「OEKSOUND Spiff」製品レビュー:周波数帯域ごとに処理ができるトランジェント・コントロール・エフェクト

f:id:rittor_snrec:20200807143441j:plain

 OEKSOUNDは、Soothe2と今回取り上げるSpiffという2種類のプラグインだけを出しているニッチなメーカーです。私はSoothe2をバンド幅制限の無いマルチバンドのディエッサーという使い方で、発売当初から歌やギターに愛用させてもらっています。Spiff発売時も早速インストールしてデモ・モードで試用してみたのですが、非常に理解しがたい動作で、あまりピンと来なくて導入することはありませんでした。しかしレビューを書くにあたり再度試したところ、今回はその効果に驚き、Spiffをインストールした後のミックス作業では全曲で使うようになったほどです。

cutとboost の2つのモードを搭載
M/Sでの処理にも対応できる

 Spiffは、EQのような画面で周波数ごとにトランジェントのコントロールが行えるエフェクトです。トランジェントを抑えるcutと、強調するboostの2つのモードを備えています。どちらのモードも画面左側のトランジェント検出を調整するパラメーター内容は共通しており、sensitivityでトランジェントをどれくらい検出するかを決め、decayでcutまたはboost効果の時間的な長さを調整可能。sharpnessは周波数の帯域幅を決め、decay lf/hfではcut/boost効果の長さを低域/高域で変化させることができます。そして、どれくらいcut/boostするのかを決めるのが一番大きなツマミのdepthです。

 

 depthノブの右側のセクションでは、L/RまたはM/Sでの処理を切り替え可能です。stereo linkは、0%のときにはL/RまたはM/Sそれぞれの信号に応じた処理がなされ、100%にすれば2chとも同じ処理が施されます。balanceでは、L/RまたはM/Sの各チャンネルの処理バランスを調整可能。L/Rモードで100/100にするとL/Rで同じ処理がされ、どちらかの数値を下げると、そのチャンネルの処理は少なくなり、0になればそのチャンネルは何も処理されないバイパス状態となります。また、その下にはadvancedというパラメーターが隠されていて、三角マークをクリックすると4つのパラメーターが登場。

f:id:rittor_snrec:20200807150107j:plain

advancedの画面ではresolutionやoversampleなど、より高度な設定が可能。ただし、CPU負荷にもかかわってくるので注意が必要だ

 resolutionは処理時間の分解能、oversampleはリダクション・フィルターの解像度です。oversampleの値が大きいほど周波数に対する応答がスムーズになり、特に低域での精度が向上します。windowは時間分解能と周波数解像度の互いの影響を調整する項目で、トランジェント検出や周波数に対する反応に影響します。3つのモードがあり、Shortは超高速トランジェントの検出に最適です。Longはピアノなどのポリフォニック音源向き。Mediumはその中間で、最も一般的な設定です。

 

 phase modeはminimumとlinearの2種類があります。linearの方が処理による位相変化が無く、音としては良いものになりますが、このadvancedの部分の設定はCPUの負荷が高くなるので、考慮した上で使用するとよいでしょう。phase modeの下側に並ぶのはmixとtrim。mixはドライ/ウェットのバランスの調整です。trimはSpiffでの処理により起きたレベル変動の差を無くすために+12dBから–24dBで音量調整をすることができます。また、その下にあるdeltaは非常に重要なボタン。処理する周波数帯域成分のみを聴くことが可能です。より細かいパラメーター調整をする上で無くてはならないボタンです。deltaの下にあるbypassは、プラグイン全体をバイパスするものです。

5バンドのパラメトリックEQ で
帯域別にエフェクト効果を調整

 次に、Spiffで重要なEQとグラフを見てみましょう。グラフは、信号のどの周波数帯が処理されているかをリアルタイムに示します。EQはローカットと4バンドのパラメトリックEQの計5バンドです。パラメトリックEQは4種類のカーブがあり、Q幅は0.1~10、ブースト/カットは±18dBに対応します。またband listenというボタンを押すことで、その帯域の処理をソロで聴くことが可能です。

f:id:rittor_snrec:20200807150232j:plain

各バンドのパラメーター部にあるband listenをオンにすると、その周波数帯域で処理されているサウンド(原音とエフェクト音の差)をソロで聴くことができる

 SpiffとSoothe2のEQ部分は、実際の音に直接影響しないサイド・チェインEQのようなものです。EQでブーストされた帯域はよりエフェクトを得ることになり、カットされた帯域は効果が減少します。どちらも似たようなプラグインに感じられるかもしれませんが、ディエッサー的な動作を望むのであれば、レゾナンスの調整に特化したSoothe2の方が良いです。また、遅延についてはSpiffはSoothe2の2倍ほどの遅れとなり、Spiffはかなり重い処理をしていると思われます。ディエッサーとしての軽い処理はSoothe2に任せて、Spiffではトランジェントの調整による攻めたアプローチをするのがよいかもしれません。

 

 一つ改良をお願いしたい点は、プリセットを呼び出しているときにグラフがすべて隠れて、どんな処理をしているのかが見えないこと。グラフを見に行くと再度プリセット画面に入り直さないと行けないのが手間なので、ぜひ仕様変更をしていただきたいところですね。

 

 Spiffは、大幅な音色変化を求めるよりも、ミックスの中でのトラックのディテールをトリートメントするタイプのプラグインです。Soothe2もそうですが、OEKSOUND製品でないとできない処理が行え、筆者にとって無くてはならないプラグインの一つになっています。Spiffが登場した2018年の試用でなぜピンと来なかったのかを考えましたが、たぶん試した音色が悪かったのでしょう。トランジェントがあまり無い音色で、各パラメーターを変えてもあまり変化が分からずに、何だか感じがつかめなかったのだと思います。今回はSpiffのプリセットに合わせた音色で試したところ、なるほどそういうことか! と納得しました。トランジェントを調整するプラグインはいろいろとありますが、Spiffは少ないパラメーターで効果的な成分をピンポイントで検出ししてくれるのが非常にありがたい、使い出のあるプラグインです。

 

森元浩二.
【Profile】 prime sound studio formのチーフ・エンジニアとして活躍。浜崎あゆみ、三代目J Soul Brothers、甲斐バンド、AAA、E-girlsなどの作品に携わる。近年はライブ中継ミックスも手掛ける。

 

OEKSOUND Spiff

16,480円(価格は為替相場によって変動)

f:id:rittor_snrec:20200807/20200807143441j:plain
 
 

SPECIFICATIONS
▪Mac:OS X 10.7 以降、AAX/AU/VST に準拠 ▪Windows:Windows 8 以降、AAX/VST に準拠(32ビットのOS はAAX 非対応) ▪共通:OpenGL 2.0に対応したグラフィックス環境

関連記事

www.snrec.jp

www.snrec.jp