充実のI/O群を備えたフル・デジタル16トラックのHDレコーダー

FOSTEXVF-16

先ごろ、FOSTEXはユニークでコスト・パフォーマンスの高い単体のデジタル・ミキサーVM200とデジタル・レコーダーVR800を発表し、初心者ユーザーにもミキサーとレコーダーがセパレート式であることによる機能性やワイアリング自由度の向上、便利さを身近なものにしてくれた。そして今回、その2機種の優れたところとユニークなアイディアを満載したミキサー一体型デジタルMTR、VF-16が発売。ただしVF-16はただのミキサー一体型MTRではない。16トラックの同時録音再生が可能となり従来のデジタルMTRのフィジカルな編集性能はもちろん、ミキサーの自由度を追求した非常に高性能なミキサー一体型HDRだ。

操作性の高いレイアウトと
ADAT端子を含む充実のI/O群


外観はROLANDのVSシリーズよりは少々大きめだが、各ボタンやフェーダーの間隔が狭過ぎず、むしろよく整頓されているという印象だ。デザイン的にユニークなのは、16チャンネル分の各フェーダーが8チャンネルずつ2段に分かれているところ。大抵このサイズで16チャンネル・モデルというと、窮屈に横一列にフェーダーを並べるか、YAMAHA 02RのようにFLIPスイッチを使って9〜16チャンネル分を裏チャンネルにアサインするタイプが多いが、VF-16はそういった妥協のないデザインとなっている。フェーダー・ストロークも60mmあり、使い心地はとてもいい。主に抜き差しの多い入力端子が前面パネルに配置されており、前面パネル右側がレコーダーのセクション、左側がミキサー・セクションと完全に役割が分かれているレイアウトも好印象だ。


いろいろと魅力の機能が搭載されているVF-16だが、第1に豊富な入出力端子の装備が挙げられるだろう。基本的にアナログ入力は8チャンネルで、TRSフォーン/アンバランス型。7〜8チャンネルのみXLRの+4dB入力にも切り替えが可能だ。しかもこのクラスでは珍しく、ファンタム電源(+48V)が供給可能になっており、これによりコンデンサー・マイク等を使ったハイ・クオリティなボーカル録り等も行える。この2つのチャンネルにはインサート端子も装備されているので、録音時に任意のコンプやEQ等のアウトボード・エフェクターを使える。そして恐らくこのクラスのモデルには初めての搭載だろうか!? 何とデジタル入出力にADATオプティカル端子が装備されているのだ。もちろんアナログ入力と併用することもできるので、結果的にアナログ8チャンネル+デジタル8チャンネルの合計16トラックの同時録音が可能になる。さらに、このADAT端子はS/P DIFにも切り替えられるため、ミックス・ダウン時にデジタルでDAT等のマスター・デッキへの録音はもちろん、DATやMDからの音の取り込みも可能で、録音の自由度はかなり向上しそうだ。例えば、同社のADAT/アナログ・コンバーターVC-8(29,800円)を使い16チャンネルすべてをアナログ同時録音したり、完全なADATフォーマットのレコーダーとしての使用、さらにADATテープのバックアップにも使える、といった具合だ。また、ADAT素材をVF-16に取り込んでリミックスを作る際にも威力を発揮する。


ステレオ・アウト端子はRCAピン・タイプでそのままDAT等のマスター・デッキに接続できる。モニター・アウト端子はフォーン型アンバランスで前面パネルにあるモニター・アウトのツマミで聴感レベルを操作可能。ただし2系統の外部AUXの出力端子は少々変わっていて、1つのステレオ・フォーン型端子から2つの出力を出す。どういうことかと言うと、片方がAUX1、もう片方がAUX2と枝分かれしたフォーン型のY字インサート・ケーブルを使用するのだ。細かいことだが、例えばAUX1しか使わないのに不使用のAUX2ケーブルがブラブラするのは、整頓好きの私としては納得し難い。もう1つ出力端子を増やせなかったのだろうか? ただ、そのほかは、さまざまなデータをコンピューターやハード・ディスクにアクセスするためのSCSI端子、MTCでコンピューター等を使ったシステムとシンクロ動作を行うMIDI端子など、必要となる入出力系はほとんど用意されていると言っていいだろう。


非破壊編集やパンニング操作を
グラフィカルに表示


サンプリング・レートは44.1kHzのみの対応だが、音色はこのクラスにありがちな圧縮感やハイ・エンドが絞られたような感じが無く、ダイナミクスも損なわれずとてもハイファイな印象だ。FOSTEXの非圧縮フォーマットFDMSで記録されたサウンドは私も以前から認めるところで、VR800同様に印象はとても良い。記録媒体は3.5インチE-IDEで、推奨オプションのハード・ディスクは20GBのものが用意されている。20GB使用時、モノラル録音で約63時間、16トラックのフル使用で約4時間もの録音/再生が行える。また、録音する99曲分のプログラム(楽曲)に対して自由にソング・タイトルを付けられる。今や当たり前となっているコピー/ムーブ・ペーストやイレース等の非破壊編集は、VF-16ではディスプレイで波形を見ながらの作業が可能なため、今までABSタイムや直感的なタイミングで行っていたものが、より正確な位置で編集できるようになった。またバー・ビート・リゾリューション機能が装備されているので、MTCによる同期や内部メトロノームのリズム・ガイドに従って録音されていればさらに正確な編集ができる。


ミキサー部もかなりの性能だ。定評あるFOSTEXのトリム(ヘッド・アンプ)はライン・レベル−50dBからマイク・レベル+2dBまでの可変で、特にライン楽器、例えばサンプラー等で出したリズムをわざと歪ませたりするときもなかなかいい感じでドライブする。PANツマミは前面パネルには存在せず、パネル上のPANボタンとフェーダーの上にあるチャンネル・セレクト・ボタンを押しながらジョグ・ダイアルで任意の定位に変化させることになり、つまりダブル・アクションになるのだが、全く気にはならない。さらに、このときメイン・パネルに全チャンネルのPANの状態が視覚的に確認できるのも利点の1つだ。


A.S.P.テクノロジーによる
内蔵2系統のマルチエフェクト


全チャンネルに装備されている3バンドのデジタルEQは、LOWがシェルビング、MIDがQ可変のピーキング、HIがQ可変のピーキング/シェルビング/ローパス・フィルターの切り替えという構成で、VM200同様にクオリティの高い効きを実現。また、メイン・ディスプレイでグラフィカルにカーブを視認できるので直感的な音作りが可能だ。VM200ではEQのポイントを変えるとディスプレイの動きと音の動きにタイムラグが生じ操作性に少々ストレスを感じたが、VF-16ではそれが解消されていて使い心地はかなり良くなった。


指定チャンネル(チャンネルGまたはH)限定ではあるが単独で2系統装備されているチャンネル・インサート・コンプもなかなかのもの。効きはとてもファットで、思わずデジタルであることを忘れてしまうほど印象は良い。内容がいいだけに全チャンネルに装備してほしかったところだ。もちろんコンプもメイン・ディスプレイに音のカーブがグラフィック表示される。


内蔵で2系統(EFF1:28種類、EFF2:38種類)用意されたマルチエフェクトの内容も素晴らしい。FOSTEXのA.S.P.テクノロジーによる効き具合は、以前VM200をチェックした際よりもさらに印象が良くなった気がする。個人的にはリバーブの空気感がハイファイでとても気に入っているが、ディレイのプログラムも使い勝手がなかなか良くなった。"BPMディレイ"という、ディレイ・タイムを変えるのではなく、曲のテンポと欲しいディレイの拍数とフィードバック数をインプットするという極めてミュージシャンライクなプログラムも用意されているし、ディレイ+リバーブといった複合プログラムも装備。内蔵エフェクトおよび外部AUXは、それぞれプリ/ポストが切り替え可能になっているところもミソだ。


これらすべてのパラメーターのアサインは1曲につき100個のシーン・メモリーとして保存することができる。さらに目玉となるのは、それらのシーン・メモリーを曲中にマッピングして、コンピューター等のシーケンサーを使わずに自動再生ができるという点。つまり、曲中さまざまなセクションでシーンを個別に作り、それらを任意の位置に自由に呼び出すことが可能なのだ。例えばイントロはキーボードが大きめなシーン、間奏のギター・ソロはもちろんギターを劇的に上げたシーン......といった具合に構成を組み立てていく。フェーダーこそ自動で動かないが、"半オート・ミックス"といった感じがする。


そしてすべての過程を終えてミックスした音にどうもローが足りない、もっとミッチリした感じにしたい、といったときに便利なトータルEQとトータル・コンプがVF-16には装備されており、マスタリング調整が可能となっている。これにより、ほぼすべてのレコーディング作業が本機1台で完結してしまうのだ。あとはマスター・レコーダーをそろえるだけと言えるだろう。


最近ではこれらミキサー一体型のデジタルMTRが主流ではあるが、一歩進んだところでコンピューター・ベースのレコーディング・システムも存在している。そこではさまざまなオーディオ・ファイルやサンプラー等でも使用可能になっているWAVファイル形式が使われることが多いが、VF-16は標準装備のSCSI端子を介し、トラックごとのWAVファイル形式のオーディオ・インポート(読み込み)/エクスポート(書き出し)が可能なのだ(DOSフォーマット)。しかも指定区間のみ(1フレーズ)の読み込み/書き出しもOKなので、演奏から任意のフレーズを切り出しコンピューターで編集した後でVF-16に戻すこともできる。ここまでの機能があると、もはやオーディオ・インターフェースと言っていい。


VF-16はあまりにも多機能でいろいろな用途があり、操作性も良く、プロからビギナーまで幅広く使える1台だと感じた。特にビギナーならば録音作業ほぼ全般を本機だけで完結でき、しかもこの価格なので特にお薦めできる。16ビット機とは思えないほど音の位相も良いし、豊富なI/Oを持つデジタル・ミキサーとADATフォーマットのデジタルMTRが1台に収まったという印象を持った。



FOSTEX
VF-16
99,800円(ハード・ディスクなし)
オープン・プライス(ハード・ディスク搭載)

SPECIFICATIONS

■トラック数/16リアル・トラック+8アディショナル・トラック
■サンプリング周波数/44.1kHz
■量子化/16ビット・リニア(非圧縮)
■AD変換/20ビット、64倍オーバー・サンプリング、デジタル・シグマ変調方式
■DA変換/24ビット、128倍オーバー・サンプリング、デジタル・シグマ変調方式
■周波数特性/20Hz〜20kHz
■イコライザー/LOW:400Hz(実効周波数100Hz)±18dB(シェルビング)、MID:500Hz〜20kHz±18dB(ピーキング)、HI:500Hz〜20kHz±18dB(ピーキング/シェルビング/ローパス・フィルター切り替え式)
■接続端子/インプットA〜F(フォーン、アンバランス)、インプットG〜H(XLR、バランス、+48Vファンタム付き+フォーン、アンバランス)、AUXセンド1/2(フォーン、アンバランス)、ステレオ・アウトL/R(RCAピン)、モニター・アウトL/R(フォーン、アンバランス)、デジタルIn/Out(ADATオプティカル/S/P DIF切り替え)、MIDI IN/OUT、フォーン、フット・スイッチ、SCSI(バックアップ専用)
■外形寸法/380(W)×98(H)×335(D)mm
■重量/約4kg