RUPERT NEVE DESIGNS 5025 Dual Shelford Mic Pre レビュー:メーカー最上位のチャンネル・ストリップから派生した2chのマイクプリ

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 RUPERT NEVE DESIGNSから2chのマイクプリ5025 Dual Shelford Mic Preが、全世界300台限定生産で発売されました。同社チャンネル・ストリップのフラッグシップ機であるShelford Channelのプリアンプを2基搭載したマイクプリです。定評のあるShelford Channelの派生機種ということで、音を聴く前から期待が膨らみます。早速見ていきましょう。

出力はメイン・アウトと−6dBアウトを装備

 まずは概要から説明していきます。5025 Dual Shelford Mic Preは、名前の通り2chのプリアンプです。入力はXLRのマイク・インのみで楽器用入力はありません。近年のルパート・ニーヴ氏がかかわったプリアンプ回路の多くは、トランスを使わない独自のTransformer Like Amplifier回路を採用していました。その後、理想的なカスタム・トランスRN4012が完成し、5025 Dual Shelford Mic Preに採用されています。マイクロフォン・ラインが直結する設計になっていて、トランスで+15dB、その後の6dBステップのディスクリート・クラスAアンプで66dBのゲインが得られ、その出力をトリム回路で±6dB調整。最大72dBのゲインが得られます。

 

 チャンネルの操作子を見ていきましょう。48Vのファンタム電源のオン/オフを切り替えるボタンと、位相を反転させるフェイズ・ボタンが装備されています。その右隣にはカットオフ周波数20〜250Hz(連続可変)でスロープ−12dB/octのハイパス・フィルターや、RUPERT NEVE DESIGNSならではの機能であるSILKが搭載されています。SILKは倍音成分を付加できるもので、RedとBlueの2つのモードを切り替えて使用可能。後ほど詳しく見ていきましょう。

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チャンネルの操作子。一番左の赤いノブは入力ゲイン、右隣の白いノブは入力ゲインに対して±6dBの微調整を行うトリム。上部で赤く点灯しているボタンは、ファンタム電源のオン/オフ切り替えを行い、オレンジに点灯しているボタンはソースの位相を反転させる。緑色に点灯しているボタンはハイパス・フィルターのオン/オフを切り替えるもので、下のノブでカットオフ周波数の設定が可能。青色に点灯しているSILKボタンは、押すたびに赤/青/オフに切り替わり倍音成分の調整を行う。また、下の白いTEXTUREノブは、SILKのかかり具合をコントロールするものだ

 VUメーターは+4dBuのときに0位置になる標準的なもの。これに加えてクリップの3dB前で点灯するPeak LEDも搭載されているので、プリアンプによってひずんでしまうことを事前に防ぐことができます。

 

 出力段にはトランスRN2042を採用しており、アウトプットはメイン・アウト(+26.7dBu)と−6dBのアウト(+20dBu)があります。これは、後につなげる機材のヘッド・マージンをキープした状態でマイクプリのゲインを上げることで、回路をドライブ気味に使うためにあります。アウトのボリュームを付ければいいのにとも思いましたが、このアウトはアウトプット・トランスの途中(中間タップ)からの出力になっているので、回路を別途増やす必要が無く、音質が劣化することはありません。電源は100~240Vのユニバーサル電源で、世界各国どこでも切り替え無しで使えます。

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リア・パネルの端子群は、左からch2の-6dBアウト(XLR)、メイン・アウト(XLR)、マイク・インプット(XLR)。右隣のch1にも、同様の端子が並んでいる

太くてスピード感のある音像

 それでは実際に音を聴いてみましょう。今回はマイクと声でチェックしていきます。マイクはSONY C-800GとNEUMANN U67を使用しました。

 

 5025 Dual Shelford Mic Preは、ルパート・ニーヴ氏のマイク・プリアンプにおいて超有名なNEVE 1073と同じく、トランス+A級回路という構成。私は1073の音は太さはある一方で、少しスピード感に欠ける気がして、AB級回路やOPアンプの製品を使うことが多くあります。その先入観から、どうだろ~?と疑ってかかってチェックしましたが、5025 Dual Shelford Mic Preはそんな過去の記憶を払拭する、“ハイスピードかつ太い”という素晴らしい音を実現していました。

 

 他社のプリアンプと同じゲインで比べてみたところ、“本当に同じゲイン? 5025 Dual Shelford Mic Preだけ数dB大きくないか?”と感じ、テスト・トーンを入れてゲインをチェックしたくらいです。もちろんゲインは同じでしたが、しっかりとした音像なので聴感上はより大きく感じました。

 

 続いて倍音成分を付加できるSILKを使ってみます。SILKはRedとBlueの2つのモードがあり、Redは中高域から高域の倍音成分が付加されるモード。音が柔らかく、太くなったように感じました。トップ・エンドにきらびやかさが加わるので、ボーカルだけではなく、スネアやアコースティック楽器などにも適しているでしょう。一方でBlueは、低域から中低域の倍音成分が強調されるモードです。音色は明るく派手になる印象でした。ボトム・エンドの補強として、ドラムやベース、ヘビーなエレキギターなどのソースに適していると思います。とは言え、音素材によって音色変化の感じ方が変わってくる部分もあります。ここで示した素材に使わなければならないというわけではなく、実際に音を聴きながら良いと思う設定を探していくのがよいでしょう。エフェクトのかかり具合はSILKボタンの下にあるTEXTUREノブで調整可能です。最大値にしても音像が崩れることが無いので、躊躇(ちゅうちょ)すること無く好みの音になるように調整することができます。またハイパス・フィルターは、かけても音質の変化がほとんど無く非常に優秀です。

 

 私はとらえる音によって、マイクはもちろん、プリアンプも変えるのですが、もし1種類しか使えないということなら、この5025 Dual Shelford Mic Preを選ぶと思います。歌、楽器、そのほか何にでも使えますし、ゲインも0dBからあるので、ライン・レベルにも対応しています。既に録った音をオーディオI/Oから出力し、本機を通してトランスやSILKの音を付加したものをDAWに戻すという使い方もできて、音楽のクオリティ・アップに一役買うと思いました。フラッグシップ機だけあって高価なので、歌録り用に1chのバージョンができるのを期待しています。

 

森元浩二.
【Profile】prime sound studio formのチーフ・エンジニア。これまでに浜崎あゆみ、AAA、DA PUMP、など、ジャンルを問わず数多くのアーティストの作品に携わる。

 

RUPERT NEVE DESIGNS 5025 Dual Shelford Mic Pre

オープン・プライス

(市場予想価格:462,000円前後)

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SPECIFICATIONS
▪入力インピーダンス:2.2kΩ ▪出力インピーダンス:150Ω ▪最大入力レベル:+24.9dBu ▪最大出力レベル:+26.7dBu(MAIN OUT)、+20.7dBu(−6dB OUT) ▪周波数特性:20Hz〜20kHz(±0.25dB)、10Hz〜62kHz(±0.5dB)、5Hz(<<−3dB)、70kHz(−3dB) ▪全高調波ひずみ率:0.0025%未満(1kHz、0dBu)、0.008%未満(1kHz、+20dBu) ▪外形寸法:483(W)×44(H)×234(D)mm ▪重量:5kg

製品情報