WAVES SSL EV2 Channel レビュー:SSL SL4000Eのチャンネル・ストリップを新たに再現したプラグイン

WAVES SSL EV2 Channel レビュー:SSL SL4000Eのチャンネル・ストリップを新たに再現したプラグイン

 SSLコンソールをモデリングしたプラグインは各社から発売されており、おのおの個性があるのでどれを選べばよいか悩む方も多いでしょう。プラグインでは、実機の製品名末尾のアルファベット“E、G、J、K”がEQやダイナミクス・プロセッサーの個性を示している模様。アルファベットの大きい方が新しい世代の機種で、それぞれ音の傾向が異なります。今回は、EシリーズをWAVESが新たにモデリングしたSSL EV2 Channelを見ていきましょう。

SSL卓の再現プラグインでは珍しいブラウンEQ。マイクプリ部ではアナログ的なひずみが得られる

 WAVESはSSL 4000 CollectionやCLA MixHubなど、これまでもSSLコンソールのモデリング・プラグインを発売してきました。今回のSSL EV2 ChannelはSL4000Eのチャンネル・ストリップを新たにモデリングしたもので、従来のSSL系プラグインと同様の操作感です。大きな特徴はマイクプリ部を設けたこと、そしてEQタイプがブラックとブラウンの2種類から選べることでしょう。ブラックはSSLならではのクリーンでパンチのある音を謳ったもので、Eシリーズ系プラグインのEQは一般的にこういった特性です。だからこそ、初期EシリーズのEQを再現したクランチーな音というブラウンを選択できるのは、うれしいところだと思います。

 

 EQタイプは画面上部のEQ TYPEボタンで選択でき、左側がブラウン、右側がブラックで、選んだ方が白く反転します。また同時に、LF(低域)のEQノブの色がブラウン・タイプ=茶色/ブラック・タイプ=黒色というふうに変化。LFのノブしか変色しませんが、全帯域のEQでかかり方が変わります。

 

 マイクプリ部では、コンソールのサチュレーションを再現可能。MICノブを上げると音量が上がり、ひずみや粘り感が増します。ANALOGボタンはMICノブの効果の強弱を切り替えるもので、オフにするとひずみや粘りが弱くなる仕様。そしてMICノブと同様、LINEノブも音量のコントロールです。LINEはSSL EV2 Channelへの入力レベルの調整、MICは色付けという使い分けがよいでしょう。例えば、小音量で録られたトラックはEQやダイナミクスのかかりが悪くなるのでLINEで入力レベルを調整し、MICでは色付けをして、ボリュームが上がった分だけフェーダーを下げるような感じです。

 

 SSL EV2 Channelをステレオ・トラックにインサートする場合は、WIDTHというセクションが使用できます。基本的にはDAWのパンと同じなのですが、EXTRA WIDEボタンを押すと音がスピーカーの外から鳴る感じで広がります。この際に低域まで広がってしまうのですが、FILTERボタンをオンにすることで広がらずに中央定位が維持されます。音が広がると気持ち良いかもしれませんが、一部のテレビやスマートフォンなどモノラル再生時にはその音が小さくなってしまいますので、かけ過ぎにはご注意を。

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ステレオ・モード時に使えるWIDTHセクション。EXTRA WIDEボタンはステレオ幅の拡張、FILTERボタンはEXTRA WIDEが低域にかからないようにするためのもの。左のノブではモノラル化やチャンネル・スワップが行える

明りょうでありつつ粘りのある音のブラックEQ。ブラウンEQはマイルドで音が中域に寄る印象

 SSLと言えば、筆者の場合はドラム類に必ずと言ってよいほど使うので試してみます。まずEQをブラックにすると、SSLへのイメージを裏切ることのないサウンドが得られました。音の傾向は完全にパキッとしているというよりやや粘りのある感じで、少し中域にまとまる気もします。CLA MixHubとSSL 4000 CollectionのSSL E-Channelを立ち上げて同じ設定にしてみると、キャラクター的には前者とよく似ている印象。ですがSSL EV2 Channelの方がちょっとマイルドで、SSL E-Channelよりアナログ感があると思います。

 

 同じ設定のままEQをブラウンにすると音が緩くなって中域に集まり、“あ、懐かしい”という印象。昔、EシリーズのブラウンEQは効きが悪いな〜と感じたのを思い出します。良くも悪くもマイルドにかかってくれるわけですね。ただ、中域を中心とした音作りはブラウンでの方が簡単なので、広いレンジ感を必要としない場合や年代が古い感じの演出には効果的です。

 

 例えば、ドラムをバキッとさせつつディストーション・ギターの中域を立たせたい場合は、ドラムにブラック、ギターにはブラウンなどという使い分けができます。ほかの楽器に対しても同じ印象で、アコギの高域を上げたいけれどジャリジャリはさせたくないときなどは、ブラウンで高域を持ち上げた方が良い感じでした。ダイナミクスのコンプは、深くかけても変にペチペチしたアタックの高域が出にくいので、リズム隊に少しばかりアタックを出したいときなどに有効です。

 

 MICを上げて飽和感を出したときの音が良い感じにアナログ的で、結構使えます。例えばスネアのアタックがたまにレベル・オーバーしてしまう場合など、音質が極端に変わらない範囲でMICを上げるとピークを抑制可能。使っているうちに全トラックでひずまない程度にMICを上げていました。ちなみに、各トラックへ同一のプラグインを挿してミックスすると、一体感が出たりします。その中で音作りの選択肢を得る意味でも、EQの特性が変えられるのはうれしいところですね。

 

 WAVESのSSL系プラグインをご所有の方も、SSL EV2 Channelだったらすみ分けができているので、持っておいてよいと思います。そして、さまざまなプロデューサーやエンジニアによる全600種類のプリセットも魅力。筆者も“なるほどね!”と思うものが数多く収録されています。

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プリセット選択画面の一部。リッチ・コスティやロニ・サイズ、トム・ロード=アルジ、トニー・マセラティなど、著名なプロデューサー/エンジニアが作成したセッティングを堪能できる

 

中村文俊
【Profile】レコーディング/ミックス・エンジニア。スガ シカオ、大黒摩季、空気公団などの作品に携わってきた。ライブDVDのサラウンド・ミックスやゲーム用サウンドのデザインなども行う。

 

WAVES SSL EV2 Channel

36,300円

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REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13.6/10.14.6/10.15.7/11.2.1、INTEL Core I5/I7/I9/Xeon
▪Windows:Windows 10(64ビット版/バージョン2004以上)、INTEL Core I5/I7/I9/XeonもしくはAMDのクアッド・コアCPU
▪共通:8GBのRAM、8GBのディスク空き容量、解像度1,024×768pix以上のディスプレイ(1,280×1,024または1,600×1,024pixを推奨)

製品情報