SOFTUBE Vocoder レビュー:コード・トランスポーズ機能を持つ6ボイス・シンセ搭載ボコーダー

SOFTUBE Vocoder レビュー:コード・トランスポーズ機能を持つ6ボイス・シンセ搭載ボコーダー

 SOFTUBEからリリースされたボコーダー・プラグイン、その名もVocoder。潔いネーミングから、その自信をうかがうことができる(筆者が所属するバンド名はそういう意図で命名したわけではないのでご承知おきを)。名前からそれがどんな機能を持っているのか分からないプラグインもあるが、その心配はこのVocoderには無い。まごうことなき“ボコーダー”なのである。

TRANSPOSE CHORDで和音構成を指定、ルート音はMIDIノートでトリガーできる

 筆者は実機のボコーダーを使用することがあるのだが、デモの段階では即時性を考慮してプラグインを用いている。なので、今回のVocoderには大いに期待を寄せていた。まずは機能をチェックする前にユーザー・インターフェースから見てみよう。WEISSやTUBE-TECHなど、ビンテージ機材のモデリングで知られるSOFTUBEではあるが、Vocoderは同社オリジナルとなっている。しかし、積み重なった知見に基づいているのであろうか、ノブやボタンの配置、ラック・マウントのようなデザイン、質感、色味などからは、まるで元になる実機があるように感じる。

 それぞれの機能を表す言葉もシンプルに構成されている。多機能なプラグインには、音色を調整するにも機能のレイヤーが多く、目的地までなかなかたどり着けないことがままあるが、その心配もVocoderにおいては無い。とても好感触なファースト・インプレッションだ。

 次に中身を見ていこう。Vocoderの心臓部は6ボイス・ポリフォニック・キャリア・シンセサイザー。通常のボコーダー用途であれば、6ボイスあれば十分である。波形はノコギリ波/矩形波/ホワイト・ノイズ/PWM(パルス・ワイズ・モジュレーション)から選択でき、オクターブも上下2段階で調整可能だ。それらの波形とオクターブ選択ボタンに挟まれて、ATTACKとDECAYのエンべローブ調整ノブが鎮座する。その下にあるのは、鍵盤を模したTRANSPOSE CHORDボタン。その名の通り、和音になるようにボタンを指定してルート音のMIDIノートをトリガーすれば、そのコードで演奏できる。常に指定した和音で演奏されるため、MIDIノートを送らずともボコーディング可能だ。オーディオ・トラックにVocoderをインサートするだけでコード演奏できるため、単語のみを楽曲に使用するいわゆる“一発もの”にもとても有効的なボタンだと感じた。蛇足ではあるが、もちろんMIDIノートを打ち込むことで和音を鳴らすことも可能になっている。

キャリア・シンセのセクション。アタックとディケイの調整のほか、オクターブや波形(ノコギリ波/矩形波/ホワイト・ノイズ/PWM)の選択が可能だ。TRANSPOSE CHORDでは、鍵盤のボタンを押して和音を指定すると、ボコーディング音もその和音で再生される(画像はC、E♭、Gを選択中)。入力するMIDIノートがルート音となる

キャリア・シンセのセクション。アタックとディケイの調整のほか、オクターブや波形(ノコギリ波/矩形波/ホワイト・ノイズ/PWM)の選択が可能だ。TRANSPOSE CHORDでは、鍵盤のボタンを押して和音を指定すると、ボコーディング音もその和音で再生される(画像はC、E♭、Gを選択中)。入力するMIDIノートがルート音となる

 左端には、MASTER TUNEノブとPITCH MOD.というスライダーが用意されている。このPITCH MOD.の効き具合が、シンプルながらなかなか勘所をつかんでいた。繊細なビブラートから始まり、強めにかけると“ワブルみ”を感じるドラマチック・ボイスに。個人的には、スライダー中央から少し下あたりが侘び寂びを感じてツボであった。

少ない工程で狙った効果を得られるボコーダー

 次にリシンセシス・セクションを見ていこう。音の明りょうさをコントロールするEMPHASIS、周波数帯域のウェイトを調整するSPECTRAL TILT、エンべローブのレスポンスをコントロールするSHAPEの3つのノブがあり、その横に4/8/12/16/20から選択可能なバンドパス・フィルター・ボタンがある。ボイスをループで流しながらそれぞれの数値を調整していると、効果を分かりやすく感じ取ることができるので、音作りの楽しさもひとしおである。また、中央部に構えるオレンジ色のスペクトラム・アナライザーも郷愁を漂わせており、視覚的に良いアクセントになっている。

リシンセシスのセクション。各帯域のレスポンスを調整するEMPHASIS、帯域のウェイトを変化するSPECTRAL TILT、アタックとディケイの反応をコントロールするSHAPEノブ、バンド数ボタン(4/8/12/16/20)が並ぶ。各帯域のレベルは個別に調整することも可能だ

リシンセシスのセクション。各帯域のレスポンスを調整するEMPHASIS、帯域のウェイトを変化するSPECTRAL TILT、アタックとディケイの反応をコントロールするSHAPEノブ、バンド数ボタン(4/8/12/16/20)が並ぶ。各帯域のレベルは個別に調整することも可能だ

 そのほかにも、破裂音や高域の子音を制御するディエッサーライクなUNVOICEDセクション、ボコーダー効果をサンプリングするリズム・ホールド機能で遊び心をくすぐるFREEZE、偶数帯と奇数帯のL/Rの広がりを調整するSTEREO WIDTHがある。PARALLEL BLENDではドライ/ウェットを調整可能だが、ドライに振り切ってもバイパスではなく位相はボコーディングされたものと同じなので注意が必要だ。

 こういったプラグインは、まずはプリセットから触っていくことが多いのだが、立ち上げた状態のいわゆるデフォルトの設定がとてもよくできている。オクターブを低く設定し、バンド数を少なくするとあっという間にロボティックになり、TRANSPOSE CHORDボタンでコードを指定し、バンド数を16または20にすると汎用性の高いボコーダー・ボイスに。波形をホワイト・ノイズに変えると、あら不思議、まるで耳元でささやかれているようなウィスパー・ボイスに大変身した。このように、少ない作業工程で狙った効果を得ることができるのである。前述の通り、プラグインの使用に即時性を重要視する筆者にとっては、とても強い味方になってくれそうなボコーダー・プラグインだ。

 

フジムラトヲル
【Profile】石川智久、松井洋平とともにTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDとして活動。多彩なハードウェアを活用して作品を制作しており、『おそ松さん』などアニメの楽曲も多く手掛けている。

 

SOFTUBE Vocoder

オープン・プライス

(市場予想価格:12,410円前後)

SOFTUBE Vocoder

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13以降、INTEL I3/I5/I7/XeonまたはAPPLE Siliconのプロセッサー、AAX/AU/VST/VST3に準拠
▪Windows:Windows 10、INTEL I3/I5/I7/Xeonまたはクアッド・コア以上のAMDプロセッサー、AAX/VST/VST3に準拠
▪共通:1,280×800以上のディスプレイ解像度、8GB以上のRAM、8GB以上のハードディスク空き容量

製品情報