WARM AUDIO WA-8000 レビュー:1990年代の有名な真空管マイクを元に設計されたコンデンサー・マイク

WARM AUDIO WA-8000 レビュー:1990年代の有名な真空管マイクを元に設計されたコンデンサー・マイク

 初めて楽器を購入するときは、例えばギターならあこがれのMARTINやFENDERは高価で手に入らないので、まずは予算に合うコピー・モデルを選び、練習していくうちにいつかは本物を手に入れたいと思うのではないでしょうか? 同様に、近年はレコーディング機材においてもビンテージ機材を元に作られたモデルが発売されており、手に入りやすい価格の製品が増えています。選択肢も広がり、選ぶ楽しみも増える良い時代になりました。

オリジナルとほぼ同サイズながら軽量。マイク・ケーブルにGOTHAM AUDIOを採用

 このWARM AUDIO WA-8000は、SONYの真空管コンデンサー・マイクC-800Gが元になっていると想像できます。オリジナルのC-800Gは既に製造中止になり、近年再発売されましたが、使用部品が多少異なるようでオリジナルとすべてが同じというものではないようです。

 

 WA-8000のマイク本体はほぼC-800Gと同じ太さと長さに作られていますが、後ろに付いているヒートシンクの形状が短く、扱いやすいデザインです(C-800Gよりも熱を持ちますが、特に問題はありません)。マイク正面には単一指向性と無指向性の切り替えスイッチがあります。重さはC-800Gの約900gに比べて少し軽く、約614gです。電源部の外見は汎用のシャーシを使用しているようで、重さはオリジナルの約5.4kgに対して、約1.78gとかなり軽くなっています。

f:id:rittor_snrec:20211209141036j:plain

電源ボックスのフロントにはマイク・インとアウト(XLR端子)が並ぶ。リア側には電源インレットやオン/オフスイッチが用意されている

 付属のマイク・ケーブルはGOTHAM AUDIOのGAC-7が使われており、音質へのこだわりが感じられます。マイク・サスペンションはC-800Gのものに近い形状になっていますが、WA-8000の方が若干部品が太く、丈夫な感じです。これらに加え、マイクに直接被せるスポンジ製のウィンド・スクリーンと電源ケーブルを含めた一式が一つのプラスチックのアタッシュ・ケースに収納され、分厚いクッション材に包まれており、持ち運びも楽に、安全に行えるようになっているのがうれしいです。

f:id:rittor_snrec:20211209141104j:plain

専用のアタッシュ・ケースが付属。中にはマイク本体以外に電源ボックス、GOTHAM AUDIO製マイク・ケーブル、ショック・マウントが入っている

少し優しくナチュラルなサウンドでオリジナルよりも真空管マイクらしさがある

 床面積が約40㎡、高さが約3mの少しライブな録音ブースにC-800GとWA-8000の2本を立てて、コントロール・ルームのSSL Dualityにつなげて試聴してみます。男性ボーカルで聴いてみたところ、WA-8000がC-800Gの音質によく似ている印象だったので、WA-8000をDualityのEQで補正してさらにC-800Gへと近付ける実験をすることにしました。以下では、単一指向性&オンマイクでのEQセッティングの具体例を紹介します。

  1. 男性ボーカルで80Hzを+1dB、300Hzを+1dB、18kHzを+1dBに設定
  2. アコースティック・ギターで400Hzを+1dB、2kHzを+1dB、10kHzを+1dBに設定
  3. アコースティック・ピアノで60Hzを+1dB、250Hzを+1dB、2kHzを+1dB、12kHzを+1dBに設定

 マイク・ゲインのレベルは2本ともほぼ同じで、同様の音量感が得られました。単一指向性&オンマイクの印象は、低域の伸びと高域の伸びがやや足りないものの、これはマイクによくある音質の個体差の範囲に近く、EQで補正できる範囲。全体としてよくできていると思います。ただ、音の強弱に対しては、C-800Gはレスポンスが良くスピード感があるのに対して、WA-8000は少し優しくナチュラルな感じで真空管マイクらしい特徴が出ているという違いを感じました。

 

 次に無指向性で楽器から2mほど離したオフマイクの具体例を説明します。

  1. ドラムで60Hzを+1dB、2kHzを+1dB、12kHzを+1dBに設定
  2. アコースティック・ピアノで60Hzを+1dB、250Hzを+1dB、2kHzを+1dB、12kHzを+1dBに設定

 マイク・ゲインはWA-8000を+3dBにすることで2本の音量感が同じになりました。無指向性&オフマイクの印象は、部屋の反射音の低域部分と中域部分を収録する精度がC-800Gに比べて低く感じられ、空気の密度感や反射音の繊細な部分の表現には少し物足りなさがありました。

 

 C-800Gは真空管マイクらしい音色を全面的にアピールするマイクではなく、真空管の滑らかな高域の伸びに加えて、コンデンサー・マイクの特徴であるレンジの広さと強弱のレスポンスの良さも併せ持っている、言わばハイブリッドなマイクでした。WA-8000はオンマイクにおいてはC-800Gの特徴を十分に継承していながら、多少真空管マイク寄りの音色であり、それが自宅でのレコーディングでは使いやすいのではないかと感じます。無指向性&オフマイクでは、ライブで残響の良い空間やスタジオでその特徴が発揮されるので、単一指向性&オンマイクでの自宅における使用ではあまり影響が無いでしょう。むしろオンマイク向きにすることでコスト・パフォーマンスを良くした機能的な真空管マイクと言えます。

 

早乙女正雄
【Profile】フリーランスで活躍するエンジニア。大橋トリオ、Fried Pride、RADIQ、D.A.N.など、音にこだわるアーティストの録音/ミックスのほか、映画音楽やライブPAでも手腕を発揮している。

 

WARM AUDIO WA-8000

オープン・プライス

(市場予想価格:128,000円前後)

f:id:rittor_snrec:20211209140014j:plain

SPECIFICATIONS
▪周波数特性:20Hz〜20kHz ▪指向性:単一指向/無指向 ▪セルフ・ノイズ:15dB(単一指向)、17dB(無指向) ▪ダイナミック・レンジ:113dB ▪最大音圧レベル:131dB(単一指向)、134dB(無指向) ▪出力インピーダンス:100Ω ▪SN比:76dB(単一指向)、73dB(無指向) ▪外形寸法:63.5(φ)×190.5(H)mm ▪重量:約610g(マイク本体)