TEENAGE ENGINEERING Pocket Operator Modular Series レビュー:スウェーデン製の組み立て式コンパクト・モジュラー・シンセ

左上から時計回りでPOM-170、POM-400、POM-16

左上から時計回りでPOM-170、POM-400、POM-16

 OP-1やPocket Operatorシリーズといったコンパクトな電子楽器で知られるスウェーデンのメーカーTEENAGE ENGINEERINGから、モジュラー・シンセのPocket Operator Modularシリーズが登場。アナログ・モノフォニック・シンセのPOM-170とPOM-400、シーケンサー/キーボードのPOM-16がラインナップされています。いずれもユーザーが自ら組み立てるDIYキットとして提供されますが、今回はセットアップ済みのデモ機を入手できたので、仕様や音の面にフォーカスします。

各音域の音量のバラつきが小さいPOM-170。低音の高次倍音の響きは特筆すべき点

 赤い筐体がまぶしいPOM-170は、矩形波オシレーターやローパス・フィルター、LFO、エンベロープ・ジェネレーター(以下EG)、VCAを1基ずつ搭載するアナログ・モノシンセ。キーボードとステップ・シーケンサーも備えています。オシレーターの音色は低域から高域まで粒ぞろいで、外観のイメージ以上に太い印象。モジュラー・シンセのオシレーターには、音域を変えると音量が大幅に変わるものもあるのですが、本機はその変化がかなり小さいので使いやすいと言えます。エレキギターに合わせてみたところ、1970年代のシンセなどとは違い苦労せずになじませることができました。また他社のモジュールの矩形波よりも倍音が豊かに感じられるので、ノコギリ波的にも使えそう。特に低音の高次倍音の鋭さは素晴らしく、倍音が正確に出ているからかエレガントな響きです。

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POM-170のパネルには角度が付いており、演奏しやすさが考慮されている。“170”の印字の右に見える赤いノブは、背面の音声出力(ステレオ・ミニ)と内蔵スピーカーに作用するボリューム・コントロール。内蔵スピーカーには音声入力L/R(いずれもモノラル・ミニ)も用意されている

 フィルターはMOOGのラダー・フィルターに近い印象で、端正で効きが良く、シャープながら太いサウンド。レゾナンスを上げてエグい音も出せます。カットオフ周波数はノブで滑らかに変更でき、狙った音へ簡単にアプローチ可能。またカットオフにはコントロール入力が2つあり、EGとLFOをパッチングしてアシッド・ベースのような音も作れます。

 

 LFOは矩形波と三角波から選べます。CVによる基本的なモジュレーションはもちろん、レイトのノブを上げていくと可聴域に達するので、うまく扱えばオシレーター的に使用することも可能。また、VCOのコントロール入力にパッチングしてFM合成のような効果を得られるため、さらにドープな音色を追求できます。EGはADSR方式。シーケンサーはPOM-16と同じものが搭載されているので、詳しくは後述します。

 

 POM-170を本体のキーボードで演奏してみました。コントロール・パネルに付いた角度が絶妙で、ノブを回したりパッチングしたり、アイディアを練ったりするのに集中できます。外部エフェクトのノリも気持ち良く、アンビエントな楽曲でフレーズに深いリバーブを加えても音のピントがズレない印象です。筆者が普段使っているモジュラー・シンセに比べて音色変化を加えられる要素は少ないのですが、その分“フィルターでの音作り”というシンセ本来の醍醐味に集中できます。

美しい倍音を有する3オシレーターのPOM-400。一台でモジュラーの基本を押さえた設計

 POM-400は、矩形波/ノコギリ波/サイン波の3基のオシレーターやローパス・フィルター、1基のLFO、2基のEG、2基のVCAを持つアナログ・モノシンセ。ノイズ・ジェネレーターやサンプル&ホールド・モジュールのrand、16ステップ・シーケンサーなども備え、一台でモジュラー・シンセの基本を押さえているためコスト・パフォーマンスに優れる印象です。

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POM-400をリア側から見てみると、底面に黒い電源モジュールが認められる。単三電池×8本またはメーカー純正のACアダプターで動作可能だ(POM-170も同仕様)

 オシレーターから見ていきましょう。まずはサイン波がかなり特徴的。従来のモジュラー・シンセのサイン波とは多少違ったニュアンスです。わずかに倍音を含むようで、その絶妙な加減によりかなり奇麗な音が出ます。モジュラー・シンセのサイン波と言えば、通常もう少し電子的というか野性的な音で、それが魅力でもあるのですが、本機のサイン波には現代的で都会的な雰囲気があります。ノコギリ波は、高域の倍音がとても奇麗に出る印象。フィルターで加工すれば、リード音などにも十分使えそうです。FM入力があるのも特徴で、そこへサイン波を送るとかなり複雑な音色が得られます。また、LFOなどをパッチングするためのピッチ・コントロール入力も装備。FM入力と併せて、音色変化に使うことができます。矩形波に関しては、POM-170のものと同様です。

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POM-400のトップ・パネル。サイン波を含む3つのオシレーター(写真上方)は、LFOなどをパッチングできるモジュレーション用コントロール入力を備えている。また、写真左の矩形波はパルス幅を調整するための入力、中央のノコギリ波と右のサイン波にはFM入力がスタンバイ。3つのオシレーターの音声を外部ミキサーなどにパラアウトすれば、和音の作成なども行える

 ノイズ・ジェネレーターには、ホワイト・ノイズに加えてソウ・ノイズが用意されています。ノコギリ波を元にしたノイズで、ホワイト・ノイズにフィードバックを足したような過激な音です。モジュレーション・ソースとしてだけでなく、アイディア次第ではフィルターをかけることによって楽音にもなるでしょう。

 

 サンプル&ホールド・モジュールは、1つの入力と2つの出力、外部クロックの入力を装備。入力に何らかの信号を送ることで動作します。試しにサイン波を入力し、出力をフィルター・カットオフのコントロール入力にパッチングしてみましょう。モジュール右下のrateノブを回したりすれば、映画やゲームなどでよく聴く、壊れたロボットの声みたいな音が作れました。

 

 16ステップ・シーケンサーは、クロック出力を2つとCV出力を3つ備えるため、さまざまなパッチングが考えられます。CV出力をVCOのキー入力につなぎメロディを作るのはもちろん、フィルターやサンプル&ホールドに接続すると面白い音やリズムなども作成可能。EG、LFO、VCAはPOM-170と同様のものを搭載しています。内蔵シーケンサーを活用すれば、POM-400だけでモジュラー・シンセの基本ばかりか複雑なこともできてしまうので、かなり楽しいです。

最大64ステップ/64パターンのPOM-16。本体キーボードで直感的な打ち込みが可能

 POM-16は16スロットのシーケンサーです。スロットとはパターンの収納部で、1スロットあたり最大64ステップのパターン×4trを保存可能。ドラム・パターンやメロディを複数の外部オシレーターで鳴らせます。また16鍵のキーボードを備えており、両手で本体を持って演奏すればポータブル・ゲーム機のような感覚でモジュラー・シンセを操作可能。いつも鍵盤を弾くときの手癖から抜け出せるので、普段思い付かないようなフレーズが出てきて面白いです。少し演奏しづらいな、というのが逆に良い効果を生むこともあるのだと実感しました。また白鍵のみ、黒鍵のみ、白鍵+黒鍵、アラビックの4つのスケールが選べるのは、気が利いていると思います。

 

 シーケンスの打ち込みは思いのほか簡単。programボタンを押して打ち込み可能なモードに入り、本体キーボードでステップ入力していくのみです。clearボタンを使えば空のステップを入力できるので、休符を含むパターンの作成、または一度作ったパターンの音価を後で調整するのも容易。また、作成済みのパターンに対してライブ・プログラミングで変更を加えられ、即興で遊ぶうちに良いフレーズが生まれました。

 

 この通り簡単に入力できるわけですが、初めは逆にやり方が分かりませんでした。と言うのも、キーボード上部の各鍵に対応したノブで、各ステップのピッチを決めるものと思い込んでいたからです。それらは各鍵のピッチを変えるものなのですが、変更すると全スロットに反映されるので、メロディの打ち込みなどでは変えない方が無難かと思います。逆に、実験的なことをしたいときには有用でしょう。パターン作成後、ノブを個別に調整するという使い方が良さそうです。

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POM-16のキーボード上部には16個のノブがあり、鍵盤で鳴らす音高を調整可能。オクターブのトランスポーズは、トップ・パネル左のoctボタンと+/−ボタンの組み合わせで行う。ほとんどの要素をトップ・パネルに集約しているが、Pocket Operatorシリーズ用のシンク・アウト、MIDI OUT、POM-170/POM-400からの給電を受ける端子などはサイド・パネルに備わっている

 アルペジエイターは16種類のパターンを備え、ループしながらノートを出力するため、シーケンサーのように動作します。アンビエント風のシンセ・パターンでもクラブ系の上モノでも、ステップ・シーケンサーを使うよりアルペジエイターでの方が、短時間で良い結果を得られる場合がありそうです。

 

 3機種とも、5Vのモジュラー規格に対応しているので、他社モジュールとの連携も容易。ポップスやロックを作っている方は、まずはPOM-170が既存の楽曲に取り入れやすいでしょう。より実験的なことをしたい人、“モジュラー・シンセだけで曲を作りたい”という方はPOM-400から入り、POM-16を買い足していくような流れが良いのではないでしょうか。

 

Chihei Hatakeyama
【Profile】アンビエント作家。米国の名門krankyのほか、各国からリリース。2017年にはSpotifyの“海外で最も再生された日本人アーティスト”に選出された。制作やライブにモジュラーを活用している。

 

TEENAGE ENGINEERING Pocket Operator Modular Series

POM-170:62,700円、POM-400:77,000円、POM-16:31,900円

TEENAGE ENGINEERING Pocket Operator Modular Series

SPECIFICATIONS
●POM-170
▪モジュール:オシレーター(矩形波)、ローパス・フィルター、VCA、エンベロープ・ジェネレーター(ADSR)、LFO(矩形波/三角波)、16鍵キーボード/64ステップ・シーケンサー、スピーカーなど(以上1基ずつ) ▪外形寸法:214(W)×214(H)×80.5(D)mm ▪重量:815g(電池を除く)
●POM-400
▪モジュール:オシレーター×3(矩形波、ノコギリ波、サイン波)、ローパス・フィルター、VCA×2、 エンベロープ・ジェネレーター×2(ADSR)、LFO(矩形波/三角波)、16ステップ・シーケンサー、ノイズ・ジェネレーター(ホワイト・ノイズ/ソウ・ノイズ)、サンプル&ホールドなど ▪外形寸法:214(W)×305(H)×150(D)mm ▪重量:1.45kg(電池を除く)
●POM-170/POM-400共通項目
▪音源:アナログ ▪同時発音数:モノフォニック ▪電源:単三電池×8本またはメーカー純正12V/1Aの電源アダプター(別売り)
●POM-16
▪鍵盤数:16 ▪シーケンサー:最大64ステップ、16スロット(各スロットに1パターン×4tr分を保存可能) ▪電源:単4電池4本またはメーカー純正12V/1Aの電源アダプター(別売り)、POM-170もしくはPOM-400の電源ディストリビューターから給電可能 ▪コントロール出力:CV/Gate、sync(Pocket Operatorシリーズなどに対応)、MIDI ▪外形寸法:214(W)×92.5(H)×18(D)mm ▪重量:288g(電池を除く)

製品情報

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