「VIENNA SYMPHONIC LIBRARY Synchron Elite Strings」製品レビュー:チェロ/コントラバスで中低域を強化したチェンバー・ストリングス音源

VIENNA SYMPHONIC LIBRARYから、新たな定番となりそうな魅力的な音源がリリース

 クラシック音楽の聖地ウィーンを拠点とし、高品位なオーケストラ音源で知られるVIENNA SYMPHONIC LIBRARYから、新たな定番となりそうな魅力的な音源がリリースされました。同社のスタジオSynchron Stage Viennaで従来よりも小規模な編成で録られたチェンバー・ストリングス音源Synchron Elite Stringsを紹介します。

小編成でアタックのそろいがよく
ロック/ジャズ/ポップスにフィット

 Synchron Elite Stringsの大きな特徴は、奏者数の設定にあります。ストリングス音源の多くはオーケストラの1~4管編成などに合わせて、パートごとの演奏者数は1stバイオリン、2ndバイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスの順で8、6、4、4、2人や12、10、8、6、4人、もしくは16、14、12、10、8人など。ところがSynchron Elite Stringsは6、5、4、4、3人というちょっと小ぶりな編成です。チェンバー(室内楽)用ストリングスと呼ばれるこの編成は、オーケストラでは小規模に分類されますが、4リズム(ギター、キーボード、ベース、ドラム)などがアンサンブルの中心であるロック/ジャズ/ポップスなどには、とてもフィットするサイズなのです。

 

 人数が少ないのでアタックのそろいが良く、リズムのキメに合わせたフレーズ作り、縦軸がシビアな細かい譜割りが可能になっています。クレッシェンドなどのダイナミクスの変化がタイトでまとまりやすく、ピッチのわずかなズレによるデチューン(揺らぎ)も少ないので、大編成と比較して輪郭の明りょうなサウンドが得られます。

 

 そのような使いやすさからか、ここ数年結構な数のチェンバー・ストリングスの音源が各社からリリースされています。同社からもSynchron-Ized Chamber Stringsや、その前身となるVienna Chamber Strings 1がリリースされており、Synchron Elite Stringsはそれらで培ったノウハウやユーザーからのフィードバックを元に開発されました。Synchron-Ized Chamber Stringsなどが6、6、4、3、2人であるのに対し、チェロ、コントラバスを増やすことで中低域を増強しています。小編成の機動性を保ちつつより迫力が増すように狙った変更で、ロック、ポップスだけでなく映画、ドラマなどの劇伴でも効果があると思います。

別売りのエクステンデッド・ライブラリーを追加で
5.1chサラウンドと9.1ch Auro 3Dに対応

 それでは機能面についてチェックしていきましょう。なんといっても豊富に用意された奏法やアーティキュレーションには圧倒されます。一番バリエーションが豊富な持続音をクロスフェードで切り替えられる“XFsus”というプリセットの場合は“Articulation”という名前のスロットにShortやLong Note、Tremolo、Trillなど12項目が用意されています。例えばLong Noteを選択すると、右横にType、Xfade(クロスフェード)、Relese、Atackなどのスロットが表示。ビブラートはReguler、Molt(より強く)、Senza(ノンビブラート)など6種類、アタックはNormal、Fast、Softなど4種類を鍵盤によるスイッチで自由に組み合わせ可能です。幾つのバリエーションができるのか気になったのでカウントしてみたら、なんと456通りもの組み合わせができました! 

画面上部の左側に表示されるアーティキュレーションを選択して、タイプ、クロスフェード、ビブラート、リリース、アタックなどを設定する

 またCC(コントロール・チェンジ)を使いビブラートを自然にクロスフェードさせたり、トレモロとロング・ノートも切り替えられます。ほかにもアンプ・エンベロープのアタック/リリース/フィルターだけでなく、タイミングやチューニングを故意にずらすHumanize機能などもアサインされるので、バリエーションの幅広さや表現力は驚異的です。

画面下部のPERFORMタブを選択すると、好みの演奏表現にするために複数のパラメーターを調整できる。タイミングやチューニングを故意にずらして、より人間的な演奏にできるHumanize機能のエフェクトも、同タブ内でコントロール可能

 5.1chサラウンドに対応している音源は昨今多数ありますが、画期的なのがさらに高低の定位を加えた最新の立体音響9.1ch Auro 3Dに対応していることです(別売りのエクステンデッド・ライブラリーの追加が必要)。さすが音楽ホールを所有し、マイク・セッティングに関して実験と研究を重ねているだけあり、マルチマイクなのに位相が良く、各楽器の定位感が気持ち良く設定可能。また各パートの主席と次席奏者は単独のマイクでも収録されており、それらのバランスで人数感を微調整したり、フレーズをより明確に聴こえやすくすることが手軽に行えます。位相の心配が少ないのでポジションが違う数種類のマイクをかなり自由にブレンドできる点と、フル・バージョンだけですが、リボン・マイクのサウンドが収録されており、個人的にはそれが温かくてとても気に入りました。

 

 Synchron Elite Stringsを使いこなすには楽器や編曲の知識や、DAWのプログラミングに関してのスキルが要求されるでしょう。その点では手ごわいライブラリーだと思います。しかしより高い次元のサウンド、音楽的表現を望む人には必携のツール。現時点でチェンバー・ストリングスの決定版と言えるほどのポテンシャルを持っているので、作編曲に携わる人はぜひ一度チェックしてみることを強くお勧めします。

 

山中剛
【Profile】山梨県のプライベート・スタジオを拠点に活動するアレンジャー/プログラマー。1980年代より活動し、近年は大手ブランドのCMや映画、TVドラマの劇伴制作にも多数参加している。

 

VIENNA SYMPHONIC LIBRARY Synchron Elite Strings

61,160円

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REQUIREMENTS
▪Mac:OS X 10.10以降、AAX/AU/VST対応のDAW(64ビットのみ動作) ▪Windows:Windows 8以降、AAX/VST対応のDAW(64ビットのみ動作) ▪共通:スタンドアローンでも動作可能、INTEL Core I5/I7/Xeon 以上を推奨、16GB以上のRAM(32GB以上を推奨)、VIENNAキー