過去に制作したFOCUSRITEや1073もそろえて比較しながら聴いてみました。一見9098EQにコンプレッサーなどが付いたようなものなので、同じような音が出るかと思っていましたが、結構違っていてビックリです。


まずインプット・セクションですが、マイク・プリアンプはオールドNEVE風な少し荒く力強い音。9098EQではダンピングが良くシッカリした音でしたが、本機はダンピングが良いとかソリッドといった印象は全くなく、近年ニーブ氏が作ってきた中で一番ファットな音です。高域で硬く感じるところも全くありません。決してハイファイではありませんが魅力的な音です。ただし1073のように低域の伸び伸びした感じは控えめです。


次にイコライザーですが、なぜか真空管的な質感の音で、なおかつ中高域が明るく前に出ます。9098EQでは低域のダンピングが良く押し出す感じになり、反対に高域は少しソリッドながら素直で繊細な音作りとなっていましたが、本機の低域はファットで甘めに伸び、中高域はザックリ前に出ます。イコライザー・カーブも中域方向に広がる感じの音作りで、とても自然にブーストできます。今までニーブ氏が作るEQはQカーブがシャープで、しかもツマミを少し回してもかかりが意外と薄く、グっと回して初めてシッカリかかるタイプが多く、またカーブも周波数ポイントより低域はより低域寄りに、高域はより高域寄りに広がり、SSLに慣れたエンジニアには少し使いづらい面もありました。しかし本機の場合、質感はNEVEなのにかかり方が今までとは違い、良い意味でハッキリして分かりやすくなっています。誠に勝手ながら私の理想を言うと、低域は9098EQで、中高域が本機という組み合わせが最高でした。


さて最後にコンプレッサー・セクションですが、ここでもかなりファットで厚みのある音が出てきました。どんな設定にしても音が変に激変することもなく、あくまでも音像がボケなくシッカリしています。同社の9098CLは、かかっているときとかかっていないときの音が結構ハッキリ聴き分けられますが、本機は見事なまでに自然にかかります。いろいろいじってみましたが、アタック・タイム12時、リリース・タイム9時の方向でトータル音にかけると、ピーク・レベルは変わらず音が力強く生き生きと前に出て素晴らしい効果を得ることができました。私はこのコンプレッサーをトータル2ミックスで使用するためだけに2台欲しいぐらいです。定価は45万と一般的には高い方なのでしょうが、NEVE、AMEKコンソールの1モジュール分の最高の音をこの価格で手に入れられるのですから、安いものです。


レコーディング・スタジオ、エンジニアさん、ハード・ディスク・レコーディングを中心にしたプロダクションなど、すべてのシチュエーションでベスト・マッチするChannel In A Box。音楽を制作している方にはぜひ1度試していただきたい製品です。



▲図 Channel In A Boxブロック・ダイアグラム



AMEK
Channel In A Box
450,000円

SPECIFICATIONS

●マイク入力
■入力インピーダンス/5kΩ以上
■等価入力ノイズ/-133dBu以下(入力ショート、54dBゲイン)
■高調波歪率/0.0015%以下(ユニティゲイン、+20dBu、1kHz)
■最大入力レベル/+20dBu(ユニティゲイン)
●ライン入力
■入力インピーダンス/10kΩ以上
■ノイズ/-98dBu以下(22Hz〜22kHz)
■高調波歪率/0.002%以下(ユニティゲイン、+20dBu、1kHz)
■最大入力レベル/+22dBu(ユニティゲイン)
■フィルター/ハイパス・フィルター(22Hz〜300Hz、18dB/oct)、ローパス・フィルター(2.5kHz〜25kHz、18dB/oct)
■イコライザー/低域(30Hz〜300Hz、±18dB)、中低域(20Hz〜300Hz、±18dB、Q=0.7〜2)、中高域(500Hz〜25kHz、±18dB、Q=0.7〜2)、高域(2kHz〜20kHz、±18dB)
■コンプレッサー/スレッショルド(−40dBu〜+20dBu)、レシオ(40:1〜1:1)、アタック(0.3msec〜300msec)、リリース(0.1sec〜10sec)
■出力/+22dBu(最大出力レベル)
■外形寸法/483(W)×45(H)×305(D)mm
■重量/4.8kg