「OUTPUT Thermal」製品レビュー:XYコントローラーでディストーションを制御するプラグイン・エフェクト

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 LAに本社を構え、ハイセンスなソフトウェア音源やプラグイン・エフェクトをリリースするOUTPUTより、独自のXYコントロールを採用したインタラクティブ・ディストーション・プラグインThermalが発売されました。ディストーション・プラグインと言いつつも、コーラス/ディレイ/フィルター/フランジャー/リバーブなども収録し、マルチエフェクト的な性質を持ち合わせています。

 

19種類のアルゴリズムから選べるディストーション
自由に組み合わせられるモジュレーション

 Thermalは3つのページで構成されます。まずはオレンジのグラデーションが印象的なメイン画面。円中心の小さな点をグリグリ移動させることで音が変化します。一般的なXY軸グラフ同様、円の右上がXYのエフェクト値最大、左下が最小です。右のMACROつまみでも同じ操作が行えます。その下は必須機能DRY/WETスライダー。その下にある鍵マークをオンにするとDRY/WETの比率が固定され、プリセットを変えたときの音の違いを素早く確認できます。

 

 画面右上の“DEFAULT”をクリックすると、プリセット画面に移動。プリセットは250種類以上あり、楽器や用途別に分けられているので見やすい印象です。お気に入りのプリセットは名前の左にある星印を押すと“FAVORITES”にストックされ、素早く呼び出せます。

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250種類以上用意されたプリセット画面。DRUMS/BASS/VOCALSなど楽器別のプリセットのほか、LOFI/FEEDBACK FX/MIX BUSなど、用途に合わせた項目も多数用意されている

 3つ目はThermalの心臓部と言えるアドバンスド画面。ディストーション・エフェクトやモジュレーションの調整、XYコントローラーにアサインするエフェクトの選択などが行えます。エフェクトはSTAGE01〜03の3系統。各STAGEで周波数レンジが設定でき、レイヤーも可能です。ディストーションは19種のアルゴリズムから選択できます。コーラス、フランジャー、コンプ、ビット・レデューサーなど高精度のエフェクトも9種類用意され、WIDTHでは前後左右の音像、TONEでHi/LowのEQが調整可能です。

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ディストーションやモジュレーションの細かい調整を行うことができるアドバンスド画面。ディストーションを3系統レイヤーして使用することができるほか、モジュレーションやXYコントロールのエフェクトは、ほかの項目のノブにドラッグ&ドロップするだけで組み合わせて使用可能だ

 左下のモジュレーション(MOD)セクションは画期的。青と緑の+マークをドラッグして、MODを加えたいエフェクトつまみ上にドロップさせるだけで適用できます(複数選択可!)。マニュアルでも設定できますが、多数用意されたプリセットを使うのもよさそうです。+マークは右端2つのつまみ下にもあり、こちらはオレンジの円でXYコントロールするものを選べます。MOD同様、コントロールしたいエフェクトに+マークをドラッグ&ドロップで設定完了。複数選択でき、MODエフェクトも対象なので、組み合わせ次第で自分だけの必殺エフェクトも作り出せるかもしれません。

 

幅広い用途に対応するパンチのあるサウンド
ベースや鍵盤が良いステレオ音場に収まる

 実際にAVID Pro Tools内で打ち込みのトラック、バンド曲、ライブのミックスに使ってみました。Thermalはステレオ仕様なので、モノラルのトラックはステレオに変わります。レイテンシーは思ったより少なく、画面の大きさも自由に変えられるので使い勝手も良いです。肝心のサウンドは、立ち上げた時点で音が変わる感じはせず透明な印象。長年Pro Toolsユーザーの筆者にとっては、何か違うDAWを使っているような今までに無い質感で、とても新鮮でした。

 

 ディストーションを加えていくと、ひずんだときの音の粒感は砂のように細かい感じ。今風かつバイト感やパンチもしっかりあり、素材を選ばず幅広い用途に対応できました。豊富なアルゴリズムによりアナログ的ひずみ、デジタル的ひずみを即座に試せる操作性も良い具合です。コーラスやフランジャー、WIDTHなどのエフェクトも単体で使えるクオリティと言っていいでしょう。面白かった点は、ステレオ音場でのすわりが良く感じられたこと。WIDTHなど使わずにベースやキーボードが良いステレオ音場に収まったのは思わぬ収穫でした。

 

 Thermalは実に多様なことができるので、まずはプリセットとXYコントローラー、ディストーション・エフェクトを使い、自分好みのエフェクトを探していくのがよいように思います。筆者もいろいろなプリセットを使いながら理解を深めました。

 

 また、XYコントロールは、オレンジの円の中でオートメーションも描ける(最高!)ので、ドラマティックなエフェクト音を作ったり、1曲を通してじわじわ音を変化させるなど、より能動的な音作りができることでしょう。すべてのクリエイターに一度使っていただきたいプラグインです。

 

福田聡
【Profile】フリーランスで活動するレコーディング/ミックス・エンジニア。ファンクやヒップホップなどのグルーブを重視したサウンドを中心に、堂本剛やSANABAGUN.、福耳などの作品を手掛けている。

 

製品情報

sonicwire.com

OUTPUT Thermal

15,640円

(価格は為替相場によって変動)

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REQUIREMENTS
▪Mac:OS X 10.12以降、AAX/AU/VST対応のホスト・アプリケーション
▪Windows:Windows 8/10、AAX/VST対応のホスト・アプリケーション
▪共通:16GB以上のRAM、400MB以上のディスク空き容量、インターネット環境およびE-Mailアドレス(オーソライズ用)

 

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